テレワーク定着とデフレ再突入で不動産業界「壊滅ドミノ倒し」の恐怖
プレジデントオンライン / 2020年6月12日 14時15分
■日本経済、世界経済は5月上旬にいったん底を打ったが……
このところ、日米欧の株価が上昇基調です。本稿の執筆現在(6月12日)日経平均は2万2000円台、NYダウも2万5000ドル台に回復しました。ドイツの株価指数DAXも5月半ばに10000を割っていたのが1万2000超まで戻しています。
新型コロナウイルスの影響で、実体経済はまだ元の状態からはほど遠い状況ですが、株価だけは上昇しています。
大きな理由は、日米欧の各中央銀行が、市中にじゃぶじゃぶに資金をつけ、日本、欧州同様、米国でもゼロ金利政策をとっているということがあります。
もう一つは、景気の回復期待感です。新型コロナウイルスで「大恐慌以来」と言われるほどに落ち込んだ世界経済ですが、そこにわずかばかりですが、回復の兆しが見えてきたのです。
この状況を端的に表しているのは、本連載でも何度か取り上げた「街角景気」でしょう。「景気ウオッチャー調査」ともいわれますが、内閣府が、タクシーの運転手、小売店の販売員、中小企業経営者などに各地で調査をして指標化しているものです。「50」が良いか悪いかの基準です。
■「景気ウオッチャー調査」2月27.4→3月14.2→4月7.9→5月15.5
昨年10月の消費税増税後の数字も「50」を大きく切って悪かったのですが、コロナウイルスの影響が出始めた2月に、「27.4」と大きく落ち込みました。その後、3月には、この統計を取り始めた2002年以来最低の「14.2」まで下がりました。リーマンショックや東日本大震災直後よりも悪化したのです。4月にはさらに下がって「7.9」と悲惨な状況でしたが、5月は、非常に悪い数字ながらも、「15.5」に戻りました。
つまり、最悪の状況が続いていながらもわずかですが反転したのです。
緊急事態宣言が5月25日に解除されて以降、制限があるものの飲食店が再開し、百貨店も開店しました。しかし、力はまだまだ弱いと言えます。この状況と、この「15.5」という数字は感覚的にはおおむね符合しています。
■米国の4月の雇用減少は、過去に類を見ない「マイナス2068万人」
米国でも、同じような兆候が見えます。一番端的に表しているのが米国の雇用状況でしょう。前回にも説明しましたが、「非農業部門雇用増減数」という数字に世界中のエコノミストたちが注目しています。図表2は、その数字と、失業率、さらには時間当たり賃金を表しています。
米国では、「雇用」が経済の調整弁の働きをし、企業の業績が悪化すると、雇用が一気に減ります。「レイオフ(一時帰休)」という形をとることが多いのですが、4月の雇用の減少は、過去に類を見ない「マイナス2068万人」でした。リーマンショックとそれに続く世界同時不況でも、その間減少した雇用数は合計で836万人でしたから、この4月の減少数は「超」がつくくらいの大変な数であることがわかります。
失業率も3月4.4%から4月14.7%と一気に10%以上も上昇しました。ということは、働いている人の1割が雇用を失ったということです。
■雇用が減少したのは「比較的賃金の低い人たち」
その際に注意してみなければならないのは、時間当たり賃金です。これは、実は、4月は3月に比べて4.7%上昇しています。つまり、これまでにないくらい雇用数が激減し、失業率が上昇する中で、時間当たりの賃金が前月に比べて大幅に上昇しているということは、雇用が減少したのは「比較的賃金の低い人たち」ということを表しています。このことが、今回全米で起きた暴動とも関係していると私は考えています。
一方、5月は、大方の予想に反して、250万人の雇用増です。4月からさらに減少すると予想されていたのですが、増加に転じました。このことが、NYダウが大きく上昇したひとつの理由です。失業率13.3%とわずかに下がりました。時間当たり賃金は前月に比べて下がっています。
消費者の感覚を表す「消費者信頼感指数」と、企業の景況感を表す「米ISM景気指数」も4月に大きく落ち込んだ数字が、5月には下げ止まっています。
コロナの感染がまだまだ予断を許さない米国の状況ですが、政府が経済回復に重点を置き始めた効果が5月には少しですが出てきているということです。日本も米国も、経済の実態はまだまだ弱いと言えますが、急激な落ち込みはいったん底を打ったと思えます。
■デフレ再突入の懸念が台頭、不動産価格は下落へ
しかし、別の問題がこれから大きくなる可能性があります。それはデフレです。私はそれにともなう地価の下落も懸念しています。図表は、日本や米国などの消費者物価の推移です。
日本では、4月に「前年同月比-0.2%」とマイナスを記録しました。短期的には原油価格の下落の影響が大きいですが、コロナウイルスの影響で、世界の物流が滞り、消費も低迷していることを考えると、この先デフレに陥る懸念があります。
実際、日本だけでなく、米国も今年1月は「同2.5%」だったものが4月には「同0.3%」まで下がっており、ユーロ圏も0%に近づいています。アジアでは、台湾やシンガポールは、4月の時点で物価はマイナスとなっています。
日本は、アベノミクスの前に長らくデフレを経験しましたが、デフレは物価下落を通じて、企業収益を下押しし、それが賃金の下落をもたらし、さらにそれが物価を下落させる「デフレスパイラル」という悪循環をもたらす懸念があります。
その際に私が懸念しているのは地価の下落です。デフレ下ではそれが起こりやすいのです。また、日本の人口が大きく減少し始めている中、外国人の投資などがなければ、その傾向は長期化する可能性があります。
地価とも関係しますが、京都や大阪ではホテルバブルが崩壊しています。多くの方は、コロナウイルスの影響で外国人観光客が減ったことが主な原因と考えているかもしれませんが、実際は供給過剰がバブル崩壊の本質です。
京都ではここ数年で客室数が50%も増えたと言われています。訪日客を当て込んで、客室数が増加したのですが、そもそもそれでは経営は成り立ちません。ホテルの採算ラインは、客室の稼働率がおおよそ70%程度ですが、客室数が一気に50%も増えれば、もともと90%程度の稼働があったとしても、おしなべて赤字となります。大阪も同じです。
実際、昨年のホテルの料金は、コロナウイルスの影響がなかったにもかかわらず、京都では大幅下落でした。そこにコロナショックがおおいかぶさったのです。各ホテルはたまったものではなく、京都では財務力の乏しい一部のホテルや民泊では、早々と倒産や廃業が発表されています。
■テレワーク定着でオフィス賃料↓タワマンなどマンションバブル崩壊か
東京で心配なのは、オフィスビルです。コロナウイルスの影響で一気に「働き方改革」が進みました。一部の経営者は、ウイルス騒動が終わっても、在宅勤務が増えた状況を戻さないと言っています。ましてや、収益が落ちた企業が、オフィスを増やすことなど考えられません。一部では、10月から大きく賃料が落ちるともいわれています。なぜ、10月なのか。これは不動産業界の慣例で、半年前にオフィスの退去を通告することが多いですが、4月に現在のオフィスの退去を通告した企業の影響が10月から出始めるということです。
ホテルの稼働も落ちており、当面は回復が鈍いことは明らかです。東京オリンピックも無観客にするという話も出ています。
当然、オフィスやホテルの稼働が落ちれば、タワーマンションを含めてバブル気味だったマンション価格にも影響が及ぶことは必至です。
先ほども述べたように、日本は人口減少国家です。ここ数年、不動産価格は上昇基調でしたが、常識的に考えて、それが長期的に上昇し続けることは考えにくいのです。それが、今回のコロナショックで、「現実」に戻る動きが早まったとも言えます。
いずれにしても、今後の景気の動向とともに、デフレが起こるのかどうかや不動産価格の状況を注意深く見ていかなければなりません。
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小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO 小宮 一慶)
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