「大学中退からずっと無職」を脱したきっかけは、たった一人の友人の結婚だった
プレジデントオンライン / 2020年6月14日 9時15分
■親資産1億超のひとり息子37歳「ひきこもり10年」の脱出ストーリー
ひきこもり状態の家族がいる世帯から受ける家計相談では、当事者である子供が来訪するケースは少ない。だが今回のケースは、当事者であるAさんがファイナンシャルプランナーへ直接相談することを希望し、両親を伴っての相談が始まった。
当事者本人Aさんは、30代後半の男性。両親はともに60代を迎えたばかりである。記事を執筆している時点で、相談回数はすでに3回。後述するように、もともと資産状況に問題のない家庭だが、「唯一の友人への思い」がきっかけで、当事者が就業できるようになった事例としてご紹介しよう。
貯蓄
約1億1000万円(母親が祖母からもらった相続財産が含まれている)
収入
父親 会社員(61歳) 年収約500万円
母親 パート(60歳) 年収約60万円
Aさん(長男)アルバイト(37歳) 年収約100万円
支出
家族全体で年間420万円程度
・戸建ての持ち家で家賃負担なし
・長男の国民年金保険料は親が負担
■大学には1学期も通えず徐々にひきこもり状況は悪化した
まずは、当事者であるAさんの過去を振り返ってみることにしよう。
Aさんは浪人を経て大学に進学したものの、1年生のゴールデンウイーク明けから学校に通えなくなった。本来、人付き合いが苦手なおとなしい性格で、ゴールデンウイークに入るまでに仲の良い友達を大学で作ることができず、「ひとりぼっち」の学生生活を想像すると、登校するのが怖くなったという。
![街の中で一人の男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/d/670/img_cd91ae3a481f2a602982015322f852a3298067.jpg)
学校に行けなくなっても、しばらくは買い物などで外出していたが、同級生が2年生に上がる頃、「自分は進級できない現実」を実感して、徐々に外出も難しくなっていった。
両親は結局、大学2年生の分までは学費を払ったが、1単位も取れていなかったため、大学3年生に進級することは難しいとの大学側の指摘で、退学することになった。
大学に行かなくなってからは、家からほとんど出ない時間が「年単位」で続いていたが、小学校、中学校時代の友人で、唯一連絡を取り続けていた人がいた。
その唯一の友人とAさんとは、20代になっても年に2回程度、食事をしていた。そしてひきこもりのまま30代となった頃、その友人から「実は俺、結婚することになったんだ」という話が出た。
その話を聞いたときは、自分の状況を理解してくれる唯一の存在を失う気がして、しばらくはショックから立ち直れなかったという。
ところが、「結婚式に招待するつもりだけど、出席してくれるか?」と聞かれたことで、一念発起。「親に言えば、ご祝儀は出してくれるはずだけど、彼へのご祝儀だけは自分で稼ぎたい」という意欲が湧いたのだった。
今まで、アルバイトの経験もなかったが、Aさんは自分でアルバイトを探し、採用後、すぐに働き始めた。
この時点まで、ひきこもり状態は10年以上続いており、コンビニに買い物に行く以外は家から出られないくらい状態は悪化していたにもかかわらず、Aさんはいきなりの社会復帰を果たすこととなる。
Aさんが働き始めた事実に、ご両親は喜びつつも、大きな戸惑いを感じたという。
■同世代がいないバイトを探したことが長く続いているコツ
Aさんがアルバイト探しをする際、ポイントと考えたのは以下の通り。
➀同年代の人とはうまく会話できないので、若い世代が少ない仕事であること。
②午前中に起きるのはつらいため、早くても午後から、できれば夕方以降の仕事であること。
➂体調が悪くて休んだとしても、すぐにクビにされなくて済みそうな、それほど人気の高くない仕事であること。
④電車で通うのは難しいので、自転車、あるいは50ccのバイクで通える範囲に職場があること。
これらの条件をクリアし、Aさんが得た仕事は、マンションの夜間管理人だった。
「24時間常駐管理」のマンションで、深夜だけの勤務というのが、彼の人生初の仕事になった。
深夜帯なので、アルバイトにしては時給もよく、で1200円以上になるという。
■ひきこもり10年超の男性が結婚式後の今もアルバイトを継続するワケ
Aさんは週に2回程度のアルバイトを続け、無事に友人への祝儀代を稼ぐことができた。
自分で稼げるようになると、お金よりも結婚式(披露宴)で過去の知り合いに出会うことのほうに勇気が要ったが、それも何とか乗り越え、久しぶりに大勢の人が集まる席にも参加することができた。
![幸せな結婚式](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/f/670/img_efcc61eb0b7c58ffd89e3e8c57874532287190.jpg)
同世代の友人と会話するのが苦手なAさんが窮することなくその場に参加できたのは、おそらく唯一の友人である彼が、Aさんの状況を彼の友人たちに説明してくれていたからではないかと、想像している。
さて、先に紹介した資産状況をご覧いただくと、Aさん家庭は、親が持つ資産(貯蓄約1億1000万円)で、サバイバルプラン(親亡き後も生きていくためのプラン)が成り立つことは想像いただけるだろう。
Aさんのケースでは、1回目の相談時にサバイバルプランが成り立つことを、ご両親、Aさんとも確認ができていた。
Aさんにとっての問題は、兄弟姉妹がいないひとりっ子であり、いとことも疎遠で、親亡き後のサポートを頼める親類が1人もいないこと。そのため、Aさんのサポートを、誰に、どのように託していくかに、相談の焦点は移行していた。
そのような相談過程で、思いがけずAさんが働き始めたことになるが、実はAさんの仕事には続きがある。
結婚式も終わったので、アルバイトを辞めようと思っていたAさんに、雇い先から正社員登用の話があったのだ。
雇用先の人事担当者から、「君はまじめに働いてくれているから、よかったら正社員にならないか?」と誘われたのだ。思いがけない誘いで、Aさんも正社員になることに魅力を感じないわけではなかったが、結果として正社員の誘いは断り、かつ今も同じ職場でアルバイトを続けている。
■「バイト先にはおじいさんは僕を孫のようにかわいがってくれる」
その理由をAさんに尋ねると、次のようなコメントが返ってきた。
「今のアルバイト先にはおじいさんしかいなくて、みんな僕を孫のようにかわいがってくれています。それに、深夜の時間帯しか働いていないので、住民と顔を合わせる機会もほとんどありません。人付き合いが苦手な僕には、とてもありがたい職場なんです。ですが、もし僕が正社員になったら、昼間の勤務を強要されるかもしれませんよね。昼間の時間帯に働くことになれば、いろいろなトラブルに対応しなければならないと思うんですね。僕にはトラブル対応する能力はないので、深夜にひっそりと働くのが向いていると思っています」
ひきこもり期間が長い人は、世間話だとしても、世間の荒波にもまれながら働いてきた同世代から質問を受けるのが怖いと感じるケースが多いはずだ。Aさんもそのように感じたからこそ、同世代がいない職場を見つけて、なんとか社会復帰を果たしたのである。
■「自分の苦手なことを避けられる職場を見つける」が社会復帰のカギ
Aさんの場合、父親がまだ現役社員で年収500万円あり、母親もパート収入が年60万円あること、また、すでに億超えの資産をもっており、経済的に恵まれている背景があるからこそ、「アルバイトのまま働く選択」が可能なわけだが、正社員にこだわって、無理して働き、職場でのいじめやパワハラに遭って精神状態をさらに悪化させてしまうケースはいくらでもある。
自分の苦手なことを整理して、それを避けられる職場を見つけるのも、ひきこもりの社会復帰のプランのひとつの方法になるのではないかと、筆者自身もAさんのケースから学ぶことができた。
![扉に手をかけた男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/8/670/img_28c939bd9b4f9493728da20a18b75cf7377341.jpg)
「今のような職場環境であれば、特に辞める必要性も感じないですし、働き続けていたほうが、ひきこもっていた時よりも体調もいい気がします」というAさん。
今後は、両親のどちらかが亡くなった時の一次相続、両親ともが亡くなった場合の二次相続についての相続対策をはじめ、入院するときに必要となる保証人の確保、また万が一、認知症などで手続きが難しくなった場合に手続きを代行してくれる後見人の確保など、親亡き後のサポートを模索していくことになる。
とはいえ、Aさんはまだ37歳だ。
この先、結婚して伴侶ができたり、子どもを持ったりする可能性もあるはずだ。
冒頭で述べた通り、Aさんのケースは親が持つ資産をAさんが正確に知りたいと願ったために、ファイナンシャルプランナーへの相談につながった。
そして初回の相談からすでに、サバイバルプランの内容を、ご両親、Aさんの三者とも理解できている。
Aさんの年齢と、サバイバルプランが成り立つはずの現実を考えると、親亡き後のサポートについては、ゆっくりと時間をかけてプランを練れば十分だと感じている。今は両親と一緒に、筆者自身も、Aさんが長く働き続けられるように願っているところである。
----------
ファイナンシャルプランナー
「高齢期のお金を考える会」主宰。『ラクに楽しくお金を貯めている私の「貯金簿」』など著書、監修書は60冊を超える。
----------
(ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「500万円の借金」抱えた男が結婚するまでの軌跡 若い頃は「結婚できなかった2人」の最強の相性
東洋経済オンライン / 2024年8月4日 12時30分
-
シングルマザーが年収300万円を抜け出した方法 派遣社員→契約社員→正社員にステップアップ
東洋経済オンライン / 2024年8月2日 14時0分
-
「1年働いただけ」43歳・無職長男に貯金8000万を"完璧"に残す老親…自分にはお金を使わない親は幸福か不幸か
プレジデントオンライン / 2024年7月25日 10時15分
-
【8050問題】東京在住の裕福な「51歳・子供部屋おじさん」、地獄の老後までのカウントダウン…「82歳・年金18万円の父」に余命宣告。息子に事実を明かすとき
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月22日 11時45分
-
親が死んでも生活保護があるし…月収5万円〈フリーター歴35年〉〈親の年金頼り〉の55歳・ひとり息子、余裕が一転、狼狽のワケ
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月7日 11時15分
ランキング
-
1大雨被害なかった鶴岡の主要4温泉、宿泊キャンセル831件…観光客の「庄内離れ」影響か
読売新聞 / 2024年8月4日 12時25分
-
2コンビニでコーヒーの「Lサイズ」を買ったのに「S」のボタンを押してしまいました。店員さんに伝えたら交換してもらえたでしょうか…?
ファイナンシャルフィールド / 2024年8月3日 3時50分
-
3松屋が「200円台」朝定食を値上げ! 代わりに大幅値下げしたメニューとは? 外食チェーンの「朝食」競争に新展開
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年8月3日 6時15分
-
4東京・西麻布に高級老人ホーム、帝国ホテルシェフの料理やサウナ付き大浴場…入居一時金は最高5億円
読売新聞 / 2024年8月4日 17時15分
-
5タピオカブームが終わった今、「ゴンチャ」が新潟県に一店舗だけ出店したワケ
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年8月1日 8時10分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)