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「統計上はコロナではないが…」東京の4月死亡者数は例年より1000人以上多い

プレジデントオンライン / 2020年6月15日 13時15分

今年4月の東京都の死亡者数は1万107人で、過去5年間の平均に比べて1058人多かった。なぜ例年より死者が多かったのか。統計データ分析家の本川裕氏は「新型コロナによる肺炎などの死亡だったのに、PCR検査が不十分だったため、コロナ陽性と判定されない死亡が多かったのではないか」という——。

■過去5年の「4月」の東京都の死亡者数は平均9049人、2020年は1万107人

公表されている新型コロナ感染症による死亡者数は、PCR検査が十分に行われていないために、過少となっており、実際にはもっと多いという疑惑がなかなか消えない。そこで今回は、例年より死亡者数がどれぐらい多いかを示す「超過死亡」から実態を検証してみたい。

全国の月別の死亡者数については、死亡届のカウントによる方法で人口動態統計の速報で公表される。これは時期的には翌々月末にならないと分からないが、東京都の死亡数は、「東京都の推計人口」の発表にともなって翌月末には公表される。そのため代表例として、東京都のデータ(4月分)で超過死亡を算出したい。

なお例年であれば、前月の死亡数は翌月末には公表されるが、今年は新型コロナの影響で遅れたようで、4月分の公表は6月11日だった。

図表1に結果数字を示した。図表2はこれをグラフのかたちで示した。グラフには各年のばらつきを見るため、過去5年の毎年の推移も薄い線で示した。

過去5年間の毎月の東京都の死亡者数を平均すると、3月1万271人、4月9049人だったが、2020年の死亡者数は、3月1万694人、4月1万107人となっており、超過死亡数は、それぞれ423人、1058人と算出される。

東京の超過死亡は新型コロナ感染死亡者数を大きく上回る

■なぜ、2020年3~4月には、例年になく死亡者数が多かったのか

すなわち、2020年の3~4月には、例年になく死亡者数が多かった。

例年になく死亡者数が多い場合、通常はインフルエンザの影響が疑われる。しかし、2019/20年冬のインフルエンザの流行は例年より早く3月には収束している。従って、この超過死亡は、新型コロナの何らかの影響と見るのが妥当だろう。

つまり新型コロナ感染症を死因とする死亡だけでなく、それが広がったことによる社会的・心理的影響による間接的な死亡、すなわち、病院の一般患者受け入れ困難、あるいは感染を恐れて病院に行かなかったことによる病死、さらに経済的・精神的な理由による自殺などが含まれるはずだ。

東京都が発表した新型コロナによる累積死亡者数は6月14日時点で314人だが、4月末の段階では120人だった。前述した3、4月の超過死亡数を合計すると、1481人なので、実際の死亡者数は公表値の10倍以上ということになる。

今後、人口動態統計の死因別死亡者数が集計・公表されれば、この時期に肺炎など呼吸器疾患による死亡が特に多かったのか、それとも、全般的に死亡が多かったのかで、超過死亡の要因ももう少し明らかになるだろう。

■超過死亡の多くは、新型コロナを直接の死因と考える理由

筆者は、超過死亡の多くは、新型コロナを直接の死因とするものだと考えている。それは海外の超過死亡の比率に比べて、東京都の比率はこれでも低いほうだからだ。

公表値が実は過少なのではないかという疑問から、海外の有力新聞は、各国の超過死亡をいち早く算出して報道していた。

図表3には、英国のフィナンシャルタイムズ紙が3~4月のヨーロッパ各国の超過死亡および超過率として報道した値を掲げ、今回判明した東京都の値を併記して両者を比較した。図表4のグラフでは、図表3の中の超過率を各国と比較している。

各国の超過死亡と新型コロナ公表死亡者数(2020年3月~4月)
東京だけでも超過死亡はヨーロッパ諸国と比較すると小さい

イタリア、スペインの超過死亡は2万人以上、英国、フランスの超過死亡は1万人以上と、4月末の時点でかなりの人数となっていた。超過率では、イタリアの90%やベルギーの60%、スペインの51%などほとんどの国で東京の7.7%を大きく上回っている。

■「世界のコロナウイルス死は報告されているよりも60%多い」

図表には掲げていないが、フィナンシャルタイムズ紙はニューヨーク市のデータも算出しており、これによればニューヨーク市の超過死亡1万2700人、超過率299%となっていた。

以上のデータを報じた2020年4月27日のフィナンシャルタイムズ紙は「14カ国/地域の死亡統計は通常のレベルと比較して12万2000人死亡者数が多かったことを示しており、これは公式的に新型コロナの死亡数とされる7万7000人を大きく上回っていた」と述べ、記事のタイトルも「世界のコロナウイルス死は報告されているよりも60%多い」だった。

しかし、この14カ所には、上記ニューヨーク市などが含まれており、やや大げさな論評だったとも言える。

実際、図表3に示したWHOに各国が報告しているこの期間について死亡者数を見ると、スペインやオランダなどでは公表数より超過死亡のほうが多くなっている一方で、その他の国では超過死亡と公表値はほぼ同等である場合も多いのである。

■3、4月コロナ人口10万人当たり死亡率と超過死亡の超過率は正の相関

図表5には、公表された3~4月の新型コロナ死亡数を人口10万人当たりの死亡率に変換した値と同期間の超過死亡の超過率との相関図を描いた。

新型コロナ死亡率が高いとされた国ほど超過死亡も大だった

両者の間には、見事に正の相関が認められる。

もちろん、超過死亡の内容は、自宅死など報告されないコロナによる死亡数に加えて、医療崩壊による超過死亡や都市封鎖(ロックダウン)による失業など経済的な要因やストレスによる自殺を含む。

都市封鎖の影響は、逆方向もあるという識者の説をフィナンシャルタイムズ紙は紹介している。すなわち、クルマ通勤による交通事故死や労災死の減少、あるいは大気汚染の緩和による死亡減などの影響もある。

公式的な新型コロナ死亡報告数は、病院外の死亡を把握しにくいなど、いろいろな制約下にあり、過少となりがちである。しかし、その程度は実際の死亡者数とほぼ比例しており、公式報告数での各国比較は意味ないとはいえないことが、こうした相関図からもうかがえるのである。

図表5からは、日本は、最も感染者数が多かった東京だけ抜き出しても、人口当たりの死亡数も超過死亡も非常に低いレベルだったことが、明らかである。

ただし、日本の場合は、超過死亡が公表死亡数の10倍以上と大きくかけ離れており、他国ではオランダの1.4倍が最大の乖離(かいり)幅だったのと比較すると異様である(注)。やはり、少なくとも4月末の時点までの状況として、PCR検査数のキャパシティに限界があったことなどが影響して、死亡者数の把握が過少だったのではないだろうか。

(注)なお、日本がWHOに報告している3~4月の新型コロナ死亡者数は410人だった。同期間の超過死亡は東京23区だけでも、全国の公表死亡数の2倍以上だったことになる。

■超過死亡数が23区でもっとも多いのは練馬区、次いで大田区

東京都の死亡者数は、都内区市町村別に発表されているので、都内の各地域別に超過死亡を算出することができる。そこで、最後に、2020年の3~4月の都内各地域の超過死亡数と超過率を図表6に掲げておいた。

超過死亡数が23区でもっとも多いのは練馬区の115人であり、大田区の99人がこれに次いでいる。多摩地域では、多摩立川保健所管内が135人で最も多くなっている。

プレジデントオンラインに筆者が掲載した4月6日の記事「新型コロナ『感染率』ワースト1位は東京ではなく、福井だった」の図表3でも見たように、新型コロナの感染者数は23区に多く、多摩地域は少なくなっているが、超過死亡数については多摩地域でもかなり多くなっている点が異なっている。

都内地域別の超過死亡数と超過率(2020年3~4月)

一方、超過死亡の超過率は、島しょ部を除くと、港区が14.8%と最も高くなっており、次に、多摩地域の多摩立川保健所管内が14.1%で続いている。都心と周辺部、多摩島しょ部とで目立ったレベルの差は認められない。

■東京都内全域で超過死亡の超過率が高くなっている

上の記事でもふれたように、人口10万人当たりの感染者数では、都心地区から周辺地区・多摩地区に同心円状に値が目立って低くなっていく傾向が見られたが、超過死亡の超過率では、都心から周辺部へかけての傾斜は認められず、むしろ、都内全域で概して超過率が高くなっている様子がうかがえる。

東京都は居住する市区町村別の感染者数は公表しているが、死亡者数は公表していない。感染者数とは異なって、死亡者数の地域傾向は、必ずしも、都心から周辺部に移るほど水準が低くなっている訳ではないのかもしれない。

いずれにせよ、千代田区や渋谷区では、超過死亡がマイナス、すなわち、例年より死亡者数が少なくなっていることからも分かる通り、新型コロナの感染者・死亡者数はそれほど大きなデータではないので、誤差や変動が大きく、地域別の分析には限界があることを理解した上で、以上の地域分析を受け止める必要がある。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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