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文在寅「40年間無事故」…"原発輸出大国"韓国、世界が知らぬ国民からの低い信頼

プレジデントオンライン / 2020年6月18日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tampatra

■韓国で先になかなか進まない原発縮小論議

韓国では現在ハンビッ、ハンウル、月城、セウル、古里の5カ所で24基の原子炉が稼働中(稼動率平均71%、2019年基準)である。

文在寅政権においては、原発推進していた李明博、朴槿恵政権とは逆に、脱原発を中心とする「第8次電力需給基本計画」にエネルギー政策の変更が行われた。文氏は2016年の中央日報のインタビューでOECD(経済協力開発機構)のすべての国が原発縮小をしている中で、我が国だけ世界の趨勢に逆行するわけにはいかないという旨を述べている。約7000億ウォンをかけて改補修されていた月城原発の1号機は2022年まで寿命延長が決定していたが、文在寅政権では2018年6月より稼動を中止、早期の廃炉を決定した。

そして、この決定の妥当性の審議を依頼された大韓民国監査院が監査を引き延ばし、脱原発を目指す文政権への忖度ではないかと批判を浴びていたが、チェ・ジェヨン監査院長が昨今、謝罪の意を表明。早期の監査終了を目指すとした。このとおり原発縮小については現在まで議論が続いており具体的な進展はない。むしろ文政権では前政権を踏襲し、現在の22.5ギガワットを2022年までには27.5ギガワットに上げるためさらに5基を増設中だ。

■なぜ韓国はこれまで国を挙げて原発推進してきたのか

これまで国を挙げて原発を強力に推進してきた背景はそう単純ではないのである。

李明博大統領もその一角であった。2011年、福島原発事故の翌日の3月12日にはさっそくアラブ首長国連邦に飛び、韓国電力公社が主導する韓国企業が受注した原発の起工式に参加、安全性を強調していた。政権は当時「原子炉の輸出が同国経済にとって強力な成長のエンジンになる」(李大統領)と位置づけ、2030年までに世界で200基の新規原子炉建設が予想されるうち、80基の輸出を目指しており、輸出額は4000億ドルを見越していた。

そして同政権下では、政府機関の韓国原子力文化財団が毎年、小中高の教科書に記載された核開発に関連する内容について年に200~300件もの修正を出版社に要求していたことが報じられた。また子供向け原発教育漫画には「地震が来たら原発の下に隠れるのが安全だ」といった、日本の現況からは到底考えられない描写も存在した。

当時、原発事業を管轄する韓国電力公社傘下企業の韓国水力原子力発電(以下、韓水原)が作成した「福島原発事故関連Q&A」という80ページに及ぶ冊子では、福島原発事故の原因や炉の構造などを韓国原発と対比し、安全性をアピールしている。

■「韓国原発は40年間無事故である」

韓水原が「絶対安全」を主張する根拠として、原子炉のタイプが福島はBWR(沸騰水型)であることに対し、韓国はほぼすべてがPWR(加圧水型)であることを挙げている。また韓国原発がIAEA(国際原子力機関)の国際安全基準に沿っている点も安全性を謳う材料となっている。

この韓水原の強気な姿勢は広く知られ、国際原子力事象評価尺度(INES)の基準による「軽微な故障」は過去10年間に110件あるものの、原発稼働以来無事故を標榜。文大統領も2018年にチェコ首相との会談で「韓国原発は40年間無事故である」と強調している。

だが、原発の場合はいかなる些少な故障でも大事故の発端になりうる。また、韓国環境運動連合の資料では人的・環境的被害が存在する明らかな“事故“も報告されている(以下、例)。

・月城原発3号機で冷却水漏出により作業員22人が被曝(1999年)
・霊光原発5号機で配管から放射性物質漏出(2003年)
・古里原発4号機で格納機建造物にて火災、作業員3人負傷(2006年)

■国民の原発に関する信頼度は高くない

そして2012年に月城原発では、過去5年間に1555個の部品の試験結果が捏造されていたことが発覚した。そして現在もっとも危惧されているのが、2013年から指摘されていたハンウル原発3、4号機の老朽化問題だ。

また月城と古里では韓水原と住民が「原発ムラ」さながらの癒着をしている実例もある。

こうしたことからも国民の原発に関する信頼度は高くない。さる6月11日も月城原発の使用済燃料貯蔵施設の追加建設に反対する各市民団体が青瓦台前で記者会見を開き、建設計画の白紙化を訴えた。これに先駆け5~6日に行われた蔚山北区の住民投票には、有権者17万5138人のうち、5万479人が投票に参加、そのうち4万7829人が反対を示した。

■韓国は原発に対する敷地別人口密集度ともに世界一

だが、韓国にとって反原発が重要である大きな理由はほかにある。グリーンピースコリアによると、韓国原発は国土面積に対する原発密集度、および原発に対する敷地別人口密集度ともに世界一。6基以上の原発が一箇所に密集している場所は地球上でたった11カ所しかなく、韓国はそれに含まれるとしている。さらに大型原発半径30km内の人口も世界最多。特に韓国最古の古里原発周辺30km圏内には釜山港、現代グループのお膝元である蔚山など韓国経済の中心地が集まっている。そして仮に南北有事の際はまっさきに北朝鮮の攻撃対象となりうる(もっとも、北朝鮮も無傷ではいられないが)。

一方で、原発輸出は韓国の虎の子でもある。NRC(原子力規制委員会)から唯一、設計認証を獲得するほどの技術力を誇る韓国は現在、チェコなど東欧とエジプトに原発建設の輸出をしており、イギリスとブルガリア北部のヴェレニエ原発建設受注も進めている。2030年までに総2.8GWの原発2基を建設する予定のサウジアラビアは、昨年7月に韓国ほか米国、フランス、中国、ロシアの5カ国を予備事業者に選定した。

■原発輸出大国からの脱落危機を迎えていると

そんな中、文政権のせいで原発輸出大国からの脱落危機を迎えていると主張する向きもある。

受注数でロシア、中国など国際的な規制を受けない非OECD諸国に後れを取っており、2019年のブルームバーグの資料によるとフランス、中国、ロシアと比較した1kwあたりの建設費用は韓国が最も低かった。また、輸出の低下により国内の原子力関連事業も打撃を受けており、460余りの協力事業体の売り上げも7分の1に激減した。原発輸出は韓国経済にも密接に関連しているといえる。

だが原発輸出大国になれなくとも、原爆縮小で需要が高まりつつある解体技術の輸出にも乗り出そうとしている。IAEAによると永久稼動中止となった原子炉は164基であり、廃炉市場は今後も拡大していく。韓国原子力研究院は2016年基準で韓国の解体技術は先進国の最高技術に対比した場合80%の水準であり、これらをさらに拡充するための方策を政府公共機関が推進中である。韓国の強気な姿勢はまだまだ続くだろう。

(安宿 緑)

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