なぜお金を「使う目的別に運用」する人ほど、危ない橋を渡っているのか
プレジデントオンライン / 2020年6月29日 11時15分
※本稿は大江英樹『今さら人には聞けないけどとっても知りたい投資とお金のはなし』(ソシム)の一部を再編集したものです。
■分散投資と財産三分法は鉄則
資産運用において、分散投資は鉄則だと言われています。また、昔から財産三分法(現預金、有価証券、不動産)は資産管理の鉄則だとも言われ、お金はとにかく分散するのが良いと考えられてきました。結論から言うと、これは間違いではありません。但し、どんな資産でお金を運用するのかという対象のカテゴリーを分散しておくのは正しいのですが、お金を目的別に分けて管理・運用するのは間違いです。一般的にはどうもこれについて勘違いしている人が多いように見えます。
まず、自分のお金を運用する場合の資産カテゴリーの分散ということですが、その最大の目的はリスクを低減することです。ここで言う「リスク」とは「価格が変動することによって投資した成果がバラつく」という意味と「価値が下がって損をする」という意味の両方が含まれます。株式などは今後価格がどう変動するかを予想するのはとても困難です。したがって、複数の銘柄、それも値動きの傾向が異なる銘柄に分散投資をすることによって、どのような経済状況になったとしても、投資成果が平準化されるようにしておくことが大切です。
一方、預金には価格変動リスクはありませんが、物価の上昇によってお金の価値が下がると損をするかもしれないというリスクがあります。もちろん、預金の場合はいつでも他の資産にお金を移せるという利便性がありますので、これ自体はあまり大きなリスクとは感じないかもしれませんが、もし将来インフレになった時のことを考えると預金だけにお金を置いておくのは明らかにリスクだと言っていいでしょう。このように異なる資産を保有しておくことで経済環境がどのように変化しても自分の資産が大きな影響を受けないようにするために分散投資をしたり、財産三分法を実践したりすることはとても重要なのです。
■「学費のため」「老後のため」はなぜ間違いか
これに対して、お金を目的別に管理・運用するというのは、例えば、「住宅の頭金として」とか「子供の学費のために」とか「老後に備えて」といった使う目的に合わせてお金をそれぞれ別の場所に置いたり、別々の金融商品で運用したりすることを言います。「え! それがなぜ悪いの?」と思われるかもしれません。なぜなら世の中の多くのファイナンシャル・プランナーの人も「目的別にお金は増やしなさい」ということが多いからです。でもこれは明らかに間違いなのです。なぜそうなのかということをじっくりと考えてみましょう。
そもそも用途が何であれ、必要な支出が発生すれば自分のふところからお金が出て行くこと自体は変わりません。大切なことは①いかに自分の手元にある時にうまくお金を増やせるか、そして②支出の内容をチェックしていかに無駄な支出を抑えるか、ということが大切なことです。この内、②の支出に関しては予算化することである程度無駄な支出を抑えることができると言われています。これは恐らくその通りでしょう。FPの人がよく言う、「お金の袋分け」というのは支出の予算化をするにあたって、それを可視化する方法ですから、支出のコントロールにはある程度有効です。でもお金を増やす方法まで袋分けしてしまったら全く意味がありません。なぜなら運用資金を小分けにしてしまうと、運用そのものが非効率になってしまうからです。
■まとまった金額がないと分散投資はできない
目的別にお金を小分けしてしまうと、一つのかたまりの金額は小さくなります。金額が小さくなってしまうと、その中で適切に分散投資をすることもむずかしくなります。つまり目的別運用をしてしまうと、きちんとした分散投資ができなくなる恐れがあるのです。これに対して「いや、そんなことはないでしょう。学資のようにリスクを取れないものは学資保険にしておけば良いし、老後資金のように期間の長いものはリスクを取れるのだから株式や投信で運用すればいい。ちゃんと分散投資できるじゃないですか」と言う人もいるでしょう。でもそれは分散投資ではありません。単に目的毎にお金の置き場所を変えているだけです。分散投資というのは価格の動きの性質の異なる、そしてリスクの性質とその度合いの異なる複数の資産に分けて投資をすることです。そしてそれはある程度まとまった金額であるからこそ、できることなのです。
自分の資産を運用するにはトータルで管理することが最も大切です。リスクを取れる部分のお金はリスク資産に投資し、あとは安全な資産(預金、債券)にしておく。そしてリスク資産については過大な価格変動の影響を受けないようにするためにきちんと分散投資をしておくことです。どんな用途であれ、資金が必要なことが出てきたら、それは安全資産から引き出して使えばいいだけのことです。そのために一定割合のお金は価格変動のない預金などで置いておくべきなのです。「分散投資」と「お金の目的別運用」は全く別物であり、これを混同してはいけません。「分散投資」は必要なことですが、「お金の目的別運用」はあまり意味がないことを知るべきです。
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経済コラムニスト
オフィス・リベルタス代表 大手証券勤務を経て2012年独立。行動経済学、シニア層向けライフプラン等をテーマに執筆・講演活動。著書に『「定年後」の“お金の不安”をなくす 貯金がなくても安心老後をすごす方法』ほか。
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(経済コラムニスト 大江 英樹)
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