アフターコロナで「韓国企業」に欠落し「日本企業」にある強さ
プレジデントオンライン / 2020年6月16日 15時15分
トヨタ自動車の品質監査棟で行われる人材育成過程の説明で、コンデンサを手にする作業員。同社の「現地現物」主義にのっとり、各種の部品を用いて人材育成を行う=2010年3月30日、愛知・豊田市の同社本社 - 写真=時事通信フォト
■米中対立が先鋭化するなか、どう動くのがベストか
新型コロナウイルスの感染拡大が、世界経済の景色を大きく変えている。感染拡大阻止のため人々の動きが抑えられ、テレワークの重要性が高まっている。それに伴い、旅行や小売り、自動車などの売れ行きが大きく低下している。
世界経済全体を眺めると、最も注目されるのは米中の対立が先鋭化していることだ。米中の対立激化の背景には、IT先端分野での覇権争いがあることに加えて、トランプ大統領と習近平国家主席が苦しい国内事情を抱えていることがある。11月の大統領選挙を控えたトランプ大統領は、一部共和党保守派や対中批判を強める世論からの支持をつなぎ留めなければならない。
一方、中国では、感染症対策の遅れや経済環境の悪化から、習近平国家主席への不満や批判が高まっている。同氏は内外に指導力の強さを示さなければならない。当面、そうした状況は変わらない。米中対立はさらに先鋭化するだろう。
両国の対立は、コロナショックによって低迷するわが国経済にとって無視できないリスクだ。安全保障と経済面で米中板挟みの状態にあるわが国は、両国から必要とされる技術を磨き、両国から秋波を送られる存在を目指す必要がある。それを実現するのは容易なことではないが、わが国にとってベストな道であることは間違いない。
■コロナ禍でGAFAMとBATHが生み出す変化
コロナショックは、世界の政治、経済に様々な変化をもたらしている。まず、世界各国において、感染対策のために人の移動を制限しながら経済活動や日々の生活を維持するために、IT先端技術の重要性が高まった。
テレワークやネットバンキング、オンラインでの動画視聴や教育、行政サービスの提供など、ITプラットフォーマーとそれを支えるテクノロジーや最先端の技術は、経済と社会の安定に非常に大きな役割を担っている。
それに加えて、医療や医薬品開発の重要性も高まった。ワクチン開発に関しては英アストラゼネカが9月の供給開始を目指している。どこよりも早くワクチンを供給できる企業、および国は、今後の国際社会における発言力を高めるだろう。
また、5G通信サービスの普及などによって、オンライン診療やIoT(インターネット・オブ・スィングス)の技術を用いた公衆衛生体制の強化など、世界全体で新しい取り組みが急速に進んでいる。
そうした変化を生み出しているのが米国のGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)や、中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)だ。
■経済のプロ「日本経済の回復には数年必要」
わが国の景気低迷の懸念が高まっていることも見逃せない。残念ながら、わが国ではIT化の遅れが深刻であることがはっきりしてしまった。
日本企業が用いているオンライン会議システムは米Zoomやマイクロソフトなど、海外に依存している。わが国独自の技術でデジタル化を進めるには至っていない。政府の給付金申請をめぐる混乱を見ていると、わが国はIT技術を経済と社会の安定にどう生かすか、具体策がないといわざるを得ない。
また、日本経済をけん引してきた機械、自動車への需要は世界的に低迷している。それに加えて、今後の世界経済を引っ張るIT先端企業がわが国にはない。当面、日本経済は低迷気味に推移するだろう。経済の専門家の中には、日本経済の回復には数年を要するとの見方が多い。
■対立を煽るトランプと深まる米国社会の分断
それに加えて、米中の対立が先鋭化している。今後の世界経済の成長を支えると期待されるIT先端分野で、米国と中国は覇権(トップの座)を争っている。それは、米国と中国による世界の覇権国争いのし烈化を意味する。
政治面でも米中が対立している。米国では、中国が新型コロナウイルスの感染者数などを隠ぺいし、パンデミックが発生したとの批判が増えている。ある世論調査では、中国を脅威と感じる人の割合が過去15年間で最高に達した。
感染拡大は米国の経済格差を深刻化させ、さらには警察官によるアフリカ系米国人男性の暴行死事件が発生し、人種差別に対する人々の怒りが噴出した。
トランプ大統領は、人々に連帯を呼びかけて国をまとめるのではなく、対立を煽る発言を行った。その背景には、一部の共和党保守派などの支持をつなぎ、支持率低下を食い止めたいとの考えがあっただろう。
その結果、米国社会の分断が深まっている。人種間、民主党と共和党、富裕層と貧困層など、社会の分断は深まり、人々の対立が鮮明だ。
■中国の強さを国民に誇示する習近平
中国では、経済成長の鈍化によって所得・雇用環境が悪化し、習近平国家主席を中心に共産党指導部への批判が増えた。中国は国家資本主義体制を強化し経済の安定を目指すために、米国が停止を求める補助金政策を手放すことができない。
その上に、新型コロナウイルスの感染が拡大し、共産党指導部への批判が勢いづいた。海外からも、中国の情報開示などへの不安や批判が増えている。
習近平国家主席は、政治、軍事、経済で中国の強さを国民に誇示し求心力を維持しなければならない。習氏が米国に譲歩する姿勢をほのめかせば、軍部や共産党の長老などの保守派が弱腰だと批判を強める。習氏は国内の不満を抑え、自らの権力を守るために、対米強硬姿勢をとるしかない状況にあるといって過言ではないだろう。
その考えに基づいて、共産党政権は“香港国家安全法”の制定を批判する米国に対して、人種差別問題への非難を強めてやり返すなど、両国の対立色が一段と強まっている。
■日本が自力で国力を高めるために必要なこと
このように、コロナショックによって世界経済は低迷し、さらには米中の対立先鋭化が世界経済の下方リスクを高めている。わが国は、米中対立の先鋭化に対応しつつ、自力で国力を高めなければならない。
そのためには、わが国のヒト・モノ・カネを用いて独自の技術を磨き、米国からも、中国からも必要とされる高品質のモノ(製品)を生み出すことが不可欠だ。具体的には、半導体の生産に欠かせないフッ化水素、半導体素材のシリコンウエハー、電子回路に欠かせないコンデンサなどがある。
重要なことは、わが国が、高品質の素材や部材を自力で生み出し、世界シェアを高めたことだ。その力に磨きをかけることによって、わが国は米中両方からリスペクトされる存在になることができるだろう。
それが、わが国が米中と適切な関係を構築するために必要な発想だ。わが国は安全保障を米国に依存している。この関係は切ることができない。一方、わが国の経済成長にとって、民間レベルで中国との関係を強化し、中国の流通市場へのアクセスを強化することも欠かせない。
米国からの要請に応じながら中国との経済的関係を強化するためには、海外の要素に依存しない、わが国独自の高品質な、新しいモノを生み出し、その世界シェアを拡大させることが不可欠だ。
■韓国は自分の足で自分の体を守れない
独自の技術を生み出す力は、一朝一夕には身につかない。例えば、韓国の場合、サムスン電子やSKハイニックスなどの半導体シェアの高さは、わが国からの技術移転に支えられてきた。さらに、韓国は経済全体の資金調達を日米に依存している。韓国が自力で新しい、米中から必要とされる技術を生み出すことは難しい。
また、韓国は米国から中国のファーウェイとの取引を見直すよう圧力をかけられている。つまり、韓国は自分の足(技術)で、自分の体(経済と社会)の長期安定を目指すことが難しい。
わが国は蓄積してきた技術力に磨きをかけ、IT先端分野の成長を支える高品位な素材や部材を中心に、競争力の向上を実現しなければならない。それが不安定感高まる今後の世界経済の変化に適応するために大切だ。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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