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「野外でのマスク」で熱中症の死者を出すことがあってはいけない

プレジデントオンライン / 2020年6月15日 18時15分

真夏日を迎えた東京・大手町でマスク姿で歩く人たち=2020年6月9日 - 写真=時事通信フォト

■毎年約900人が熱中症で命を落としている

高温多湿に体が十分に慣れていない今の季節、マスクを着けたままだと顔を中心に体温が上がり、熱中症のリスクがある。とくに体温調整の機能が弱まっている高齢者ら健康弱者は、細心の注意が必要である。

梅雨が明ければ、日差しはさらに強くなる。猛暑日や真夏日、熱帯夜が続き、都心部ではヒートアイランド現象も発生する。マスクによる熱中症のリスクはさらに高まる。マスクの着用で体調を崩すようでは本末転倒だ。

熱中症は脱水、けいれん、頭痛、吐き気、めまい、意識障害などを引き起こす。炎天下での運動や作業、気密性の高い部屋や車内は注意が必要だ。厚生労働省の人口動態統計によると、毎年約900人が熱中症で命を落としている。決して侮ってはならない。

新型コロナウイルス感染症の対策でマスク着用が常態化している。ただし、これからの時期はマスクを付けっぱなしにしていては危ない。ときにはマスクを外して、涼しいところで体を休め、スポーツドリンクなど少量の塩分を含んだ水分をこまめに補給したい。濡れたタオルや冷却剤を太い血管のある首やわきの下、鼠径部に当てるのも熱中症の予防に効果的だ。

■マスク着用で完璧に予防することは不可能と考えるべき

マスクによって新型コロナウイルス感染症を完璧に予防することは不可能だ。2月12日付の記事では「新型コロナには効果の薄いマスクを、なぜ人々は必死で求めるのか」「マスクより手洗いを励行すべき」との見出しを付けた。あくまでも予防という観点からは「着けないよりは着けたほうがいい」という程度だと考えるべきだ。

新型コロナウイルス感染症は、くしゃみや咳で飛び散る唾液や鼻水、痰などの「飛沫」によって感染する。ただし、感染を受ける側の感受性の強弱もあり、ウイルスを含んだ飛沫を浴びたからといって必ず感染するわけではない。

飛沫はテーブルや机、床にも落下し、人の手を通じてドアノブや電車の吊革にも付着していく。それらに触れた手で鼻や口元を触れても感染する。

患者・感染者がマスクを着用していれば、飛沫を直接浴びるような感染の大半は防げる。またウイルスで汚染された手で鼻や口を触っても、マスクがガードしてくれる。

■感染予防を前提にマスクを扱うには、相応の訓練が必要

しかし、コロナウイルスは1万分の1ミリという極小サイズだ。よく知られるようになった「N95」といった特殊な規格のマスクでなければ、簡単にマスクの網目を通り抜けてしまう。マスクを着けていれば、飛び出すウイルスの量は少なくなるが、くしゃみや咳、大声での会話を続ければ、相当量のウイルスをばらまくことになる。

さらにウイルスを含む飛沫がマスクの内側に溜まっているのにもかかわらず、マスクを外すときにその内側を手でさわれば、その手に多量のウイルスが付着してしまう。マスクの外側にもウイルスが付着している可能性がある。

感染予防を前提にマスクを扱うには、相応の訓練が必要だ。隙間が生じないよう口と鼻を覆うように着けなければいけないし、内側と外側に手で触れないようにして外さなければいけない。日常生活の中でこの脱着を徹底するのはかなり難しい。

感染予防のためには、マスクよりも手洗いを心がけたほうがいい。必ずしもせっけんを使わなくてもいい。流水できちんと洗えば、手に付着したウイルスは流し落とせる。

■工事や警備の人たちの生命を危険にさらしていいのか

一方、野外でのマスク着用は過剰反応だろう。野外であれば極小のウイルスは風で流されてしまう。4月の緊急事態宣言中には、神奈川県知事などが「海に来ないでほしい」と呼びかけていた。しかし海岸は陸風と海風が常に吹くから、感染が起きるリスクは極めて小さい。海に行く途中で、スーパーや飲食店に立ち寄ることのリスクもあったが、それならば「立ち寄りは避けて」と呼びかければよかった。結果として、海水浴やサーフィンに感染リスクがあるかのような誤解を広げることになってしまった。

ジョギングでもマスクをするべきだという指摘もある。ランナーが大きく息を吐くと、後ろを走るランナーに飛沫感染する危険があるというのだ。しかし、ランナーで混雑した場所ならともかく、そうでなければ感染リスクは極めて小さいと考えられる。いくらなんでも過剰反応だろう。感染症は新型コロナウイルスだけではない。「感染予防の徹底」を前提にすれば、たとえコロナ禍が収束しても、マスクなしでのジョギングは一切できなくなってしまう。

現在のマスクは、実際の感染予防というよりは、「マスクをしていないと不快に感じる人が多い」というマナーになっているのだと思う。マスクには着けているだけで安心できるような特別の魅力があるのだろう。感染症に対する備えの徹底という意味では望ましいが、効果の限界も理解すべきではないか。

たとえば野外での業務を余儀なくされる工事や警備の現場で、マスクを外すことができなければ熱中症のリスクが高まる。「通行人が不快に思う」という理由でマスクをして、生命を危険にさらすことがあってはいけない。過剰反応には注意が必要だろう。

■マスクを着けることが当然のマナーと考える人もいる

6月9日付の読売新聞の社説は「マスクと熱中症 屋外では適切に着脱したい」との見出しを掲げてこうアドバイスする。

「屋外や人の少ないところなどでは、熱がこもるマスクを外し、熱中症予防を優先させることが大切だ。特に体温の調節機能が弱い高齢者や子供は、熱中症のリスクが高いことを認識してほしい」
「厚生労働省は熱中症対策として、屋外で2メートル以上の距離が保てる場合には、マスクを外すよう呼びかけている。日本救急医学会なども、適宜、マスクを外して休憩をとることなどを提言した」

読売社説が指摘するように、夏場のマスクはどうしても熱がこもる。マスクの着用は、熱中症とのリスクと背中合わせの状態にあると理解すべきだ。

「屋外で2メートル以上の距離」と指摘しているが、現実的には距離をいちいち測るわけにはいかない。そもそも風の吹く野外では感染は成立しにくい。不特定多数の人が密集する場所でなければ、野外ではマスクを外したほうがいい。

終わりで読売社説は「常にマスクを着けることが当然のマナーと考える人もいるに違いない。マスクをしていない人が非難を受けないよう、政府や自治体は、熱中症予防のためマスクを外した方がいい局面もあると、もっと周知してはどうか」と提案する。賛成である。高温多湿のシーズンでのマスクの着用には、柔軟さとバランス感覚が欠かせない。

■日本救急医学会はマスクを適宜外して休憩することを促した

次に毎日新聞の社説(6月10日付)。毎日社説は「熱中症に注意が必要な季節となった。新型コロナウイルスの感染防止と両立できるように、きめ細かい対策が必要だ」と書き出し、「コロナと熱中症 高リスクへの対応柔軟に」と見出しをつけている。「きめ細かい」「柔軟な対応」というのが難しい。

「熱中症予防は本来、気温が上がっていく時期に外で汗をかいて少しずつ暑さに体をならすことが有効だ。だが、今年は外出自粛が続き、そうした準備のできていない人が多い。まずは散歩などの軽い運動に取り組むことが大事だ」

身体を少しずつ暑さに順応させていく。これが熱中症対策の基本である。それが今年は外出自粛のせいで難しく、熱中症の被害が多発する恐れがある。マスクの脱着について注意する必要がある。

毎日社説はマスク脱着についてはこう書いている。

「感染防止でマスクの着用が常態化している。その状態で運動していると、心拍数や呼吸数が上昇して体に負担がかかる」
「日本救急医学会などは熱中症予防の提言を発表した。その中で、マスクを適宜外して休憩することを促した。口の中の渇きを感じにくくなるため、こまめな水分の補給もいっそう重要になるという」

やはり一番の対策はマスクを外すことである。そして例年と同じように水分の補給を常に心掛けることだ。

毎日社説は学校現場での取り組み(教室での換気の徹底やマスクの常時着用など)を「リスクをそのつど慎重に見極め、柔軟に対応する」よう求めた後、高齢者の健康対策に警鐘を鳴らす。

「総務省消防庁によると、昨年5~9月に熱中症で救急搬送された人の過半数は65歳以上の高齢者だった。目立つのは独居のケースだ。外出自粛などで近所付き合いも希薄になっているだろう。暑い日には、家族や友人が電話やメールで注意喚起してほしい」

日本は世界で最も高齢化が進んでいる国である。私たちの周囲には多くのお年寄りがいる。コロナウイルス感染症と熱中症がダブルで襲来するこの夏は、高齢者の健康に配慮した行動を取りたい。これこそ、きめの細かい対策のひとつである。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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