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大激震! 「神社本庁は天皇陛下に不敬極まる」…"こんぴらさん"離脱で離散危機に

プレジデントオンライン / 2020年6月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/thanyarat07

■こんぴらさんの離脱、ついにきたか

「ついにきたか、という感じです。ものすごい驚きはありません」

6月12日、香川県琴平町にある神社・金刀比羅宮が神社本庁より離脱するというニュースが全国を駆けめぐった翌日、ある四国在住の老神主はポツリと、そんな感慨を筆者の取材に対して漏らした。

金刀比羅宮は「こんぴらさん」の愛称で知られる有名観光地で、四国を代表する名門神社と言っても過言ではない。そこが全国約8万の神社を統括する神社本庁から離脱することは、間違いなく神社界全体を揺るがす大ニュースである。

神社本庁とは、宗教法人上の位置づけとしては「包括宗教法人」と呼ばれる団体で、例えば仏教における浄土真宗本願寺派、曹洞宗、日蓮宗、天台宗などといった「教団組織」に相当する。神主たちの資格認定を行い、また全国の神社の宮司人事なども司る、神社界の事務執行機関である。本部は東京・代々木、明治神宮の隣接地で、前述のように全国約8万の神社が加盟。それらの神社は日々、神社本庁の定めた規程にのっとり、またその人事権の下で運営されているというわけである。

■いま、有力神社が次々に離脱している理由

別に神社だからといって、神社本庁に加盟しなければならない法的義務などはない。ただ神社本庁は民間団体ではあるものの、戦前の「国家神道」体制を統括した行政機関「神祇院」を形式的に継承している組織で、小さいところも含めれば全国に十数万ほどあるとされる神社の約8万が加盟、まさに戦後の神社界を指導、けん引してきた存在なのである。

しかしそんな神社本庁が近年、かつてない勢いで揺れている。特に深刻なのが今回の金刀比羅宮のように、全国各地の有名、有力神社が複数、神社本庁から離脱しているという騒ぎである。

有力神社の神社本庁脱退というのは、過去にも例がないわけではないのだが、少なくとも20世紀が終わるまでは「めったにないこと」であった。それが21世紀に入って以降、20年たらずで、明治神宮(東京都、04年離脱後、10年に復帰)、気多大社(石川県、10年離脱)、梨木神社(京都府、13年離脱)、富岡八幡宮(東京都、17年離脱)、建勲神社(京都府、19年離脱)と、全国各地の有名神社が次々と神社本庁から離脱。また最終的には離脱とならなかったものの、09年には宇佐八幡宮(大分県)でも離脱騒動が持ち上がったことがある。そして今回、金刀比羅宮までもが神社本庁からの離脱を決断した。

■偉そうに「上納金だけ持ってこい」という態度にいら立ち

これらの神社の離脱原因はケース・バイ・ケースの側面も大きいが、あえて共通した点を挙げれば「神社本庁の求心力低下」ということに尽きる。現代人の宗教離れといったことが盛んに叫ばれるなかで、神社仏閣に大きな寄付をする地主や地場企業なども急減。また特に地方で深刻に進む過疎化は、神社の担い手である地域社会の基盤を崩しつつあり、「日本の神社は10年後、半分くらいになっている」といった話が、神主たちの間で真剣に語られているような状況でもある。しかし神社本庁は「そうした状況に効果的な具体策を立てるわけでもなく、偉そうに『上納金だけ持ってこい』という態度のまま」(ある東北の神社宮司)であると、少なくとも多くの一般の神主たちからは見られている現実がある。

そうした神社本庁への不信感を特に高めたのが、17年に発覚した「土地ころがし問題」だ。神社本庁の職員宿舎が15年、一部幹部と関係のある外部事業者に不当に安く売却され、その事業者がすぐ、また別の事業者に高額で転売していたのではないかという疑惑で、当時の神社本庁職員の告発により発覚。ただし神社本庁は疑惑を全面否定したうえでこの職員を処分し、それを不服とした職員との裁判がいまなお継続中だ。この事件では全国の少なくない神社界関係者たちが、公然と告発した職員を支持する動きをも見せ、「神社本庁に対する不信感がかつてなく増大した」(神社本庁関係者)とする声もある。

■神社本庁に近い関係者ら反論も…

なお金刀比羅宮は今回の離脱決定に際し、公式ホームページで声明文を発表しているのだが、それは冒頭でまずこの「土地ころがし問題」に言及し、「非常に遺憾であると感じていた」とするもので、まさにこの疑惑によって背中を押されたのだろうと解釈できる文面である。ただ、前出の四国の老宮司はこう言う。

「金刀比羅宮さんは最近、神社本庁関係の集まりなどにあまり顔を出さなくなっていた。付き合いで出す一部の上納金なども断っていたと聞いており、後はいつ離脱するかのタイミングを計っていただけだったのでは」

金刀比羅宮の声明文によれば、同宮が具体的に離脱を思い立ったのは、約束されていた大嘗祭(天皇が即位して初めて行う秋の収穫祭。昨年11月14~15日に今上天皇が行った)の幣帛料(慶事などの際に神社本庁が加盟神社に配る金銭)が、実際には届かなかったことで「嫌がらせとしか思えない」と感じたことだったという。

「天皇陛下一代に一度の、奉祝の大御祭に際し、臨時の神社本庁幣が届かなかったことは、決して許されない無礼な行いであり、天皇陛下に対しても不敬極まりない行為であると言わざるを得ない」(金刀比羅宮公式HPより)

ただ「それは本当にきっかけに過ぎず、離脱はかなり前から考えていたのでは」(四国の老宮司)との声もあり、また神社本庁に近い関係者となると、「日ごろから会合にも顔を出さず、付き合いも減らしているのに、幣帛料だけ『届かなかった』などと騒ぐの心得違いだ」といったことまで言う向きさえある。ただ多くの関係者が異口同音に語るのは、「(金毘羅宮の離脱は)もう誰に止められるものでもなかったし、そこまで大きな驚きでもない」という認識である。

■とはいえ、減少幅は言うほどひどくはない

ところで、先に神社本庁に加盟する神社は約8万と書いたが、文化庁の発行する『宗教年鑑』2019年版から正確な数を引くと、同庁に所属する個々の宗教法人の総数は7万8663である。この数は2009年版では7万9041だったので、ここ10年で神社本庁に加盟する神社は確かに減ってはいる(約0.5%減)。ただし現代人の「宗教離れ」などによって、日本では仏教、キリスト教、新宗教などまで含め、宗教法人の数は全体的に減少傾向にある。日本全国にある宗教法人の総数を『宗教年鑑』で調べると、2009年から19年の間に18万2601から18万1064となっており、これは率にして約0.9%減なので、神社本庁に所属する宗教法人数の減少幅は、宗教界全体のそれより、むしろゆるやかだと見ることもできる。

「実際小さな神社にとってみれば、神社本庁に多少の不満はあっても、本庁の定めるカリキュラムに沿って自分のところの神主を育成し、また横のネットワークにも頼れるということで、離脱はそう簡単に決断できるものではない。金刀比羅宮のように、独立独歩でもやっていける大神社とは話が違う。ああいう大神社が離脱したからといって、われもわれもと一般の神社までもが大量離脱する流れにはならない」(ある関東の神社宮司)

■もともと神社本庁への求心力は弱く、一気にばらける危険性も

ただし今回の金刀比羅宮のように、全国の有名・有力神社がかつてない勢いで神社本庁から離れている傾向があるのは事実。かつ、「神道とは仏教やキリスト教のように、確たる教祖や教義があるわけではない自然宗教。もともと神社本庁のような組織への求心力は弱く、ばらけるときには一気にばらける危険性もある」(前出の四国の老宮司)といった懸念の声もある。

令和の時代は、神社界のまさに興亡の分水嶺となってしまうのか。

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小川 寛大 雑誌『宗教問題』編集長
1979年、熊本県生まれ。早稲田大学卒業。宗教業界紙『中外日報』記者を経て現在。著書に『神社本庁とは何か』。

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(雑誌『宗教問題』編集長 小川 寛大)

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