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「桜は裂ける、椿は崩壊する」その土地の歴史を示す危険な地名・漢字

プレジデントオンライン / 2020年6月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SteveCollender

住む場所を選ぶときには「地名」の歴史を調べておいたほうがいい。不動産コンサルタントの長嶋修氏は、「地名は土地の履歴書だ。そこが過去にどんなところだったかわかる。例えば、地名にサンズイの漢字が入っている土地は、かつて川や沼・池・湿地帯だった可能性がある」という——。

※本稿は、長嶋修、さくら事務所『災害に強い住宅選び』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

■多摩川の両岸に同じ地名がある理由

台風19号による大きな浸水被害があった川崎市の武蔵小杉駅周辺や東京都世田谷区の二子玉川周辺は、ハザードマップで浸水の可能性が指摘されていた地域でした。もともと多摩川は大きく蛇行しており、川を直線に付け替えながら堤防を整備してきた歴史があります。

戦後の高度経済成長期、そうしてできた土地には工場が立ち並んでいましたが、90年以降、バブル崩壊による工場撤退などで土地が売却されました。自治体は周辺の高度利用を意図して高さ制限や容積率などを緩和、そこにタワーマンションが続々建設されるといった、土地利用の変遷がありました。

昔の多摩川は大変な暴れ川でした。江戸時代の文献には洪水の記述が多くあります。堤防がなかった明治以前にはたびたび流路が変わり、時間の経過とともに現在の流路に河川を付け替えて直線にしてきました。「等々力(とどろき)」という地名は世田谷区と川崎市中原区にありますが、明治に分かれるまでは1つの「等々力村」でした。川崎の「等々力」は、多摩川の付け替えによって川の流れが変わり、飛び地になったというわけです。

■被害のあった武蔵小杉のタワマンは旧河道に面していた

同様に「宇奈根」も世田谷区と川崎市高津区の両岸にあり、東京都大田区には「下丸子」、対岸の川崎市に「上丸子」「中丸子」があるのも同様の経緯からです。町名として川崎側に「下沼部」があり、東京側では東急多摩川線に「沼部」駅、東京側に「上野毛」「野毛」、川崎側に「下野毛」という地名があるのもその名残です。

したがって以前は河川だった場所は、泥土が堆積し周囲の土地よりも低く水を含んで湿地になっていることが多く、不同沈下(建物が不揃いに沈下すること)が起きやすい軟弱地盤です。排水も悪く、地震・洪水による被害を受けやすいため、一般には宅地には不適当な「旧河道」が多くなっています。水害に見舞われたタワーマンションはその旧河道に接していました。

■地名でわかる土地の歴史

「土地の履歴書」ともいえる「地名」には、しばしば地域の歴史が刻まれています。例えば「池」や「川」「河」「滝」「堤」「谷」「沼」「深」「沢」「江」「浦」「津」「浮」「湊」「沖」「潮」「洗」「渋」「清」「渡」など、漢字に「サンズイ」が入っており、水をイメージさせるものは低地で、かつては文字どおり川や沼・池・湿地帯だった可能性があります。例えば渋谷駅周辺は、舗装された道路の下に川が流れており、低地で地盤も弱いのです。

内陸部でも「崎」の地名がつくところには、縄文時代など海面が高かった時代に、海と陸地の境目だった地域で、地盤が強いところと弱いところが入り組んでいる可能性があります。東日本大震災の津波被害で一躍注目を浴びた宮城県仙台市の「浪分(なみわけ)神社」は、1611年の三陸地震による大津波が引いた場所という言い伝えが残っています。

杉並区荻窪の「オギ」は湿地に育つイネ科の植物で、古くは一帯に「荻」が自生していました。「クボ」は文字通り窪地です。地域を流れる善福寺川の氾濫によってこれまで何度となく水害に見舞われています。新宿区大久保、国分寺市恋ケ窪なども同様です。中野区沼袋は低湿地で沼地があったとされます。

目黒区には現在暗渠になっている蛇崩川(じゃくずれがわ)という河川がありますが、ここには大水で崖が崩れ、そこから大蛇が出てきたという伝説が残されています。大阪市梅田は「埋田」から転じたとされ、「梅」は「埋める」に通じるようです。

地名は「音」(読み方)で意味がわかる場合もあります。椿はツバケル(崩れる)で崩壊した土地を意味し、「桜」が「裂ける」を意味することがあります。

注意したいのは、近年になって地名が変更されたところです。戦後の高度経済成長期以降に開発された大規模宅地などでは、旧地名から「○○野」「○○が丘」「○○台」「○○ニュータウン」といった地名に変更されている場合があります。

■600円でその土地の歴史がわかる

長嶋修、さくら事務所『災害に強い住宅選び』(日経プレミアシリーズ)
長嶋修、さくら事務所『災害に強い住宅選び』(日経プレミアシリーズ)

東日本大震災に伴う津波に関し「津波は神社の前で止まる」とテレビで話題になったことがあります。福島県相馬市の津(つのみつ)神社には「津波が来たら神社に逃げれば助かる」という言い伝えがあり、近隣の人たちは、小さいころからその伝承を聞いて育ったそうです。実際3・11の津波の際にはその教えに従い、神社に避難した50人ほどが助かりました。

地域にある法務局に行くと、該当地の「登記事項証明書」を1通600円で、土地所有者でなくても取得できます。そこには「田」「畑」「宅地」といった土地の用途区分が書かれています。現在は宅地に見える土地でも、過去をさかのぼれば田んぼだったかもしれず、そうなると地盤は軟らかい可能性が高くなります。

地元の図書館に赴けば、地域の歴史が刻まれた書籍が置いてあることが多く、それらを参照するのも有用かもしれません。また多くの自治体が地名の由来などについて、ホームページで紹介しています。

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長嶋 修(ながしま・おさむ)
不動産コンサルタント
さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。

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さくら事務所(さくらじむしょ)
不動産コンサルティング企業
1999年設立。第三者性を堅持した立場から、利害にとらわれない住宅診断(ホームインスペクション)やマンション管理組合向けコンサルティング、不動産購入に関する様々なアドバイスを行う「不動産の達人サービス」を提供。

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(不動産コンサルタント 長嶋 修、不動産コンサルティング企業 さくら事務所)

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