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アフターコロナで「勝つ脳」「負ける脳」

プレジデントオンライン / 2020年6月28日 11時15分

コロナ禍への対策として、インターネットを介した「サイバー卒業式」を執り行う大学もみられた。 - AP/アフロ=写真

■アフターコロナで「勝つ脳」「負ける脳」

身体の免疫系は、生まれたときから「無菌状態」だとさまざまな異物、病原体を学習する機会を失う。だから、ある程度はさまざまな環境にさらされたほうがよいと言われる。

人間の脳も同じで、身体と同じように「情報」のレベルでの「免疫系」の作用がある。いろいろな経験をしないと、学習することができない。

身体の免疫が「自己」と「他者」を区別するように、脳の回路も「自己」と「他者」を区別する。そして、自分のこれまでのあり方を守ろうとする。

過去の成功体験にとらわれて、新しい価値観を取り入れることができないのは、典型的な脳の「免疫系」の働きである。せっかく自分を変える、そして新しいものを創造するチャンスがあるのに、それを活かすことができない。それではもったいない。

偶然の幸運に出合う「セレンディピティ」も、脳の「免疫系」が働きすぎると活かすことができない。セレンディピティのためには、まずは行動し、それから気づき、最後に受け入れることが大切である。これまでの自分を守ろうとする傾向が強すぎると、新しい価値観を受け入れることができずに、せっかくのチャンスを逃してしまう。

現代のように次から次へと時代の文法が変わり、新しい局面に出合う状況では、脳の「免疫系」が働きすぎると、これまでの自分を守ろうとするあまり流れにすっかり取り残されてしまう。

■海外への留学を含めた国際化の必要性

例えば、教育のことを考えてみよう。ここ数年は、日本の学校のガラパゴス化が指摘され、海外への留学を含めた国際化の必要性が叫ばれていた。もっと英語を身につけて、グローバルな視点でものを考えなければいけないと多くの識者が指摘していた。

ところが、移動が難しくなって、大学などの教育機関もリモート授業に切り替えるようになってきて、すっかり様相が変化してしまった。そもそも、留学していても、キャンパスに行けない。リモート授業ならば、わざわざ国外に移動する必要もない。結局、どこにいても、学ぶことは同じである。

世界的なパンデミックによるグローバル化の見直しという時代の変化によって、ここ数年の教育のグローバル化という流れに調整が必要になってきた。もちろん、英語が重要なことには変わりがないけれども、ただ単に留学すればいいということでもない。

激動の時代には「本質」を見抜く力が必要になる。物理的に海外に行けば国際化だという表面的な理解を超えて、いかにこの時代に必要な知識やスキルを見据え、それを獲得するか。古い考え方にとらわれていては、新しい輝く自分に変化できない。

脳の「免疫系」の作用と、その緩め方も複雑化している。少し前までは「ガラパゴス」な自分を打破せよと言われていたのが、今度はそのような単純な「グローバル化」のかけ声自体が時代遅れになりつつある。

持続可能なかたちで守っていくべき「自分」と、新しいものを取り入れ、変わるべき「自分」の配合を、「ポートフォリオ」の中でバランスをとっていくこと。繊細で時に大胆な「自分運営」が必要な時代になってきた。

脳の「免疫系」の過度な警戒を緩めるのに最適なのは、「好奇心」。興味を持つ対象に、自分らしさが反映される。新しいものに夢中になることで、大切なものを守りつつ、次第に自分を変えていくことができるのである。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。

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(脳科学者 茂木 健一郎)

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