中印紛争、尖閣圧力…トンデモ中国習近平の息の根を止めにかかる米国の作戦
プレジデントオンライン / 2020年6月22日 15時15分
■中国インドの武力衝突、尖閣圧力…
6月15日中印国境地帯でインド軍・中国軍の国境紛争が発生し死者が発生する事態が生じた。同国境地帯では中国の開発進出が先行しており、近年ではインド側も道路建設などを進めて対抗している状況があった。この紛争がどのように帰結に至るかは不明であるが、核兵器を持つ大国同士の死者が出る紛争が発生したことに危機感を募らせざるを得ない。
中国の領土的膨張は海洋方面でも極めて顕著になっている。南シナ海における軍事施設の展開は、東南アジア各国との緊張関係を高めている。米海軍も航行の自由作戦を活発化させることを通じて中国側の出方をけん制しているが、中国側の振る舞いは一向に改善する気配はない。
日本に対しては昨年習近平国家主席を国賓で招くことが決定したにも関わらず、中国政府は尖閣諸島周辺での圧力を強めている。また、中国の近年の海軍戦力の増強は著しく、さらにミサイル戦力は日本を屈服させるに十分な力を保持しつつある。サイバー戦力などを含めた総合力では人民解放軍は自衛隊に対する優位を既に築いていると言っても過言ではない。
■アメリカは右派も左派も中国抑止を強化
中国の野心的な振る舞いに対して、ワシントンの外交・安全保障関係者は中国に対する抑止強化の方針についてコンセンサスを形成している。それはオバマ政権後期から始まったシフトであり、トランプ政権下によって明確にされたものと言えるだろう。一見すると、この変化は米国の覇権的な国家意思が発露し、1990年代から2000年代初頭までの対中融和姿勢は既に過去のものとなったようにも見える。
そして、米国全体の対中シフトは、2020年大統領選挙に際し、トランプ陣営・バイデン陣営ともに中国に対して強力なスタンスを示してきたと誇示している現状ともリンクする。トランプ政権下を通じて露になった、北朝鮮問題に対する非協力的対応、中国企業による略奪的な経済行為、香港・ウイグル・キリスト教に対する強権行使、そして新型コロナウイルスに対する欺瞞は、米国民の対中世論を喚起する上で十分なものであった。各種世論調査を見ても米国民の対中観は史上最悪のレベルにまで悪化している。
■米国は何がしたいのか、日本はどう対応するべきか
したがって、日本国内では「米国の腹は決まった、米中対決は不可避」とする意見も少なくない。ただし、この程度の話は米国の公文書を丹念に追っていれば、国際政治好きの学部生でも知っていることだ。今更あえて語るような話ではない。
今、我々が議論して想定すべきことは「米国の対中政策の強硬度」の度合いである。
現段階において「米国の外交・安全保障関係者の間で対中抑止がコンセンサスになった」という話は「何かを言っているようで実は何も言っていない」周回遅れの主張に過ぎないものだ。
仮に米国の対中政策が変化したならば、我々日本人が知りたいことは「米国が中国に対して何をどこまでやりたがっているのか」、そして「日本はどのように対応すべきか」ということだろう。
■「トランプかバイデンかは無関係」という残念な主張
そのために必要なことは、外交・安全保障の分野の調査研究だけで良いのだろうか。結論から言って、それはNoだ。日本の外交・安全保障関係者の中には「トランプか、バイデンかは無関係だ」と主張する馬鹿もいるが、全くナンセンスな主張であり、日本の先行きが心配になる。
当然であるが、米国政府の意向を正確につかむためには米国の政治状況を詳細に掴むことが必要だ。なぜなら、外交・安全保障関係者が立案する政策も民意によるオーソライズが存在しなければ、絵に描いた餅に過ぎないものになるからだ。
我が国の例を挙げると、外交・安全保障関係者が戦略上合理的な意思決定をしない日本政府に対して愚痴を述べている姿を良く目にするが、これは彼らが主張する戦略上合理的な政策を民意がオーソライズしていない結果だと言えるだろう。
■大統領選次第では対中関係が大きく変わってしまう
米国は覇権国家であるため、まるで外交・安全保障上の国家理性が機能しているように錯覚している日本人も多い。しかし、米国は同時に世界最大級の民主主義国でもあり、その政治的な行為は常に民主的な意思によって裏打ちされたものになっている。
トランプか、バイデンかは「対中政策の強硬度」に決定的な影響を与える要素となるだろう。また、対中政策の予算、大義名分、方法論においても決定的な違いを生み出すことになる。
現在の米国選挙に関する世論調査を参考にすると、バイデン大統領及び民主党多数による上下両院議会が誕生する“トリプルブルー”の可能性がある。
民主党トリプルブルー政権においては社会保障費・公共事業費の増額は不可避であり、それは必然的に軍事予算を圧迫していくことになるだろう。トランプ政権は軍事予算の中期的な見通しを便宜上示しているが、それがリベラル色を強める民主党のホワイトハウス・連邦議会で維持できるかは極めて疑問である。
したがって、バイデン政権が誕生した場合、トランプ政権が継続する場合と比べて、予算制約によって安全保障上のオプションが相対的に制限される懸念がある。国家予算は民意のコンセンサスであり、政治過程を無視した外交・安全保障政策など存在しない。
■左派も中国への圧力強化を求める理由
また、中国に対するアプローチも共和党・民主党政権では当然に異なるものとなる。トランプ政権は中国の人権侵害に対して宗教弾圧を重点的に取り扱う傾向がある。ファーウェイやハイクビジョンをはじめとした中国企業に対する制裁は外交・安全保障の観点だけで行われているものではない。それらの企業技術が宗教迫害に使用されることに対し、トランプ政権の支持基盤である宗教団体が強い懸念を示している影響は極めて大きい。宗教団体の信仰心という下支えが無ければ、トランプ政権が中国との経済の相互依存関係を見直すことは現状よりも困難を極めただろう。ただし、この福音派の信仰心は対中政策に強いエネルギーを注ぎ込みつつも、中東方面などで火が付いた場合は容易に対中政策の強度を弱める方向にも左右する可能性も含んでいる。
一方、民主党政権は宗教迫害だけでなく、あくまでも中国共産党の行為を民主主義のイデオロギーに対する挑戦として位置付ける傾向がある。そのため、トランプ政権よりもバイデン政権は異なる宗教を背景とした民主主義諸国とも連携が組みやすいという特徴を持っている。民主党の支持基盤はそれらのイデオロギーを支持する人権団体などによって中核が占められている。
■バイデンが勝つと、権威主義国に対し多正面作戦を強いられることに
しかし、逆にバイデン政権ではサウジ、北朝鮮、ロシアなどの権威主義的な政治体制を有する国との対話は極めて困難なものとなる。そのため、バイデン政権がイラン核合意の復活によって中東情勢を表面上安定化させたように見えても、対サウジ関係悪化をはじめとした新たな火種を中東にばらまき、東欧ではロシアとの対立に過剰なリソースを割かざるを得なくなるだろう。バイデン政権は世界中で権威主義国及び情勢不安地域に対して多正面作戦を強いられることになる。表面上の外交カードはトランプ政権よりも多いが、その反面として外交・安全保障上のリソースを中国に集中させることは困難になるかもしれない。
また、逆の可能性も考慮する必要がある。ネオコンなどの過激な勢力も加わりやすいイデオロギー政策であるため、彼らの非妥協的な性質によって対中政策が抜き差しならない方向に進展してしまうことも懸念される。トランプ政権は政策決定からネオコンを締め出しており、中東で用済みとなった彼らが対中政策の文脈でバイデン陣営に加わる可能性は十分にある。
このように、米中関係の中長期的な展開を正確に捉えるためには、トランプか、バイデンか、というポイントは極めて重要である。カールフォンクラウゼヴィッツの戦争論を読むまでもなく、まさしく「戦争は政治の延長」であり、政治の延長に安全保障にあるに過ぎないのだ。
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早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。
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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)
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