一流上司は部下の発言にある「でも」の回数を数えている
プレジデントオンライン / 2020年6月25日 9時15分
※本稿は、國武大紀『「聞く力」こそがリーダーの武器である』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■なぜ、一流の人ほど「コーチ」をつけるのか
▼人は自分を見ることができない
鳥には空気が見えない。魚には水が見えない。そして、人間には自分が見えない。
スポーツ界ではよく登場するようになったコーチという存在ですが、日本のビジネス業界ではまだ馴染みが薄いのが実態です。米国では大企業の約8割以上が人的資本開発にコーチングを導入しているとの話もあります。
かのマイクロソフトの共同創業者、ビル・ゲイツ氏は次のようにコーチの重要性を指摘しています。
「みんなコーチを必要としています。(中略)フィードバックを与えてくれる人は誰にでも必要です」
グーグルの元CEOエリック・シュミット氏も「今まで私が受けた最高のアドバイスは『あなたはコーチをつけるべき』ということでした」と語っています。
ほかにも、フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグ氏、GEの元CEOジャック・ウェルチ氏、ビル・クリントン元米国大統領、歌手のレディ・ガガ氏など、一流と呼ばれる多くの経営者やビジネスパーソン、政治家、俳優、アーティスト、アスリートたちがコーチをつけています。
ではなぜ一流と呼ばれる人たちはコーチをつけるのでしょうか。
ゲイツ氏やシュミット氏などは、天才と呼ばれるような人たちです。そんな人たちがなぜわざわざコーチをつけるのでしょうか。
その理由は「自分のことは自分では見えない」ということをよく理解しているからです。どれほどの天才であっても、自分という意識の枠から抜け出すことはできません。自分を客観視しよう、と言ったりしますが、実際には自分で自分を客観視することは不可能です。本当に客観視するには、自分以外の人からフィードバックをもらう以外に方法はありません。
そのことがわかっているからこそ、一流の人たちは、さらに自分を高めるためにコーチをつけています。なぜなら、コーチという存在は、自分が見えていない部分を映し出してくれる鏡のような存在だからです。
自分を客観視して、さらに自分を成長させるためには、自分以外の人からフィードバックをもらうことがとても大切です。
このコーチがフィードバックをするとき、重要なポイントが3つあります。
■「今日は、『でも……』を7回繰り返していましたね」
▼フィードバックの重要な3つのポイント
1 アドバイスはしない
フィードバックと言うと、人事評価やコンサルタントからのフィードバックのように評価やアドバイスをもらうことをイメージされる方が多いですが、コーチングによるフィードバックは、それとは異なります。
コーチングによるフィードバックでは、相手から求められない限りは、アドバイスや評価は基本的に一切しません。
仮にアドバイスを求められた場合でも、その分野の専門家である場合に限るべきで、あくまで参考情報として提供するに留め、相手がその情報をどう活かすかは、相手が自ら考え判断するのが基本です。
このようなやり方をとことん貫く理由は、相手が自ら考え行動できるよう、相手の主体性、自主性を発揮してもらうためです。
面倒見の良い上司は、ついつい良かれと思って、部下にアドバイスをしてしまいます。しかし、これが常態化してしまうと、部下は上司のアドバイスに依存するようになり、自分の考えや判断に対して自信も責任も持てなくなってしまいます。
部下を依存体質にさせないためにも、コーチングによるフィードバックでアドバイスをしないことは必要不可欠な手法なのです。
2 客観的なフィードバック
客観的なフィードバックとは、コーチ側(上司)が主観を交えずに「事実をありのまま伝えること」です。
部下がネガティブな発言を繰り返したり、今まで一度も言ったことのない言葉を使う、などの言語メッセージのほかに、腕を組んだり、眉間にしわを寄せたり、といった非言語メッセージにも着目します。たとえば、
「今日のセッションで、『でも……』という表現が10回ありましたね」
「今回はじめて『自分にもできる!』と発言しましたね」
「今日は最初から最後までずっと腕組みをしていましたね」
「先ほどからずっと視線が下を向いていますね」
このように、コーチ側(上司)は客観的な事実をそのまま相手に伝えます。その事実を聞いた相手は、言われてはじめて自分の状態に気がつくのです。
以前私とクライアントさんとのコーチングの際に「今日は、『でも……』を7回繰り返していましたね」とフィードバックした際、ご本人は「え、7回もですか?」とはじめて気づかれました。
また、私が「改めて何か気づいたことはありますか?」と聞くと、「『でも』を繰り返し、言い訳ばかりして行動に制限をかけているんだなぁ。そうかぁ、そういうマインドになっていたのか……」と感慨深そうにおっしゃっていました。
このように、単に事実をありのまま伝えるだけでも、相手は自分を客観的に振り返ることができるのです。
■「私が今感じたことをそのままお伝えしてもいいですか?」
3 主観的なフィードバック
コーチ自身が感じたことをそのまま相手に伝えることを「主観的フィードバック」と言います。主観的フィードバックを行う場合には、ラポールを崩さないように最初に「私が今感じたことをそのままお伝えしてもいいですか?」と相手の許可を取りましょう。
この許可取りの言葉を一言入れるだけで、相手はコーチ側のフィードバックを受け入れる心構えができます。主観的フィードバックは時として相手の心に刺さり過ぎる場合もあるので、事前に許可を取っておくのです。
では、主観的フィードバックの例を挙げてみましょう。
「私は、あなたがまだ何かに怯えているように感じます」
「私は、あなたはこの仕事にまだ未練があるのでは、と感じました」
「私は、あなたが自分の才能を恐れているのかも、と感じました」
このように「コーチが感じたこと」をそのまま伝えます。
その際、断定的に伝えないことが大切です。「……のように」「……では?」「……かも?」のような表現を使い、あくまでコーチ自身が個人的に感じたこととして伝えます。
もうひとつ大事なポイントがあります。それは、「私」を主語にして、あなたを主語にしないということです。
「Iメッセージ」とも言いますが、「私は」を明確にすることで、あくまで個人的に感じたことであり、ひとつの見方であることが伝わりやすくなります。
「あなたは」を主語にしてしまうと、「私」以外の第三者も含まれているように感じられるので、断定的な物言いに伝わる可能性があります。次の2つの例を比べてみるとわかりやすいでしょう。
「私は、あなたが強がっているように見えます」(Iメッセージ)
「あなたは強がっているように見えます」(YOUメッセージ)
このように、主観的フィードバックは、Iメッセージで断定的な表現を使わず、コーチ自身が感じたことをそのまま伝える手法です。
このような主観的フィードバックにおいては、コーチの感じたことが「正しい」「合っている」かが重要なのではなく、コーチからの主観的なフィードバックを受けて、「自分が何を感じ、何に気づいたか」を振り返ることがより重要です。
主観的フィードバックの特徴は、客観的フィードバックとは異なる、生身の人間が感じたことをそのまま伝えるからこそ、感じることができる「心の触れ合い」のような場を創り出してくれることにあります。
時として、相手が涙を流すくらいに深い気づきを得ることもあります。
「人間には自分のことが見えない」
だからこそ、さらに自分を高めるためにコーチによるフィードバックは必要なのです。
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エグゼクティブコーチ
株式会社Link of Generation代表取締役。1972年生まれ。滋賀県長浜市出身。大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行するも、努力しても認めてもらえない自分に失望し、わずか1年半で退職を決意。その後、JICA(国際協力機構)で16年間にわたり、発展途上国の国際協力に従事。世界40カ国以上を渡り歩き、計300件を超える発展途上国の組織開発やグローバル・リーダー人材の育成などで実績を上げる。その後、数々のノーベル賞受賞者や各国首脳等リーダーを輩出してきたLSE(ロンドン政治経済大学院)に留学し、組織心理学の修士号を取得。名古屋大学大学院(国際開発研究科)客員准教授として指導した経歴も有する組織心理学のプロフェッショナル。また、JICA労働組合の執行委員長を歴任したのち、外交官(OECD日本政府代表部一等書記官)となり、日本政府の国際援助政策の政策立案や国際交渉の第一線で活躍。現在は、エグゼクティブコーチング、自己実現コーチング、およびプロコーチ養成などを行うほか、リーダーシップ開発や組織変革を専門とするコンサルタントとしても活躍している。著書に『「聞く力」こそが最強の武器である』(フォレスト出版)、『評価の基準』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
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(エグゼクティブコーチ 國武 大紀)
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