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韓国「慰安婦支援団体」に激怒する日本人を、世界はどう見ているのか

プレジデントオンライン / 2020年6月19日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aleksandr_Vorobev

■慰安婦支援団体の内紛。これはよくある話

正義連(日本軍性奴隷制問題解決の為の正義記憶連帯=旧挺身隊問題協議会=旧挺隊協)の事実上の「内紛」が日本でも大きく報道されている。簡潔にまとめれば正義連内部で不正会計疑惑があり、そこに韓国国会議員も関わっているのではないか、という問題である。

正直言ってよくある光景だ。人権、反権力、女権、あるいは愛国など様々な大義名分を掲げる政治団体の内部には、常に権力抗争と男女関係のトラブルと金銭問題が付きまとう。これは洋の東西を問わず、である。

断わっておくがこの問題はあくまで韓国の国内問題で、よって日本政府は公式に正義連の問題についてコメントすることは無い。日本の新左翼運動の中で内紛が起こっても韓国政府が何も言わないのと同じである。

■慰安婦支援団体に関する右翼のトンダ勘違い

しかし憂慮すべきは、正義連問題を受けていわゆる日本のネット右翼が「ほら見たことか。慰安婦問題なんて捏造だったのだ。慰安婦などいなかったのだ!」とやおら発奮していることである。いかにも韓国国内では正義連問題は連日大騒動である。しかし韓国内での報道の中で、正義連内部の不正疑惑を追及しようという動きは百花繚乱しているが、慰安婦の存在を否定したり、正義連が行ってきた日本軍糾弾の姿勢を否定したりする動きは全く存在していない。ここを日本の右派は全く勘違いしている。

正義連の方向性と、その不正会計疑惑は全く別個のものとして報道されている。正義連の中で内紛や不正疑惑があっても、それが慰安婦の存在を打ち消すことにはまったくなっていないのである。

■無知をさらけ出す残念なコメンテーター

あいちトリエンナーレ「表現の不自由展」で慰安婦をモチーフにした少女像が物議をかもしたことは記憶に新しい。何を以て芸術とするのかという問いには答えはないが、曰く右派界隈はこの少女像に対して「慰安婦は朝日新聞の捏造である」「慰安婦など存在しない」「慰安婦はただの売春婦だから何も問題はない」という論調が圧倒的大多数で、私がある番組で共演した自称エコノミストなど、近代史の勉強も全くしていない分際で「少女像を許容するとしても、その片手には札束が握られていないとおかしい!」などと言い放った。おかしいのは貴方の方だろう、と思わず突っ込みを入れてしまうほどの無知をさらけ出している始末なのである。

日本の右派における慰安婦問題への認識とはこの程度にすぎない(――そして彼らは従軍慰安婦という呼称を避け、“追軍売春婦”という言い方を好む)。しかし戦時に日本軍が強制力を以て本国や朝鮮、台湾出身の女性を慰安婦としてその用に供したことは事実で、それは揺るがすことのできない歴史的真実である。

問題を、順を追って整理してみよう。第2次大戦当時、大陸中国を含めて南方戦線に大きくその戦域を拡大させた日本軍は、当時の隠語「ピー屋」として、慰安婦を各地に帯同させた。もちろん、そこで働いていた女性たちには軍から給与が支払われている。しかし給与を支払ったから問題はない、という認識は偏向である。その給与の支払いは軍が発行する紙幣=軍票で行われたり、日本円にしても予め指定された貯金通帳に入金されたりしたのが一般的であった。

■朝日新聞の捏造にどれほど意味があったか

この何が問題なのかと言えば、軍票は日本軍の劣勢とともにインフレになり(――当たり前だが、軍票の信頼性は日本軍の信頼性とイコールだから)、敗戦と同時に無価値になったからだ。他方、日本円は当然これまた日本の敗戦と同時にハイパーインフレ状態となり、慰安婦が必死にためた貯金は紙くず同然となる。「慰安婦に給料を支払ったから問題はない」という意見はここで完全否定されるのである。

また日本軍による強制性だが、「日本軍が韓国・済州島でトラックにのせて婦女子を強制連行した」という吉田清治の証言は、証言当初から近代史家によってその信憑性が疑問視されており、これをくだんの済州島で現地調査を行い、偽証であると早い段階で認定したのが実証史家の大家である秦郁彦である。が、秦は吉田証言を全否定しているが、慰安婦の存在を一切否定していない。あくまで吉田の言っていることが嘘だというだけの話である。

ここで問題になるのが朝日新聞の報道である。ご存じの通り朝日新聞は吉田清治の証言を真実だとして複数回紙面に掲載した。後に撤回したとはいえ、当時からその信憑性が疑問視されていた吉田証言を何の疑いもなく紙面に載せたという事は、これは確かに朝日新聞の落ち度である。日本の右派はこれを以て「慰安婦は捏造だ」というが、しかし国際社会は日本軍の戦時性暴力を吉田清治の嘘を以て見直すという機運には全くならなかった。

■捏造があったのところで崩れない真実

なぜなら国連による戦時性暴力報告書、いわゆる「クマラスワミ報告書」(1994年)には、吉田清治の証言が「短く二か所」登場するものの、吉田証言が無くてもこの報告書は十分すぎるほど成立するからである。「クマラスワミ報告書」はWEBでだれでも見ることのできるPDFとして日本語訳も公開されているが、日本の右派は「国連は反日」などと決めつけ、この報告書の日本語訳を全く読んでいない。もちろん、戦後も半世紀程度たった時点で造られた報告書であるから元慰安婦の証言に忘却点、事実誤認、誇張はあるだろう。

しかしながら日本軍が従軍慰安婦を広範な戦線に帯同させていたことは事実なのである。そしてその過程で、仲介業者等が半ば詐術を以て朝鮮や台湾の女性を、実態は慰安婦業務である旨の事実を隠して勧誘を行っていたこともまた事実なのである。これを「広義の強制性」という。日本の近代史家も、欧米の戦史家も、「日本軍が女性の首根っこを摑まえて無理やり拉致して慰安婦にした」などという無理筋なストーリーについて誰も事実だと思っていない。そんなことを信じている者は誰もいない。

■慰安婦問題を巡る、韓国側の“無理筋”とは

だがその「広義の強制性」の中には日本帝国内における被支配圏(朝鮮、台湾等)の厳然たる所得格差と貧困が背景に存在しており、そういった貧困や格差の中、やむなく女性たちが戦時性暴力の中に組み込まれていったことは揺るがない事実なのである。そしてそういった悲劇の女性たちが、あの戦争中沢山存在したことは、戦後すぐの段階ではしいて声を上げるという社会の雰囲気が醸成されておらず、しかし日本でも朝鮮でも台湾でも、そうした女性たちの存在は一般に知られていた。よって秦はこれを「(慰安婦は)点景として存在した」と述べているのである。

1965年の日韓条約で、日本は朝鮮統治時代に半島に残留してきたインフラや財産等の請求権を放棄するとともに、韓国側も日本の被支配時代における損害賠償請求権等を放棄した。このようにして、戦後の日韓関係は再スタートした。日本側は慰安婦問題について常に、「日韓条約で解決済み」と主張する。理屈としては筋が通っている。一方韓国の進歩派は「日韓条約が締結された当時、韓国は朴正熙の軍事政権であり協定は無効である。少なくとも個人請求権は放棄されていない」とする。流石にやや無理筋である。

■自らが日本政府の公式見解を否定する右翼たち

しかしながら日本が朝鮮半島を植民地統治した事実は揺るぎが無く、この問題で日本が道義的に加害者の責を負うことはだれが見ても明白である。よって両国の歩み寄りと交渉の末、2015年にいわゆる慰安婦日韓合意がなされた。その合意文章の中で、日本政府は「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している」と明記した。その後、韓国側の政権交代で事実上この協定が破棄されるに至ったが、結局のところ日本政府は軍の関与も、慰安婦の存在も、戦時性暴力も認めている。こういった問題が起こるたびに「慰安婦は捏造だ」とか「慰安婦はいなかった」などの大合唱が日本の右派から起こるのは、自らが日本政府の公式見解を否定するのみならず、国際社会に対して日本の右派は歴史修正主義者の衆にすぎない、とのイメージを与えることになり逆効果に他ならない。

■最終的な着地点は…

むろん、私としては心情的な部分はあるだろうが、韓国政府が慰安婦日韓合意に戻ることを期待している。最終的にはそこしか着地点は無いと考えるからだ。しかし歴史認識とは加害者、被害者どちらか一方の視点で語られるものでは無い。多面的な認識を持たなければならない。

もし仮に、日本が中国共産党の植民地として35年間統治されたとする。消費税はゼロになり福祉は充実し、地方の疲弊は概ね解消された。だが中国共産党が勝手に始めた戦争に日本女性が従軍させられ、そこに不服ながらも女性側の同意や、給与支払いがあり、条約が締結されて相手方が「法的に解決済み」としたとしても、日本大衆は中国共産党に何のわだかまりも持たないと言えるだろうか? 中国人民解放軍に従軍した同胞女性に「あれは単なる売春婦だ」などと下品な言葉を投げつけられるだろうか? そういった想像をしてみた後、それでも「YES」と述べる者のみ、韓国政府に石を投げよ。歴史とはそんなに単純なものでは無い。

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古谷 経衡(ふるや・つねひら)
文筆家
1982年、札幌市生まれ。立命館大学文学部卒。保守派論客として各紙誌に寄稿するほか、テレビ・ラジオなどでもコメンテーターを務める。オタク文化にも精通する。著書に『「意識高い系」の研究』( 文春新書)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)など。

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(文筆家 古谷 経衡)

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