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「批判は差別なのか…」中国習近平に侵略されたオーストラリアから日本への警告

プレジデントオンライン / 2020年6月15日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokkai

■コロナ禍で明らかになる豪中対立

オーストラリアが中国との対立姿勢を鮮明にしている。6月11日、オーストラリアのモリソン首相が「中国の脅しには屈しない」と述べたと報じられた。

今年4月、豪とEUが主導で新型コロナウイルスに関する国際調査を受け入れるよう中国に求めると豪中関係は悪化、中国は「制裁」とばかりに豪牛肉の輸入を制限し、豪小麦には80%超という高い関税をかけた。政治的な軋轢(あつれき)が生じると経済で報復するのは中国の常套手段で、日本も2010年、尖閣沖漁船衝突事件後、レアアースの対日輸出を規制するという報復を受けた。経済面での相互依存を外交的手段に使う中国の手法が、今回も使われているのである。

さらに6月5日、中国文化観光省は「オーストラリアでコロナによる人種差別的な発言や暴力行為が増加している」ことを理由に、中国人旅行客に対しオーストラリア旅行を自粛するよう呼びかけた。もちろんこれは自粛という体裁だが、事実上、中国当局による「渡航禁止」通達に等しい。新型コロナ禍においてそもそもの旅行客が激減している中では影響は限定的だろうが、重要なのは中国当局の意思によって人民に指示を出し、相手国の経済にいかようにも打撃を与えられる、という札を見せつけていることだ。

これにも前例がある。2016年、韓国がTHAAD(終末高高度防衛)ミサイル配備を決めると、以降、韓国を訪れる中国人観光客は激減した。2017年3月には中国当局が旅行会社に対し韓国旅行商品を販売しないよう通達したとの指摘もあり、同年に韓国を訪れた中国人観光客数は前年の半分程度まで減少したという。

■中国の戦略は長期的には成功しない

中国の手法は相手国に短期的な打撃を与えるという面では功を奏している。だが、長期的には中国離れを招いてもいる。2010年のレアアース禁輸で、日本は脱レアアースを進め対中依存度を低下させることに成功。韓国も中国人観光客依存を低下させる努力を強いられながら、全体的な観光客数は回復傾向にある。

中国の戦略がいつでも成功するわけではないことは確かだが、これまで中国は資源や安い人件費、何より「13億人の中国市場」というニンジンを各国の市場の目の前にぶら下げておき、政治的な問題が起きればそのニンジンを取り上げると脅して自国への批判を封じようとしてきた。もちろん「政治とはそういうもの」と言ってしまえばそれまでだが、そうした中国の手口はよくよく知っておく必要があるだろう。

■中国「国家安全法」採択非難声明に豪も参加。これは決して当然ではない

今回のオーストラリアに対する制裁・報復も、中国の動機は新型コロナに関する国際調査への反発だけではないだろう。オーストラリアは中国が5月末に全人代で採択した「国家安全法」に対する共同非難声明に参加している。「自由の砦(とりで)として繁栄してきた香港の自由を脅かすことになる」とするこの共同非難声明にはオーストラリアの他、アメリカ、イギリス、カナダが参加。いわゆるファイブアイズと言われるUKUSA協定締結国の5カ国のうち、ニュージーランドを除く4カ国が名を連ねたことになる。

こう書くとオーストラリアがこの非難声明に参加するのは当然のことのように思えるが、実はオーストラリアが米国同盟側に踏みとどまったことは、オーストラリアの事情を知る人々にとって、実はほっと胸をなでおろすような事実でもある。

■米同盟関係の解体における中国の標的は豪と日本

オーストラリアにおける中国共産党、中国当局の「浸透」を余すところなく描き出したオーストラリアの学者・クライブ・ハミルトンの『サイレントインベーション』という本がある。当初出版を契約していた出版社が中国からの報復を恐れて契約を解消、その後2つの出版社から刊行を断られ、2018年2月にようやく日の目を見た本書は、日本でも少し前から話題となっており、このほど待望の邦訳『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社)が刊行された。

いかに中国が人とカネを動かしてオーストラリアの政財界に食い込み、オーストラリア社会・政治・経済を中国の都合のいいように動かしているかを丹念に追ったハミルトン教授は、その中国の目的について「日本語版へのまえがき」で次のように断言している。

「北京の世界戦略における第1の狙いは、アメリカの持つ同盟関係の解体である。その意味において、日本とオーストラリアは、インド太平洋地域における最高のターゲットとなる」

先の中国非難声明へのオーストラリアの参加は、まだオーストラリアに中国に対する抵抗が残っている(あるいは抵抗を取り戻した)ことを示している。そのため、一部の人は「胸をなでおろした」というわけだ。

■2004年、豪はターゲットに定められた

ハミルトン教授によれば、中国がオーストラリアをターゲットと定めたのは2004年8月半ば、胡錦涛政権下の中国で「オーストラリアを中国の『周辺地域』に組み込むべきである」という決定がなされ、以降、豪中は経済的につながりを深め、最終的には米豪同盟にくさびを打ち込む目的を達成すべきだとされたという。この情報をもたらしたのは元在シドニー中国領事館の政務一等書記官の陳用林で、2005年にオーストラリアに政治亡命した人物である。

こうした目的を達成するために中国がどのような手法を用い、どの程度オーストラリア社会に食い込んでいるかをハミルトン教授は丹念に調べ上げているが、「カネは政治におけるミルク」と言ってはばからない中国人経営者や、強力なロビー活動、豪中の歴史的なゆかりや留学生までもが、そうした中国の目的を達成するための「先兵」となっているというのである。

■「人権」を盾に中国共産党は批判を回避する

皮肉と言うべきか、オーストラリアでの浸透をもくろむ中国にとって最も大きな武器が「人権」である。オーストラリアにおける中国(共産党)の脅威を指摘すると、当の中国人だけではなく心あるオーストラリア人からも「中国人に対する人種差別主義者(レイシスト)、あるいは外国人恐怖症(ゼノフォビア)だ」とレッテルを貼られるのだという。中国よりもはるかに人権意識の進んでいるオーストラリアが、人権を武器に中国共産党批判を封じられかねない状況にあるのだ。

近年、経済的に世界第2位の規模にまで成長した中国は、国際機構への参画や国際貢献を積極的に行ってきた。それを「中国のリベラル化」と見る向きもあるが、おそらくそれは間違いだろう。むしろ、中国にとって都合のいい隠れみのとして機能している。例えば中国は後進国への援助や資金の貸し付けを行っているが、これ自体、もちろん善意などではなく、すべては中国共産党体制を強化するために行われていることだ。もちろんどの国も自国の利益のために国際貢献や途上国支援等を行ってはいるだろうが、中国の手法はえげつない。

ハミルトン教授も指摘しているように、スリランカでは、政府がハンバントタ港を中国企業へ売却すると決めたことに対し、現地住民から反対の声が上がった。現地の政治家も「中国の植民地になりたくない」と反発したが、スリランカ政府は中国から借りた負債を返済するために、売却せざるを得なかったのである。

■天安門事件と同じ過ちを犯してはいけない

先進国とは経済的な依存度を高め「中国市場なくして自国の成長はない」と思わせ、依存が進むことに対する警戒論を「差別だ」と言って封じる。後進国に対しては巨大な負債を負わせて「債務の罠」に陥れ、結果的には自国のリソースを乗っ取る。そして一方で「欧米・白人は中国人を差別している」と人権を武器に使いながら、国内ではウイグル人やチベット人に圧政を強いて、香港から自由を奪おうとしている。

日本は中国非難の4カ国の声明には加わってはいないが、「深い憂慮」を表明したうえで、中国大使に申し入れを行ったという(6月8日、菅義偉官房長官会見)。だがこれで十分とはいいがたい。

31年前の天安門事件では、各国が中国に背を向ける中、日本はいち早く中国に手を差し伸べて天皇訪中を実現し、中国を助ける格好となった。隣国関係は重要だが、このことは当時「西側諸国(自由民主主義陣営)で最も弱い国」であった日本が狙い撃ちされた結果でもある。

『目に見えぬ侵略』にあるようにオーストラリアは相当、中国に傾斜したが、コロナ対応と香港デモを機にわれに返るかもしれない。6月4日には豪印の両首脳が防衛協力拡大で合意してもいる。日本はどうか。現在、今年予定されていた習近平の国賓来日は延期となっているが、中止すべきではないか。天安門事件と同じ過ちを繰り返してはならない。

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梶井 彩子(かじい・あやこ)
ライター
1980年生まれ。大学を卒業後、企業勤務を経てライター。言論サイトや雑誌などに寄稿。

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(ライター 梶井 彩子)

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