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米GEがリーダー研修で「会議の進め方」を丁寧に教える本当の理由

プレジデントオンライン / 2020年6月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/izusek

リーダーを育てるために必要な考え方とは何か。ゼネラル・エレクトリックで人材育成研修を行っていた田口力氏は、「はやりのビジネススキルにとびついても意味がない。必要なのは、基本的な能力の徹底した育成だ」と説く――。

※本稿は、田口力『クロトンビル 世界最高のリーダーを育てる組織』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■はやりものに飛びつかず基本を徹底する

私がクロトンビルのリーダーシップ研修を教えるようになって、最も驚いたことの一つは、その研修内容がとても基本的なものであるということでした。スキル系の研修も含めて十数種類のコースを教えたり運営の管理をしたりしていましたが、そのいずれのコースも基本的な内容でした。

GEに入る前は、クロトンビルではさぞかし時流に乗った、いわゆるビジネス書などでトレンドになっているようなトピックを研修で教えているのかと思っていたので、私にとってはとても意外でした。

もちろんある時期トレンドになり、その後も広くビジネス界で支持されているトピックは、GEのリーダーシップ開発に必要であると判断されれば研修に取り入れます。しかし最近流行のトピックだからといってすぐに飛びつくということはありません。

■ちょっとやそっとで揺るがない基礎を作る

「基本的なこと」と言っても、その切り口やアプローチは、脳科学など最先端の知見を取り入れたもので、教える立場としても新しい発見ばかりで、目から鱗の連続でした。

田口力『クロトンビル 世界最高のリーダーを育てる組織』(KADOKAWA)

クロトンビルではこの「基本的なこと」を、全階層のリーダーシップ研修で徹底するのです。

GEにいたとき、講演や研修などでこの特徴をビルの建設にたとえて話していました。高いビルを立てるときほど、基礎工事もしっかりと行わなければなりません。基礎工事で手抜きすれば、そのビルは砂上の楼閣のごとく、地震のような衝撃に耐えられず崩れてしまいます。

リーダーシップ開発も同じです。リーダーとして大きく成長してもらうためには、その基礎を徹底的に深掘りしてたたき込むことが肝要です。そうすればちょっとやそっとの環境変化に動じることなく、人や組織をリードすることができるようになります。

■組織の「共通言語」を習得させる

リーダーシップの研修体系は、大きく2種類の研修領域に分類することができます。一つは、いわゆるリーダーシップそのものを学ぶ(=開発する)領域と、もう一つはリーダーシップを発揮するために必要なスキルを学ぶ(=習得する)領域です。このうち、後者の「スキル研修」は選抜研修ではなく、自分が希望した研修に上司の許可を得て参加することができます。

このリーダーシップに関連するスキル研修でも、基本的なテーマの研修がほとんどです。

スキル研修の中でとくに、「プレゼンテーション研修」、「ファシリテーション研修」そして「CAP」(変革促進プロセス)の3つは、GEにおける共通言語であると言うことができます。GEに入社した際に行うオリエンテーションでも、早期にこれらの研修に参加するよう推奨しています。

この3つの研修を多くの従業員が受講することによって、国境を越えたコミュニケーションやプロジェクトを円滑に行うことができるようになっています。

つまり「会議の進め方」や「プレゼンの体裁や方法」、「変革の進め方」などが定型化あるいは見える化されていますので、非常に意思の疎通がしやすくなるのです。

■毎年プログラム内容を変えたがる企業の問題

日本企業の研修をお手伝いしていますと、担当者からもらう研修内容のリクエストは、この真逆であることがしばしばあります。やれ「レジリエンス」だ、「ワン・オン・ワン」だ、「エンゲージメント」だと、毎年のようにプログラムの中心的な内容を変えたがる会社があります。

日本でトレンドになるようなトピックは、その数年前にアメリカで話題になっていますので、こちらはすでにそのトピックの「その後」を知っています。もちろん「レジリエンス」や「エンゲージメント」などは大切なテーマです。しかし、たまたま書店で見つけた本、それもたった1冊だけ読んで、研修のトピックに入れ込もうとするのはいかがなものかと思います。

話題となっているトピックの本質を知らず、またその後どのような評価になっているかもフォローせず、そもそもそのトピックを研修で教えたり議論したりすることが、その会社や研修の参加者にとってどのような意味があるのか検討した痕跡さえないこともあります。

■リーダーのオペレーションシステムをインストールする

そうした人材開発の担当者たちと話をするときに、私はコンピューターのソフトウエアを比喩として使います。これはさまざまな種類のリーダーシップ研修をクロトンビルで教えた結果、私の中で確信に近い考え方として確立されたものです。

ご承知のようにコンピューターのソフトウエアは、ウインドウズのようなオペレーティングシステム(OS)と、ワードやパワーポイントのようなアプリケーションソフトに分類できます。クロトンビルの研修では、このOSの部分に相当する能力を徹底して教え、また経験として体感してもらうのです。

このOSに相当する能力は、自己認識能力や共感能力、コミュニケーション能力といった、組織の全階層におけるリーダーが共通して持つべき基本的な能力です。これらの能力がOSとしてリーダーにインストールされていなければ、いくら最新のアプリケーションソフト(=はやりの研修トピック)をインストールしても、正常に動きません。

■オペレーションシステムは常にアップデートする

またOSは、現実のソフトウエアでも定期的にアップデートされるように、研修などを通じてアップデートされなければなりません。当然、少なくとも組織で働くすべてのリーダーたちに、このOSが同じバージョンで最新の状態にアップデートされていることが望ましいということになります。

研修では通常、同じ会社のさまざまな部門から参加者が集まりますが、部門によって異なるOSによって動いているのではないかと思われることが、日本企業の研修をしていると感じることがあります。

大げさに聞こえるかもしれませんが、組織全体を横串で通すようなリーダーシップのOSがインストールされていることが、部門間の連携や、組織横断的なプロジェクトを成功に導く一つの要因ではないかと考えています。

■初対面でも本音レベルで意思疎通ができる

私がGEにいたとき、いろいろな国で研修を行ったり、いくつものグローバル・プロジェクトに関わったりしました。そうした機会に協働した人々や研修の参加者たちは、国や地域、人種や宗教を超えて、「GEのリーダー」という共通項でくくられる特性や行動を身に付けていました。まさにそれが「リーダーシップのOS」なのだと信じています。このOSが彼らにインストールされ、アップデートされていますので、初対面であってもすぐに本音レベルで意思の疎通ができました。

前述のスキル系に分類される研修コースの多くは、アプリケーションソフトに相当します。これらも基本的な研修内容ですが、リーダーに「プロフェッショナル」として「必須の」(Essential)研修という位置付けがなされています。

このアプリケーションソフトに相当する研修のうち、「GEの共通言語」とも言えるファシリテーションやプレゼンテーションなどの研修を多くの従業員が受講していますので、会議やコミュニケーションがはかどり、協働することがとてもスムーズなのです。

日本企業においても、リーダーのOSとして何が必要か、アプリケーションソフトとして最低限何が必要か定義し、それらについて研修などを通じてインストールすることが大切なのではないでしょうか。

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田口 力(たぐち・ちから)
上智大学グローバル教育センター 非常勤講師
1960年、茨城県生まれ。83年早稲田大学卒業。政府系シンクタンク、IT企業の企業内大学にて職能別・階層別研修や幹部育成選抜研修の企画・講師などに従事。2007年GE入社。14年に退社し、TLCOを設立。04年、一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース修了(MBA)。

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(上智大学グローバル教育センター 非常勤講師 田口 力)

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