ビジネス書好きなのに仕事が非効率な人に欠けている本の読み方
プレジデントオンライン / 2020年6月16日 11時15分
※本稿は、三谷宏治『戦略読書〔増補版〕』(日経ビジネス人文庫)の一部を再編集したものです。
■ビジネス書はきれいに読むな!
子どもの頃、私の教科書は落書きだらけでした。
授業中は先生の話も聞いていましたが、教科書を先読みするか、机の下で本を読むか、教科書の空白に落書きするか、外の田んぼや山々を眺めるかでした。
でも、教科書以外の自分の本に書き込みをすることは、一切ありませんでした。「高校生になるまでは買わずに図書館の本を読みなさい」との担任の教えを守り、子どもの頃読んだ本はだいたい借りたものでした。買う本も、親が「月に1冊は好きな本を買っていい」と言ってくれたので、厳選していました。
それらに「落書き」なんてとんでもありません。本はきれいに読むものでした。
その、本をきれいに読む癖は、その後もずっと続き、未だに非ビジネス系の本はそんな感じです。
でも、大学の教科書くらいから別の読み方をするようになりました。難解で読み応えのある本を、情報源として後々役立て、活用するための読み方です。
それは、最初から最後までを「きれいに」読み通すのでもなく、「落書き」しまくるのでもなく、線を引き、(頁の)耳を折り、読む順番を工夫する、読み方の細かな技法(細工)でした。
社会人になって、分厚いビジネス書をじっくり読んだり、逆に薄い業界本を素早く読んだりしながら、それらの技も少しだけ進化していきました。
■技法①「線の引き方」シンプルにエンピツ線。ときどき虹色エンピツ
読んでいて、ここぞと思ったところには線を引きます。
![本棚](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/5/250/img_e50b1d53f7385a472a1f65d73f9f3d87325048.jpg)
目的は、あとで読み返すときに読むべき場所がわかること、だけなので、「エンピツで薄く」で構いません。線を真っ直ぐに、とかなるべくこだわらずにサラサラ引いていきましょう。
手元にエンピツがなければ、ボールペンでも万年筆でもいいですし、色も黒でも青でも赤でもOKです。
三色ボールペン(※)で、とか、蛍光ペンで、とか、やってはみましたが、私はダメでした。そもそもちゃんとそれらのペンを持ち歩けなかったので、話になりません。
※齋藤孝『三色ボールペンで読む日本語』(2005)では、「まあ大事」は青線、「すごく大事」は赤線、「おもしろい」は緑線を引くことで、読解力・要約力が上がると説く。
シンプルに、エンピツ線だけです。ただ、特に気になるところは、その部分を線で丸く囲んだりもします。ダイジそうな「数字」や「キーワード」「事例」などです。
コツは線を引きすぎないこと。1頁には1~2ヶ所限定くらいの気持ちでいきましょう。
たまに、特殊な線を引くことがあります。
芯が虹色の色エンピツで、線を引くのです。発想力系の本や楽しい本、きれいな本のとき、7色の線を引きます。
トム・ケリーらの『イノベーションの達人!』は、システム思考の元祖であるIDEOの本です。本自体、フルカラー頁を多用して華やかですし、とても楽しい内容の本なので、線も楽しく引いていきます。虹色エンピツでゆっくり軸を回しながら線を引くのです。
本にレインボーライン! それだけでテンションが、上がります。
■技法②「耳の折り方・付箋の貼り方」耳折り勝ち抜き戦で下カドも使う
耳を折るのは「ここにいい情報がある!」を示すためです。
![本棚](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/b/250/img_4b91ca50e062f3119bd1cbfae62cac43315200.jpg)
なので、基本的には線を引いた頁の耳を折ることになります。単純です。でも、すごく気に入ったビジネス書だと、20頁以上も耳が折ってあって、「いい本なんだ」はわかりますが、どこが一番良かったのか、すぐにはわからなくなってしまいます。
そんな気に入った本のときには、一読したあとに、耳を折った頁をざっと読んで(線も引いてあるから一瞬で終わるはず)、勝ち抜き戦です。
そして、ここぞという数頁だけ、もう1回耳を折ります。ただし今度は上カドでなく、下カドを。これでベスト・オブ・ベスト頁が一目瞭然になります。
私はやりませんが、受験生でもある三女のお気に入りは「細いプラスティックの透明カラー付箋」です。上手に使えば、
・頁外に少し、はみ出させることで、耳を折るのと同じ効果
・色を使い分けることで、三色ボールペンと同じ効果
・覚えていなかったところにはさらに貼ることで、二重線と同じ効果
なのだとか。なんと一石四鳥です。半透明なので文字が読めなくなることもありませんし、最近は上からエンピツで書き込める材質のものもあります。三女曰く、ダイソーのものがお勧めだそうです。一番細くて使いやすいから、と。幅4mm(長さは44mm)のこだわりです。
■技法③「読む順序」まず序章、あとは自由
文芸書を読むときには必ず「前から順に」です。作者の意図に身を委ねたいからなのですが、一度だけそうしなくて深く後悔しました。
![三谷宏治『戦略読書 〔増補版〕』(日本経済新聞出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/8/200/img_2844657a78ee55afc4f724b1c7ac4b97391118.jpg)
伊坂幸太郎『死神の精度』はオムニバス形式です。主人公の死神や主要設定は同じですが、彼が関わる対象やお話は章ごとに異なり、どこから読んでも支障はありません。そのハズでした。
全6話のうち2話まで読んで、次に最後の「死神 対 老女」に飛びました。それなりに面白く、また3話目に戻り、4話、5話といって気がつきました。この作品が単なるオムニバスではなく、つながっているのだということが。
最終話で初めて、それが明らかになるはずだったのですが、ときすでに遅し。その展開で初めて得られるはずだった深い感動を味わうことは、できませんでした。
普通のビジネス書には、そんな「精緻な全体ストーリー」や「大どんでん返し」があるわけではないので、大抵読む順番は自由です。
論を積み上げていって、前章での知識がないと、後章が意味不明になるものもあるでしょうが、それは目次を見ればわかります。
![本棚](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/9/670/img_19b7a4ba842ff4f088221b94b5fecd1a848964.jpg)
■その本の自分にとっての価値は「序章」を読めばわかる
でも私が必ず最初に読むのは、(あれば)序章です。そこにすべてが凝縮されているからです。
レヴィットとダブナーの『ヤバい経済学[増補改訂版]』で見てみましょう。
・道徳は世の中がどうあって欲しいかを表すが、経済学は世の中が実際にはどうなのかを表す。基本的には世の中はインセンティブで動いている
・遠くのことが劇的な変化につながるときがある。アメリカの若年凶悪犯罪激増予測が外れたのは、(誰もそう指摘しないが)実は中絶合法化のお陰である。合法的で安価な中絶により、犯罪に巻き込まれやすい階層での出生率が下がったから
・専門家はその情報優位を客より自分のために使う。不動産屋さんの営業担当者は、顧客の物件(家)より自分の家を売るときにもっとも努力し時間をかけ、3%(100万円以上!)高く売る
・通念や常識はだいたい間違っている。「選挙はカネ次第」とみんな思っているが、選挙資金を倍つぎ込んでも得票率は1%しか上がらない。国政選挙に年平均10億ドルがつぎ込まれるが、これは米国でのガム消費金額と同程度に過ぎない
・何をどうやって測るべきかを知っていれば、込み入った世界もわかりやすくなる。面白いテーマを裏側から(経済学の手法で)探検するためにこの「ヤバい経済学(Freakonomics)(※)」という学問分野(?)を筆者たちは立ち上げた
※FreakとEconomicsを組み合わせた造語。Freakとは変人の意味。
自分がこの本を、読むべきか・読みたいかは、だいたいこれでわかります。あと、どこからスタートするかは目次と相談しましょう。そのためにも、本の序章は読みとばさず、しっかり読み込みましょう。本のメッセージや難易度、筆者のスタンスや文体(や翻訳)、がチェックできるので。
読み方を、少し工夫するだけで読書の効率が格段に上がります。それはその本を読むときも、読まないと決めるときも、そして読んだ後の活用においても。まずは「線の引き方」「耳の折り方・付箋の貼り方」「読む順番」を意識しましょう。きっと仕事力アップにつながります。
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KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
東京大学理学部卒業。BCG、アクセンチュアを経て現職。INSEAD MBA修了。早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授。著書に『新しい経営学』『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『戦略子育て』『お手伝い至上主義!』など。
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(KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授 三谷 宏治)
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