人材育成のプロが警鐘「経済活動再開後、深刻すぎる人手不足がやってくる」
プレジデントオンライン / 2020年6月27日 11時15分
■「店長にとって飯のタネとは」
「おまえの飯のタネは、人を育てることだ」。
当時の営業部長の一言を今でも覚えている。マクドナルドの店長に就任したときのことだった。「『店長にとって飯のタネとは』と聞かれ、まごついた。『利益を上げることですかね』と答えたら、返ってきたのがこの言葉でした」。
部長の言う通りだった。バブル崩壊、リーマンショック、3.11。サービス・飲食業界には何度も売り上げ急落の激震が走ったが、マクドナルドは徹底したQSC(クオリティー、サービス、クリンリネス)で生き延びた。お客様、仲間への心遣いと笑顔、“人間力”を磨く育成システムがあったからだと振り返る。
今、サービス業界は二重の試練に遭遇している。コロナ禍による経営難だけではない。経済活動が本格的に再開すれば、深刻な人手不足に直面することになる。だからこそ、どんな人も辞めさせず戦力化する“仕組み”が必要と語る。
人材育成のノウハウは長年の経験で培った。マクドナルドでは企業内大学のハンバーガー大学学長に就任。ファーストリテイリングのユニクロ大学責任者を経て、研修事業会社を創業した。
■コロナ時代の上司・部下の新しい関係とは
順風満帆でここまで来たわけではない。マクドナルド時代は口下手で部下の扱いも苦手。昇格していく同僚を横目に8年間、店長のポジションに甘んじた。だが、新人の頃の上司で、後に社長となる八木康行氏の店長としての姿を思い出し、自分を変える努力を続けた。「思わずこちらの顔がほころぶ絶妙な声かけをする人でした」。研修での学びがじわじわ身についたこともある。「(店員に)笑顔がないのは笑顔の大切さを教えていないだけ」の一文は実体験に裏打ちされている。
こまめに声をかけ手をかけないと人は育たないと痛感している。だから“有本理論”では教えっぱなしはNGだ。基準の提示、教育、要求、評価という4つのプロセスを回し、全員の底上げをめざす。「特に評価がついてこないと、頑張っても報われないのか、と意欲を喪失しがちです」。
とはいえ、現在直面するコロナ時代は上司と部下のコミュニケーションの量は減る。そこで、問われるのはメッセージの質だ。昭和式の阿吽の呼吸は通用しない。育成の原理原則を踏まえたうえで、タイミングを見計らい、意識して声かけして初めて“伝わる言葉”になるという。
同時に、誰もが将来に不安を抱く今こそマインドを変えるチャンスでもある、とも話す。「力強いメッセージで中長期の会社のビジョン、育成の方針を伝えれば聴き手の心に響くはずです」。
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1956年、愛知県生まれ。ホスピタリティ&グローイング・ジャパン代表取締役社長。日本マクドナルド、ファーストリテイリングなどを経て現職。著書に『どんな人でも一流に育つしくみ』(商業界)。
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(西川 敦子 撮影=研壁秀俊)
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