豊洲、パチンコの次はホストがターゲット…女帝小池百合子の新たな仮想敵国
プレジデントオンライン / 2020年6月18日 15時15分
■「東京大改革バージョン2.0でございます」
6月12日午後6時過ぎ。東京都庁内の記者会見室に、小池百合子知事は無数のフラッシュを浴びながら入室した。濃紺のジャケットに、緑色のスカーフ。この日に合わせたように、襟足や前髪は短く整えられていた。
「4年前の原点を思い返し、再び都民の皆さんの推薦、推挙を得るための戦いに臨みたい。掲げる言葉は『東京大改革バージョン2.0』でございます」
小首をかしげ、少しだけ上目遣いに見上げるいつものポーズだった。体ごと、ぐるりと報道陣を見まわし、7月に行われる都知事選への出馬を高らかに宣言した。小池氏は2016年7月の前回選挙で約290万票を獲得し、知事に就任した。差配する予算規模は13兆円、4万人の職員を部下に持つ。任期中、政党を立ち上げるなど国政への色気も見せたが、今は「トップダウンでこれだけの組織が動くことに、面白みを感じているようだ」(都庁幹部)。
小池氏は再選に向け、主な公約として新型コロナウイルスの感染第2波に備えた取り組みを挙げた。その上で、感染リスクが高い密閉、密集、密接の「3密」を避けるため、街頭演説はしないと言い切った。新型コロナ対応など公務を最優先し、選挙戦はオンラインで行うのだという。
■あまりに強すぎる小池百合子
こうした選挙では、論戦は低調にならざるを得ない。「危機管理」を前面に打ち出すことで、現職の強みを最大限に生かしたともいえる。立憲民主党関係者によると、5月下旬に実施した都知事選の情勢調査では、蓮舫副代表や、れいわ新選組の山本太郎代表といった想定候補を3倍近くの差で引き離し、圧倒的な強さを見せつけたという。自民党も含め、主要な国政政党は独自候補の擁立断念に追い込まれた。
新型コロナ対応で陣頭指揮を執る姿は、間違いなく再選の追い風になった。
だが、小池氏の新型コロナ対応は、決して手放しで称賛できるものではない。都庁関係者によれば、小池氏は当初、「対策は国の責任」との発言が目立ち、主体性は感じられなかったという。実際、安倍晋三首相が小中高校の一斉休校を要請した2月になっても、小池氏は中国に、約30万着の防護服を無償提供している。
■小池百合子の敵認定で動きは急加速する
潮目が変わったのは、3月下旬になってからだ。東京都内では、感染者が急増し始めていた。3月28日。新型コロナ対応を所管する西村康稔担当相は、土曜日にもかかわらず小池氏を急遽、呼び出した。
「厚生労働省の調査で、都内の感染者はキャバクラやクラブなど夜の繁華街で感染しているケースが多いと分かりました。感染拡大を防ぐため、都知事にはここの対策をしていただけないでしょうか」
政府からの強い要請を受け、小池氏は週明けの3月30日、臨時の記者会見を開く。
「若者はカラオケやライブハウス、中高年の方々はバーやナイトクラブなど、接待を伴う飲食店に行くことは当面お控えいただきたい」
小池氏は業種を名指しして、利用の自粛を呼びかけた。それまでの暗中模索と異なり、「敵」が明確になったからだろうか。以降、小池氏の動きは急加速する。
■東京の経済を殺した犯人は一体誰だ
4月7日、政府の緊急事態宣言を受け、小池氏はどの業種に休業を要請するかの検討に入った。キャバクラやクラブなどの夜の繁華街関連に加え、百貨店やホームセンター、理髪店などを含める案をまとめた。これに対し、政府側は休業要請の対象をもっと絞り込むよう求めた。いきさつを知る政府関係者は「都は一体何を考えているのかと。ここまで広げたら経済がもたないし、そもそも日常生活が成り立たなくなると思った」と漏らす。
政府と都の話し合いが持たれているさなか、都の案は一部の新聞やテレビで報道される。それが既定路線のように扱われた。都庁関係者は「都民の命を守る小池氏と、経済優先で待ったをかける政府。こんな構図を作るため、知事周辺が意図的にメディアに情報を流したのではないか」といぶかる。
政府と対立構図を作り出した結果、休業要請は緊急事態宣言から遅れること4日後、4月11日にずれ込んだ。小池氏は定例記者会見で「代表取締役社長かなと思っていたら、天の声がいろいろと聞こえてきて中間管理職になったようだ」と嘆いて見せた。
■血税4億円は自身の選挙対策に
小池氏はさらに、4億円を投じてテレビCMなどの広告を作成したほか、毎日夜、都庁舎からユーチューブでの生配信を始めた。深刻な表情を浮かべ、語気を強めて「大切な人の命を、守りましょう」と呼びかける。「命を守る都知事」のイメージが定着した。
その間、現場では何が起きていたのか。
急増する感染者に、病床の確保が間に合わない。都の職員はあらゆる医療機関に電話をかけ、病床を空けてもらうよう頼み込んだ。それでも足りず、軽症者はホテルで受け入れることになった。政府関係者によると、どのホテルが使えるかは、観光庁など政府の職員が一軒ずつ、電話で探したという。
都庁幹部によると、小池氏は何らリーダーシップを発揮することはなく、結果として、ホテル探しは政府頼みになった。
■現場を激しく責め立て、裏方には目を向けず
感染者の情報集約も、うまくいかなかった。
感染者を把握した都内の保健所は、都庁の担当部署に書類をファックスで送ることになっていた。だが、1台しかないファックスに受信が殺到し、エラーが続出した。最終的に、都が把握できなかった感染者は200人近くに上った。しかも、集計漏れがあったこと自体、5月になるまで気が付いていなかった。
集計漏れが相次いでいたのとほぼ同じ時期、小池氏はヤフー出身の宮坂学副知事に依頼し、新型コロナ専用サイトを作った。日々の感染者数や入院患者数などを視覚的に表現したといい、ソースコードを公開することで他自治体でも活用できると触れ込んだ。
小池氏は「感染状況を示す正確なデータの公表は都民の安心のために欠かせない。それを担保するのがこの仕組みだ」と豪語したが、足元では正確な数字の把握すらできていなかったのだから、皮肉というほかない。
5月に担当の幹部職員から集計漏れがあったと報告を受けた際、小池氏は激しく責め立てたという。地味な裏方仕事には、最後まで目を向けることはなかった。
■「小池百合子のせいで、夜の街は死に絶えますよ」
6月に入り、感染者の発生は徐々に落ち着いてきた。小池氏は図書館や百貨店などの休業要請は早々に解除したものの、ライブハウスやキャバクラなど、夜の繁華街の店への休業要請については「政府の方針を待つ」と繰り返し、なかなか時期を示さなかった。休業要請をどの範囲にかけるかで、政府との対立も辞さなかった4月とは打って変わった恭順ぶりだった。
「命か経済か」と政府に迫って支持を広げた結果、身動きが取れなくなっていたともいえる。このフレーズは確かに分かりやすく、訴求力もある。だが、経済的に立ち行かなくなれば、自殺を選ぶ人は出てくる。経済は、簡単に命の問題に変わる。小池氏はそれに気付いていながら、目をそらした。
新宿・歌舞伎町のホストクラブ経営者は、悲痛な声で訴える。
「2カ月営業をストップしたら、死ねと言われているのと一緒。もう立ちゆかない。休業要請を厳密に守っていたら夜の店は死に絶えますよ。知事はその辺、分かっているんでしょうか」
(プレジデント編集部)
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