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「実はコロナかも…」「誰も気にしない」クラスター多発の歌舞伎町の闇と実情

プレジデントオンライン / 2020年6月25日 15時15分

路地のホストクラブからは深夜もコールの声が響く(筆者撮影)

■緊急事態宣言中もコールが響いたホストクラブ

新宿駅すべての終電が終わり、歌舞伎町の本当の夜が始まる。

6月中旬の歌舞伎町、私は今日も朝までこの街を徘徊(はいかい)する。30年来当たり前の行動だが、ひとつ違うのは各所でコロナウイルスによるクラスターが起こっていることか。もっとも今だから書くが、緊急事態宣言の間も路地の小さなホストクラブからコールの声が響いていたし、デリヘルの車は女の子を乗っけて待機していた。もちろん大半は自粛していたので数そのものは少ないが、国も自治体も民間の経済活動に介入することは不可能だ。誰も助けてくれやしない世界で生きる人にとってはこれが現実である。

「命令するったってどこにすんのかね、歌舞伎町は夜の商売やってりゃみんな罹(かか)ってんじゃないの?」

花道通りの道端に立っている男が腕組みで話してくれた。他に2人、何をしているのかと聞いたら「ないしょ」と言われた。ここに立つのは内緒の人ばかり。それでもしゃべってくれる人は貴重なのでいろいろ聞いてみる。

「ホストったってピンきりだからおっきいとこはともかく小さいとことか、ホストもどきも含めてコロナとかわかんないでしょ、デリなんかもっとわかんない」

■新宿・歌舞伎町で笑顔に満ちる警察官

のんびり走るパトカー、談笑も
のんびり走るパトカー、談笑も(筆者撮影)

「わかんない」とは「国や都が把握できっこない」ということだろう。実際お手上げのようで、とりあえずの検査と要請を大手ホストクラブを中心に呼びかけただけ。そしてこの取材の数日後、19日にはライブハウスや接待を伴うナイトクラブなどの休業要請が全面解除される。警察車両は通るがのんびりしたもの、お巡りさんの声掛けも本当に声掛けで笑顔と笑いに満ちている。警察官もある意味、歌舞伎町の仲間だ。

バッティングセンター近く、ホストクラブが密集するエリアにはいかにもなセダン。私服姿で目の鋭い男二人の乗った覆面パトカーだ。この二人、歌舞伎町交番に待機していたのを私は見ている。私服警官であることは間違いない。もちろんみんな知っているので気にしない。大手はきっちり時間通りに店を閉めて、揉め事を起こさなければいいだけ。警察が絡むとやっかいというだけで、コロナなんか関係ない。

歌舞伎町の一角は渋滞。タクシーや高級セダン、高級ワゴンが列をなしている。キャバ嬢たちのお帰りだ。「お疲れ様です」と綺麗なお嬢さんがしょぼくれたお爺ちゃんの運転する黒塗りセダンの後部座席に乗る。ワゴンには女の子が続々乗り込んでいる。そのたびに渋滞が伸びて、クラクションが鳴り響く。

■タクシー運転手「咳こんでいるホストは怖い」

いつまでも動かない渋滞の列に巻き込まれた空車のタクシーを拾って、ちょっと運転手に聞いてみる。

区役所通りは渋滞
区役所通りは車の列(筆者撮影)

「だいぶ(お客さんは)戻ってきましたけどまだまだですね。この時間、いつもはもっと渋滞すごいですから」

夜の街、とくにこの歌舞伎町はコロナのクラスターで世間からフルボッコに遭っているが、運転手さんは怖くないのか。

「いやあ、それね。タクシーの運転手なんて同情されたこともないでしょ。私たちもコロナに罹るかもしれないし、いまも罹ってるかもしれないのにね」

言われてみればそうだ。私はいつも不思議なのだが、震災だろうが疫病だろうがテレビの定点カメラにはいつでもタクシーが走る姿が映る。こうなってくるとある意味、警察や消防どころか軍隊より危険な仕事だ。核が落ちてもタクシーは走っているかもしれない。

「しょうがないんだけどね。仕事だからね。酔っ払って咳こんでるホストとか怖いけど、しょうがないとしか言えないね」

■東口から靖国通りまで人っ子一人いやしない

職安通りに出てもらい、大ガードをくぐって新宿駅を一周、元いた場所に降りる。花道通りに比べてなんと駅周辺の静かなことか。東口から靖国通りまで人っ子一人いやしない。その後、夜中の2時くらいにその周辺を歩いてみたが本当に誰もいない。というか歌舞伎町にしてもセントラルロード、さくら通り、東通りと人はまばら。やはり花道通りこそが深夜の歌舞伎町だ。

新宿駅と靖国通りの間には誰もいない
筆者撮影
新宿駅と靖国通りの間には誰もいない - 筆者撮影
新宿でこんな写真が撮れるほど人間がいない。花道通りとは対照的
筆者撮影
新宿でこんな写真が撮れるほど人間がいない。花道通りとは対照的 - 筆者撮影
新宿でこんな写真が撮れるほど人間がいない。花道通りとは対照的
筆者撮影
午前2時、モア街一帯は誰もいない - 筆者撮影
新宿通りアルタ前、タクシー以外人はいない
筆者撮影
新宿通りアルタ前、タクシー以外に人はいない - 筆者撮影
靖国通りに近くなると閑散とする
筆者撮影
歌舞伎町も靖国通りに近くなると閑散 - 筆者撮影

区役所通り、半ギレぎみの中国人店主曰く。

「(国に)帰れないからしょうがないね。お客さん全然いないのに!」

ウーバーイーツの出前や夜のお仕事の方々のテイクアウトだけでは家賃が厳しいという。やはり店で酒を飲んでもらわないと。ところで給付金の10万円はもう来たのか。

「来ない! 遅いよ! でもあんなの一瞬だよ!」

笑顔なので怒っているわけではないようだが、マンガの中国人のようなイントネーションでまくしたてる。住民基本台帳に名前があれば外国人でも給付金はもらえる。もっとも新宿区は印刷屋の変な子会社に任せたばっかりに遅れている。

■治安悪化……陽気で不機嫌な外国人

区役所通りはキャバクラもホストも、それを目当ての飲食店も並んでいるのでにぎわっている。そんな中で暴れる外国人。みんな2メートル近い。

「すげえな、あんなの勝てねえよ」

見ていた男性が半笑いでそうつぶやくのも無理はない。再び歌舞伎町交番前へ。これまた外国人が言い争っていた。この夜は外国人のやんちゃが目についた。外国人の機嫌が悪いのもまあわかる。異国の危険地帯で金を稼ぐストレスと、コロナで母国には容易に帰れないストレス。さっきの中国人だけでなく、白人も黒人も陽気に不機嫌だ。

この日は外国人の事案が多かった印象
筆者撮影
この日は外国人の事案が多かった印象 - 筆者撮影
双方応援が駆けつける一触即発
筆者撮影
双方応援が駆けつける一触即発、通行人は気にしない - 筆者撮影
歌舞伎町交番の前でも構わず喧嘩
筆者撮影
歌舞伎町交番の前でも構わず喧嘩、でもお巡りさんは優しい - 筆者撮影

「やめなさ~い」

間延びした声で目の前の派出所から数歩で出動する警察官たち。この程度では緊張感もなく「はいはい」といった様子。もちろん珍しくもないので野次馬なんかいない。外国人のほうも警察なんかちっとも怖くないとばかりにダッシュで派出所の掲示板にジャンピングキックを決める。うんざり顔の警察も大変だ。

■「お兄ちゃんお金ください…」と金をせびる中年

「お兄ちゃんお金ください」

派出所すぐの大久保病院の通りでおっさんに声をかけられる。私は「ないない」と手をふってみせる。おっさんは物分りよく立ち去る。派出所が見えていても関係ない。そもそも誰もコロナの心配なんかしていない。ここではみんな金しか興味ない。バカにするかもしれないが、コロナより経済を取った日本の縮図が歌舞伎町だ。現にこの状態で19日には夜の店も都道府県の横断も正式に全面解除となった。

「渡部のこと知ってるよ。あいつのことならしゃべるよ、コロナなんか誰も興味ないっしょ」

座り込んでるホストの兄ちゃんたち、まだあどけなさが残る彼らはまだ駆け出しだろう。取材慣れしているのか渡部の話で興味をひいてくる。あいにく今日はそっちじゃないが、「コロナより渡部」もまた、日本の縮図か。「コロナより手越」でもいいだろう。

「佐々木希とやりてー!」

朝まで営業する焼き鳥屋
筆者撮影
朝まで営業する焼き鳥屋 - 筆者撮影

そんなホストのウケ狙いの絶叫と爆笑を背に風林会館から再び旧コマ方面へ。軽ワゴンで焼き鳥屋が営業している。夜の仕事のお姉さんたちが焼き鳥屋のおばちゃんに人生相談だ。三密もクソもない状態だが、私も食べる。焼き鳥だけでなく串揚げもある。

■夜のお姉さん「私、じつはコロナだったかも~」

「私、じつはコロナだったかも~。熱すごくて家にずっといたもん」

女の子があっけらかんと話す。冗談ではなく本当にコロナだったかもしれない。結局、日本人の大半は検査を受けられなかった。

「もうみんなコロナになっちゃったし、ホスト遅れてね?」

流行に乗り遅れているということか。なるほど歌舞伎町ではコロナも流行のひとつでしかない。パンデミックという流行は、ファッションという流行に置き換わる。確かにホストのクラスターは3月、4月のピーク時を外してやってきた。理由はわからない。ホストが罹るならキャバもデリも、タクシーの運ちゃんや彼らで仕事をしている飲食店でも起こるはずだが起こっていない。もうすでに罹ったのか、いまやそれすらわからない。

「飲みどうですか?」

深夜の客引き、まだ若い男の子だ。いろいろ聞いてみる。自粛期間もやってたのか。

「ずっと仕事ですよ。店は表向き閉じてたんで声かけないと客入らないし金にならない」

なるほど、自粛のふりで実際は営業していたということか。これもいまだから言えることだろうが。もちろんついていったらひどい目に遭う。女の子はいるのか。

「そりゃいますよ。ここだけの話 ――」

■コロナよりお金が大事。それは歌舞伎町もどこも一緒

ゴミ清掃車がやってくる
ゴミ清掃車が朝を告げる

本当かどうか、そうとう若い子がいるそうだ。ちょっとうかつなお兄ちゃん、バイト感覚なのか必死なのか、向いているとは思えない。気がないとわかると区役所方面のネオンに消えた。花道通りにゴミ収集のパッカー車が停車する。そろそろ歌舞伎町の夜が明ける。

コロナはうやむやのままに19日、この歌舞伎町の飲食を伴う接待含め全面解除となった。もっとも、そんなものは最初から誰も気にしていない。国も自治体も蚊帳の外、歌舞伎町は歌舞伎町の掟(おきて)で動いている。満員電車にすし詰めの人々と夜の仕事の人々との違い、わたしにはわからない。たぶん誰にもわからない。ホストクラブにクラスターが起こるなら、オフィスにだってクラスターは起こるはずだ。金のためならコロナなんか気にしないのはサラリーマンも水商売もお互い様、もうみんな、コロナより金が大事だ。ゆえに国もコロナより経済を優先した。この歌舞伎町と同じように、多少の犠牲を覚悟して。

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日野 百草(ひの・ひゃくそう)
ノンフィクション作家/ルポライター
本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。近刊『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。

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(ノンフィクション作家/ルポライター 日野 百草)

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