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葬儀から半年後に出てきた「亡父の借金560万円」は回避できるか

プレジデントオンライン / 2020年6月23日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SB

法律や訴訟には「抜け穴」があり、うまく活用すれば不利益を回避する手立てとなる場合がある。新刊『法律の抜け穴全集(改訂4版)』(自由国民社)から、「抜け穴」を活用した2つのケースを紹介する——。

※本稿は、自由国民社 法律書編集部『法律の抜け穴全集(改訂4版)』(自由国民社)の一部を再編集したものです。

■妹に借金があったのに、亡父が相続放棄をしなかった

亡父が親族の多額の借金を相続したことをその死後半年経って知ったが相続放棄ができた遺族の話
【財産相続のアナ:相続を知ってから3カ月以内】

青山一郎さんに、凸凹金融から内容証明郵便が届いたのは、八月の初めだ。「なんだろう?」と、首を傾げながら開封した彼は、文面を読んで驚いた。三月半ばに亡くなった彼の父太郎さんの債務560万円を、相続人である彼に払えという内容だったからだ。

太郎さんの遺産は銀行預金150万円だけで、病院代や葬儀代を払うと、唯一の相続人である一郎さんの手元には50万円も残らなかった。もっとも、太郎さんには借金もなかったので、彼はホッとしていたのである。

内容証明を読んだ一郎さんは、言うまでもなく差出人の凸凹金融に、何かの間違いではないかと、抗議した。しかし、凸凹金融の担当者は、その抗議を一蹴したのである。担当者の話では、亡父太郎さんは、彼の妹である渋谷花子さんの相続人の一人で、彼女に借金があったのに、亡父は相続放棄しなかったため、彼女の借金の一部560万円を相続したのだという。しかも、亡父がその借金を払わないまま亡くなったため、一郎さんが、その債務を相続したというのである。

■「3カ月以上経ってるから相続放棄はできない」と言われたが…

叔母花子さんは亡父より5カ月ほど早く、昨年10月後半に亡くなっていた。ただし、一郎さんがその事実を知ったのは、今年初めに送られてきた喪中葉書によってである。そもそも、叔母には二人の子どもがおり、相続人はその子ら(第一順位)のはずで、その場合には兄弟姉妹(第三順位)である亡父に遺産の相続権はない。

一郎さんは事実確認のため、従兄弟である叔母の長男に連絡した。すると、彼ら叔母の子は二人とも昨年末に相続放棄していることがわかった。他に、叔母の相続人になれる彼女の夫(配偶者)も彼女の両親(第二順位)も、すでに他界していたため、その時点で生存していた一郎さんの亡父が相続人となったのである。一言、相続放棄の連絡をくれれば、一郎さんも亡父に相続放棄させられたのにと思ったが、今さら悔やんでも仕方がない。

凸凹金融の担当者は、「お父さんが亡くなってから、3カ月以上経ってますから、あなたはもう相続放棄できませんよ」と言われ、しかも払わなければ裁判を起こすと言われて、一郎さんは困ってしまった。

ところが、その話を会社の上司にすると、「内容証明がきたのは先月だろう。そのとき初めて債務相続のことを知ったんだから、今からでも相続放棄すればいいよ」と教えてくれたのだ。

一郎さんは急いで必要書類を揃え、内容証明が届いた翌月、家庭裁判所に、亡父太郎さんの遺産の相続放棄を申し立て、裁判所に受理されたのである。

■この場合は「内容証明が届いたとき」が起算点

【問題点】

亡くなった人(被相続人)の相続人は、その遺産を受け取るか(相続の承認という)、放棄するか、自由に選べる。ただし、相続開始を知ったときから3カ月以内に、決めなければならない(民法九一五条)。この期間を熟慮期間といい、何も表明しないと相続を承認したことになる。

相続を承認した相続人は、被相続人に借金(債務)があれば、その債務も引き継ぐ(返済義務を負う)。

しかし、相続人が熟慮期間中に承認も放棄も決めずに亡くなることもある。この場合、その相続(再転相続という)の熟慮期間は、「その者(この事例では太郎さん)の相続人(一郎さん)が、自己のために相続の開始があったことを知ったとき」を起算点とすると定めている(民法九一六条)。もっとも、亡父からの相続開始を知ったからといって、亡父が叔母花子さんの相続人になっていることまで知り得るわけではない。再転相続についての一郎さんの熟慮期間の起算点は亡父死亡時ではなく、亡父が叔母の相続人になったことを知ったとき、つまり凸凹金融の内容証明が届いたときである。一郎さんは内容証明到達の翌月に放棄の申立てをしており、相続放棄は有効である。

亡父が親族の債務を相続したことを知らなかった相続人と相続債務の債権者が熟慮期間の起算点を争った事件で、起算点を「親族の債務を相続していると知ったとき」とする判例が出ている(最高裁・令和元年八月九日判決)。

■時間と費用を少なく抑えられる訴訟がある

少額の借金をたくさん作り踏み倒す男の話
【金銭債権のアナ:少額訴訟に応じさせるのがカギ】

世の中には、友人や知人から金を借り、そのまま平気で踏み倒してしまうタチの悪い人がいる。今野六平も、その一人。彼は、ハナから約束の期限に返済しようなどという考えはない。返す意思がないのに人から借金するのだから、その行為が詐欺罪(刑法二四六条)に当たるのは言うまでもない。しかし、借りた金額は、いずれの場合も数千円から数万円までと小さく、また当人に返済の意思がなかったとの立証も難しいことから、仮に被害者から詐欺罪で告訴されても、まず逮捕も起訴もされないはずとタカをくくっているのである。

むろん、踏み倒された被害者の中には、刑事がダメなら、民事で取ってやると息巻き、本気で裁判を考える人もいる。川井正次君も、その一人である。川井君は貸した金を取り戻すことより、何とか、あの今野をヘコましてやりたい。そう思ったのだ。

といって、正式裁判を起こすとなると、時間も費用もかかりすぎる。法律に詳しい同僚に聞くと、「少額訴訟が簡単だ」と教えてくれた。これは、60万円以下の金銭債権を請求する手続きで、審理は原則一回で、しかも即日判決がもらえるのだという。その申立手数料も500円~6000円(請求額による。他に、当事者への連絡用の郵便切手が必要)と安く、定型の訴状が簡易裁判所の窓口にあり、それに書き込むだけとのことだ。

■借金踏み倒し男・今野は一枚うわてだった…

川井君は、さっそく最寄りの簡易裁判所に行き、窓口で「少額訴訟の訴状」をもらって必要事項を記載し、申立てをしたのである。やがて、裁判所から裁判期日を知らせる呼出状が届き、川井君は当日、意気揚々と裁判に出掛けたのである。今野が出廷しても(正当理由のない欠席は敗訴)、証拠の借用書があるから負けるはずないと、信じていた。

ところが、裁判に出てきた今野は、いきなり「通常訴訟にしてほしい」と言い出し、それを聞いた裁判官も「では本事案は通常訴訟に移行します」と言って、訳もわからず呆然としている川井君を尻目に、判決も出さずに閉廷する旨を告げたのである。後から、少額訴訟は債務者が望めば、通常訴訟に移行するとわかったが、たった2万円のため、正式裁判をしなければならないかと思うと、川井君は頭が痛い。このまま打ち切ろうかとも考えている。

■裁判を起こさず支払督促をする方法もある

【問題点】

少額の借金を取り立てる場合など、60万円以下の金銭債権を請求するには、少額訴訟(民事訴訟法三六八条~三八一条)の手続きが便利だ。費用も安く、手続きも簡便な上、原則一回の審理で通常は即日判決が出る。しかも、一旦判決が出ると、通常訴訟のようにその判決に不服でも控訴はできない。

しかし、この事例の今野氏のように、債務者が「通常訴訟により争いたい」と申述すると、自動的に少額訴訟から通常訴訟に移行してしまうので、彼のような狡猾な債務者相手の場合には、その実効性は薄いといえる。

なお、少額の金銭債権の請求手続きには、この他、支払督促(支払命令ともいう)という制度もある(民事訴訟法三八二条~四〇二条)。債権者は、債務者の普通裁判籍の所在地(債務者の住所地等)を管轄する簡易裁判所に「支払督促申立書」を提出するだけでよく、裁判所はこの申立てがあると、証拠調べなしに債務者に対し「債務者は、請求の趣旨記載の金額を債権者に支払え」と命ずる「支払督促」を送達してくれる。そして、もしこれを債務者が放っておくと、この命令が確定し、判決と同様、債務者の資産に強制執行ができるという簡便かつ迅速な手続きである。

自由国民社 法律書編集部『法律の抜け穴全集(改訂4版)』(自由国民社)
自由国民社 法律書編集部『法律の抜け穴全集(改訂4版)』(自由国民社)

ただし、支払督促は少額訴訟と比べ、申立書の記載が複雑であり、また債務者が「支払督促に対する異議申立書」を出すと、やはり通常訴訟に移行してしまう。今野氏のような相手は、当然この異議申立てをするに違いなく、このような相手には効果は薄いと言えるだろう。

では、どうすればいいか。今野氏のような人は、おそらく他でも、同様な借金踏み倒しをしているはずで、その被害者達が連携して刑事告訴するのが一番だ。たしかに、一件一件の被害額は小さいが、被害者が多数いるということになれば、今野氏が常習的な寸借詐欺の犯人であることが明白になり、「金は返すつもりだった」という弁解も通じない。当然、懲役刑もありうる。

(自由国民社 法律書編集部)

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