本当に頭のいい子を育てる「大げさな読み聞かせ」のやり方
プレジデントオンライン / 2020年6月26日 11時15分
※本稿は、齋藤孝『1日15分の読み聞かせが本当に頭のいい子を育てる』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
■読み聞かせてこそ、心を育てる教材になる
幼児期の子どもにとって、すぐれた絵本は最良の教材です。でも、ただ子どもに絵本を与えて「読みなさい」ではあまり役に立ちません。親御さんが子どもに読んであげることで、子どもは楽しみながら絵本の世界に入り込むことができます。読んでもらうことで、子どもは絵本にちりばめられた言葉と出会い、それが豊かな心を育んでいくのです。
文字を覚えるのも、ひとりで読めるようになるのも、もう少し先のことで大丈夫です。 何よりも大事なのは、「絵本を読んでもらうと楽しい」と子どもが思うこと。絵本を通じて、親子で楽しい時間を共有することです。
絵本は、子どもにひとりで読ませるものではありません。「自力で読ませるほうが子どものため」というのは、親が楽をするための言い訳でしかありません。
ひとりで絵本を読む時期はやがてきます。それまでは絵本は、お母さんやお父さんが読み聞かせてこそ、子どもの心を育てる教材として無限の力を発揮するのです。
■子どもを「半分なりきり、半分客観」に導く
絵本の登場人物に“なりきる”ことで、子どもの心が育つというのは、すでに申し上げたとおりです。
ただ、完全に100%主人公になりきってしまうよりも、半分は「自分自身が残っている」という状態で絵本に向き合うほうが、子どもの成長にとってより効果的です。
たとえば、ネズミが主人公の絵本の場合、子どもはまずネズミになりきることで物語に没入しています。そこでネズミに困難が降りかかってピンチが訪れたとしましょう。このとき100%ネズミになりきっていると、子どももネズミといっしょに「ああ困った」「どうしよう」とドキドキします。それはそれでいいことなのですが、このとき子どものなかに「自分」が半分残っていると、「ネズミさんが困っている。助けてあげたいな」という気持ちも芽生えてきます。つまり、ネズミを客観視して、自分がネズミを「助けてあげたい」と思うわけです。
■読み聞かせで「他者を思いやる気持ち」を育てる
半分は主人公のネズミになりきってドキドキし、もう半分はネズミを客観視して「助けたい」と思う。この状態で絵本の世界と向き合うことが、人としての優しさや思いやりの土壌になっていきます。絵本に100%没入しがちな子どもを「半分なりきり、半分客観視」という理想的なスタンスに導くために不可欠なのが、親御さんによる読み聞かせと子どもへの声かけです。先の例ならば、物語のなかでネズミがピンチに陥った場面では、「ほら、ネズミさんが困っているね」「何とか助けてあげたいね」「何とかしてあげたいね」と、子どもに声をかける。
そのひと言で、子どもはなりきっていた困っている主人公からフッと離脱して、「自分」に引き戻されます。そして今度は物語を客観視して主人公を思いやり、「自分もネズミさんを助けてあげたい」と思うようになっていきます。
絵本のストーリーを追うだけでなく、場面の展開や子どもの感情に合わせて声をかけ、ふたりで話をする。主人公になりきって「他者の感情を理解する」だけでなく、主人公を客観視することで芽生える「他者を思いやる気持ち」も育てる。
親御さんは、子どもと絵本の世界とを結びつけ、その距離感を巧みに操る“ナビゲーター”なのです。
■かつては昔話や民話から、大事なことを学んでいた
かつて子どもたちは、夕食後や夜寝る前などに、おじいさんやおばあさん、お父さんやお母さんに「何かお話しして」とおねだりし、その話に一心不乱に耳を傾けました。
愛情いっぱいに語られる昔話や民話などを聞きながら、自然に“人生で大事なこと”を学んでいったのです。
たとえば『ゲゲゲの鬼太郎』で有名な漫画家・水木しげるさんの自伝漫画『のんのんばあとオレ』には、子どもの頃に「のんのんばあ」(実の祖母ではなく知り合いのおばあさん)が話してくれるおばけや妖怪の話が大好きで、それが自分の原点になっていることが描かれています。
また、小説家の中勘助が幼少時代の思い出を自伝風に綴った『銀の匙』という作品では、幼少の主人公である「私」が、自分を育ててくれたやさしい伯母さんから聞く昔話からいろいろなことを学んでいます。
夜寝るときになると、伯母さんが枕もとで百人一首を、節をつけてそらんじてくれる。
「私」はそれを聞いて、想像力をかき立てられながら眠りに落ちる――。そんな描写が出てきます。これなどもまさに「語り聞かせ」による子育てといえるでしょう。
■美しい絵が、子どものイメージ世界を広げる
昔は、絵本があまり普及していなくても、その代わりに、大人やお年寄りたちがみな知識豊富で“語るべき昔話”を知っていました。各家庭に、水木さんの「のんのんばあ」や 『銀の匙』の伯母さんのような“語り部”がいました。その人たちが、子どもや孫の世代に昔話を語り聞かせてくれたのです。
柳田國男の『遠野物語』に記録された物語も、語られたものです。
今の時代、さすがに昔話や民話や童話を暗唱して語り聞かせたり、百人一首を光景が想像できるようにそらんじたりできる大人は多くないと思います。
でも心配はいりません。だからこその絵本の読み聞かせなのです。
絵本の読み聞かせには、昔の語り聞かせにないよさもあります。絵本に欠かせない美しい絵は、子どもの色彩感覚や美的感性を育てるだけでなく、視覚に訴えることで子どものイメージ世界を広げるサポートにもなります。
時代が「お話しして」から「絵本読んで」に変わっただけ。
夜寝る前に大人が子どもに昔話をしてあげる「語り聞かせ」が、今では絵本を通じて行われている。親御さんにとっても、お子さんにとっても、絵本には大きな可能性が秘められているのです。
■子どもはまだ「頭の中で映像化」が苦手
“喜劇王”として名高いイギリスの俳優・映画監督、チャールズ・チャップリン。彼が「モダン・タイムス」「街の灯」「独裁者」などに代表される、数々の感性豊かな作品を生みだし続けることができたのは、お母さんの影響が大きいといわれています。
舞台女優だった母・ハンナは、子どもたちに普段の会話でも、話題に上った人物になりきったり、状況に合わせて情感を込めて話したりしていたといいます。また、自分が舞台で演じた役や、歌った曲などをよく子どもたちに見せていたともいわれます。
そんな母・ハンナの情感あふれた子どもとの接し方が、後に世界的な巨匠となったチャップリンの感性の土台を育てたのではないでしょうか。
大人が本を読むときは文字を追い、言葉の意味を考えながら映像をイメージします。
でも、言葉をまだよく知らない子どもは、自分で文字を読んで、その言葉からすぐに映像をイメージするという作業に慣れておらず、上手にできません。
ですから、子どもが頭のなかで場面や状況をイメージしやすいよう読んであげることが大事です。
■「物音ひとつしない夜」なら、声の大きさとトーンを落とす
読み聞かせによって、絵本に書かれている文字は、お母さんやお父さんの声で語られる「言葉」になります。親御さんがその言葉に情感を込めることで、子どもは情景をイメージしやすくなり、頭のなかで映像を思い浮かべやすくなります。「冷たい風がビュービュー吹いて寒い」という文があれば、ただ棒読みしたりサラリと読み流すだけでなく、風の冷たさや強く吹いている様子をイメージしやすいように気持ちを込めて抑揚やイントネーションで表現してみる。
![齋藤孝『1日15分の読み聞かせが本当に頭のいい子を育てる』(マガジンハウス)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/c/200/img_1cb5cc99a169f7fa03327c1bfbac7dc9413530.jpg)
「みんなが寝静まった物音ひとつしない夜」なら、声の大きさやトーンを落として夜の静けさを表現するように読んでみる。
そうした情感が伴った言葉(声)を聞くことで、子どもはより深く絵本の世界を理解できるようになります。
ハンナがチャップリンにしてあげたように、言葉に情感を込めて読む。そうした読み聞かせが、子どもの「目に見えないものを頭のなかで、目に見えるように描く力=想像力」を豊かに育ててくれます。
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明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書多数。著書に『ネット断ち』(青春新書インテリジェンス)、『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)『新しい学力』(岩波新書)『日本語力と英語力』(中公新書ラクレ)『からだを揺さぶる英語入門』(角川書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。
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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)
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