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コロナ対応を「感染症の専門家」にしか聞かない日本人の総バカ化

プレジデントオンライン / 2020年6月19日 9時15分

記者会見でクラスター対策について説明する新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長=2020年5月29日、東京・霞が関の厚生労働省 - 写真=時事通信フォト

新型コロナウイルスの対応を巡り、政府は「専門家会議」の見解をたびたび利用してきた。しかし、それでよかったのだろうか。精神科医の和田秀樹氏は「安倍晋三首相を含む政府首脳は、偏った意見だけを採り入れるという思考停止に陥っている。これこそが私がずっと主張している『バカ化』という現象だ」という――。

■「バカ化」している安倍政権にコロナ第2波対策を任せられるのか

私は本連載で新型コロナウイルス感染拡大の対応をする政府を批判してきた。なぜなら、安倍晋三首相を含む政府首脳が、感染症の専門家の話ばかりに耳を傾け、半ば言いなりになっている印象を受けたからだ。

彼らが国民に要請した「ステイホーム」政策を立案する上で、感染症以外の専門家や医師の意見を求めることはなかった。私は、精神医学的なことや免疫学的な悪影響をほとんど考えない「とにかく家から出るな」という対策がいちばん正しい解決法とは思えなかった。

自宅に閉じこもり続けることによって引き起こされる、うつ病やアルコール依存、またロコモティブシンドローム(その後の寝たきり状態を含む)などのリスクや、経済への影響などを最小限に抑える方法を準備するため、感染症以外の専門家の声を聞くべきだった。それが私の考えだ。

だが、私は私の考えのみが正しくて、感染症学者や政府の言うことが間違っていると言いたいわけではない。そうではなく、いろいろな角度から情報を集めるための材料を国民に提供すべきだと思ったのだ。

■「異なった視点による複数の見解を総合的に判断」こそ重要

コロナとは別の話だが、「異なった視点による複数の見解を総合的に判断して結論を出すことの重要性」を感じさせる案件が5月末にあった。

5月28日、全国で130店舗以上を展開するビジネスホテルチェーン「スーパーホテル」の支配人・副支配人だった男女が、記者会見を開き、未払いの残業代など計約6200万円を求め、東京地裁に提訴したことを報告した。

これを受けて、「『24H労働、手取り月10万円』住み込みの“名ばかり支配人”、スーパーホテルを提訴」(弁護士ドットコム)といった記事も出たため、多くの人々が同ホテルを批判している。

業務委託契約で働いている支配人と副支配人の主な訴えは、自分たちは厳しいマニュアルで縛られ、実質24時間労働であり、ホテル従業員のアルバイトに払う金を差し引くと手取り月10万円程度でしかなく、ホテルに未払いの残業代を払え、という内容だ。契約解除の無効も求めている。

同ホテルは、顧客満足度を扱う調査会社J.D.パワーの「ホテル宿泊客満足度調査」の1泊9000円未満の部門で5年連続「宿泊客満足度1位」になっている。

たまたま私の親族が同ホテルで働いていたので、聞いてみた。すると、ホテル側は、この男女に対してアルバイトの人件費などを含めて毎月約130万円を支払っていたが、ほとんどバイトなどを雇った形跡がなく、きちんと仕事をしないのでホテルの稼働率がとても低かった、ということだった。

■「一方だけの見解」を報じることが冤罪を引き起こすこともある

私は、身内から聞いたこの話をそのまま信じるつもりはない。だが、この件を報道した記事には、いささか違和感を覚える。前出の弁護士ドットコムの記事には、ホテル側の「訴状が届いていないので、現段階ではコメントを差し控えさせていただきます」(5月29日時点)というコメントも掲載されている。

しかし、こうしたトラブルは双方に言い分があり、裁判ともなれば、裁判官がそれらの見解を詳細に検証したのち判決を出すものだ。よって、会見を開いた「片方の意見だけ」を記事にするのはいかがなものかと感じたわけだ。

ニュースやジャーナリズムのコンセプトが光ります。マイクロフォン、新聞絶縁型
写真=iStock.com/Bet_Noire
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bet_Noire

刑事事件も同じだ。なんらかの事件で犯人が逮捕されたら、テレビや新聞は警察からの情報をもとにそれを報じる。警察は、自分たちが捕まえた容疑者を犯人と信じ、裁判でも勝ちたいと思うから、当然、自分たちに有利な情報しか流さないだろう。実は、この人が無罪かもしれないというような証拠がみつかったとしても、それをマスコミに伝えるとは思えない。それは決して好ましいことではないだろう。なぜなら、容疑者や被告が真犯人であるかのような報じられ方をすると、一般人である裁判員などに予断を与える可能性もあるからだ。

つまり、こうした「一方だけの見解」を報じることが冤罪を引き起こすこともある。

■名経営者は「情報の偏り」を回避するための行動をとった

「賢い人をバカにしてしまうことがある」というのが本連載の一貫したテーマだが、私のみるところ「情報の偏り」によって、本来賢い人がそれ以外の選択肢や考えを思いつかなくなってしまうケースは少なくない。

そうした偏りを防止するため「名経営者」と言われる人は、周りにイエスマンばかりを集めるのでなく、悪い情報をきちんと伝えてくれる人を置いている。

例えば、ヤマト運輸の中興の祖である小倉昌男氏は、悪い情報は労働組合に集まるからと、あえて経営陣にとってうっとうしい存在である労組を大切にしたという。

「ミスター円」と言われた榊原英資財務官は現役時代の1991年から2001年までの10年間で為替の売買益で1兆円、評価益や金利差を合わせると9兆円の利益を出したと言われるが、彼の情報収集法も情報の偏りを避けるものだ。彼は渡米するたびに、もっとも楽観的なエコノミストと、もっとも悲観的なエコノミストと会っていたという。そうすることでたとえば円相場の振れ幅がわかるからだ。

このように情報というものは集められる限り、多方向から集めたほうが、判断の精度が上がるはずだ。賢い人でも偏った情報しかもっていなければ正しい判断はできない。

■日本のテレビ局も「バカ」化している

がんになって手術を受ける際に、セカンドオピニオンを受ける人が増えているのはなぜだろうか。これは、いくら主治医が名医でも、一人だけの情報で判断するのが危険だと考えるからだろう。

私ならセカンドオピニオンどころかサードオピニオンやフォースオピニオンを求めたいくらいだ。複数の医師が勧めるやり方のほうがより信頼できると考えやすいからだ。

「ワンオピニオン」のみを信じた結果が吉と出ればそれでいいが、問題は結果が悪かった時だ。主治医の言いなりになって手術を受けたのか。それとも自分なりに多方面から意見を求めた上で受けたのか。それにより、後悔の度合いは違うはずだ。

■警察やお上の発表をそのまま垂れ流すメディアの危険性

話をコロナ騒動に戻そう。

冒頭で触れた、コロナ対策で感染症専門家に大きく依存する政府の姿勢が変化しないのは、メディアの報道の仕方にも問題があると私は考えている。

日本のメディア(特にテレビ局)は意見が似ていて、どれも同じように見える。それは視聴者の思考停止化を促し、バカ化させる要因にもなりうる。

テレビ鑑賞-XL
写真=iStock.com/PhotoTalk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PhotoTalk

現在、地上波の在京民放キー局は東京MXを含めてもたった6局だ。

アメリカは保守的なFOXのようなチャンネルもあれば、政権批判が当たり前になっているCNNのようなチャンネルもある。局によって見解が全く異なる。視聴者は多様な言論から自分の嗜好で選ぶこともでき、同じニュースに対して、いくつかの局の言説を比較することもできる。「言論の自由がない」と日本人が批判する中国でも30局くらいから選べる。

それらに比べると、明らかに日本のテレビ局は画一的な報道スタンスと言わざるを得ない。

「記者クラブ」制度もあいまって、警察やお上の発表をそのまま垂れ流し、正しい情報のように国民に思わせることは極めて危険だ。そうした環境だからこそ、今回のコロナ禍において「ステイホーム」以外の対策を訴えた局がなかったのではないか。

新規感染者が出続け、第2波がやってくると言われている中、コロナへの対応をどうすべきか、今後も国民が悩む場面は多いに違いない。その際は、「偏った意見」ではなく、なるべくいろいろな情報に接するべきだということだけは申し添えておきたい。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

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