コロナが暴いた「この人は無理…」という人間性と、気づいた時の対処法
プレジデントオンライン / 2020年6月25日 11時15分
■成田離婚という言葉思い出したコロナショック
いまでは死語となったが、かつて「成田離婚」という言葉が存在した。新婚ホヤホヤの2人が新婚旅行に向けて旅立ったものの、慣れぬ異国の空の下でトラブルが続出。「この先、この人とはやっていけない」と、成田空港に帰還した時点で離婚を決意することだ。これまた死語となった「婚前旅行」や「同棲」なる言葉がまことしやかに用いられていた90年代によく聞かれたものだ。
今回のコロナ禍に、ふとこの言葉を久しぶりに思い出した。人は、平時のときには他人に優しく「いい人」でいられても、ストレスがたまると本性を表しやすい。週に数時間会うぶんには「いい人」を演じられても、四六時中一緒になったり、慣れない状況下でストレスがたまったりしてくると危ない。
「意外とイライラしやすい」
「些細なことで爆発する」
「面倒なことは全部他人任せ」
「こんなに常識のない人だとは思わなかった」
など隠されていた短所が露になるからだ。
そして、その傾向は男女間や、家族間に留まらない。友人関係や、会社関係者、近所づきあいなどの間にも共通していえることだ。
■「こんな人だとは思わなかった……」親しい人の意外な一面
「感染リスクがあるのに、これまで通り会って遊ぼうと誘いがくる」
「家族に高齢者や乳幼児がいるのに、手洗いマスクを徹底してくれない」
「どうしても外せない用事で外出しようとしたら、非常識と罵られた」
「『いまだに出勤しているの? 信じられない~』と友人に驚かれた」
「夫婦二人在宅勤務なのに、家事育児は一方ばかり」
「在宅勤務が許可されない」
「感染が怖くて休んだら、復帰は保証できないといわれた」
「在宅勤務に必要な機器を自腹で揃えるのは当たり前という圧力がかかった」
「(海外に住む知人から)厳しい外出制限をしない日本人は全員バカ呼ばわりされた」
今回の新型コロナウイルスでは、世界中が突如、平時とは異なるストレス環境下に置かれた。そこで表れたのは、家族や同僚、上司など見知ったはずの人間の意外な一面だった。
これまでの日常生活とは違う価値観、場所、人間関係、常識、過ごし方、働き方を余儀なくされて、「これまで知らなかった、相手のいい面を知れた」という喜ばしいケースもあるが、その一方で、家庭での「コロナ離婚」や、職場での「コロナハラスメント(コロハラ)」、交友関係における「コロナマウンティング」なども表面化した。
■震災で一致団結した日本人が、コロナでは自粛警察と化す不思議
人間関係のひずみは、広く社会現象としても現れた。
一般的に、戦争や災害などの大きな危機的状況下では、人々の連帯感や絆は増し、団結力が高まる。東日本大震災を振り返っても、被災地や避難所で人々が秩序だって行動する様子や、全国から集まったボランティアの人々が積極的に活躍する姿が、世界からも称賛されたものだ。
しかし、今回のコロナ禍で見られたのは、他者を顧みることなくマスクや水を大量に買い込む人々のパニック様相や、自粛期間中に営業している店を非難する張り紙、あるいは他県をまたいで移動してコロナウイルス感染した芸能人に対する中傷の書き込みなどだった。
震災とウイルス……。同じく、自然の脅威が眼前に迫ったにもかかわらず、なぜ3.11のときには「皆で頑張ろう」と一致団結した日本人が、今回は他者を執拗に監視する「自粛警察」と化してしまったのだろうか。
■コロナで現れた社会の分断
理由は3つ考えられる。1つ目は、3.11と違い、「人と会うこと」が徹底して避けられたことだ。手と手を取り合い、「この難局を乗り切ろう」という連帯感は、今回のように、個々人が各家庭に引きこもる状態では生まれにくい。デモも集会もボランティアも、人が集まって生まれる熱狂が原動力となりうるが、ここを分断されてしまっては、連帯感よりむしろ孤独感やストレスが増してしまう。
2つ目は、社会構造の分断が、コロナにより図らずも明らかになった点だ。「人との接触8割減」を目指そうにも、それをできる人とできない人がいる。在宅勤務が可能なオフィスワーカーは全就労者のうち3割弱。医療従事者の過酷な現場はもちろんとして、スーパーやドラッグストア、運送業や製造業に携わる人々の間には、「在宅したくてもできない」事情がある。そういった人々の状況を指して「在宅できないなんてかわいそう」「いまだに外出しているの?」といった、非難とも同情とも受け取れる「コロナマウンティング」が襲った。
3つ目は、「常識」が各人によって乖離していた点だ。津波や地震、台風の恐ろしさは、その光景を見れば誰もが理解する。だが、目に見えないウイルスの「脅威」に対する受け取り方は人さまざまだ。
■「この人は無理……」と思ったら、どうするか
一日中、家でニュースやワイドショーを見まくっていれば、ウイルスの恐ろしさはビシバシ伝わってくる。だが、毎日出勤して忙しく仕事に追われていれば、新聞やテレビを見る余裕は失われる。そもそも普段からSNSのみを情報源としている人もいるだろう。
「コロナ=風邪の一種」レベルから、「コロナにかかったら死ぬ」レベルまで、人々の認識には大きな隔たりが生まれた。世代の差や職業差、居住地の違いによって、人々の意識も分断されたともいえる。
とはいえ、いつまでも人間関係や社会を「分断」させておくのもモヤモヤする。相手に対して、「この人は無理……」と思ったら、どうすればいいのか。
1つの考え方としては、「ストレス下の対応は、その人の本質」と考え、人間関係の断捨離を行う方法もあるだろう。「失言」や「ついうっかり」は、その人の「ホンネ」でもある。いくらストレス下でも思ってもいなかったことを言ったり、行ったりすることはまずない。日頃感じつつ、ウヤムヤにしてきた関係性を、この際すっきり整理してみるのもアリだろう。
■コロナで会社への不信感が表面化するケース
私の知人のなかには、長年積み重なってきた会社に対する不信感が、今回のコロナ対応で表面化し、退社を決意した人もいる。長年の家族のわだかまりと、向き合おうとしている人もいる。問題の所在がわかりつつも、今まで目をつぶってきた関係性を認識すること、また、自分とって、一番大切なのは何かを改めて考えるきっかけにも、今回のコロナはなった。
ただ、なかには、純然たる好意や、その人自身が抱く過度の不安が攻撃的な発言に結びついてしまったケースもある。「コロナにかかったら万人が死ぬ」という極端な考えにとりつかれてしまった人は、大切な人を守りたいがゆえに、激しい口調で相手の行動を注意することもあっただろう。
相手の発言が、徹頭徹尾自分本位のものなのか、相手をも思いやったうえでの発言なのかは、ひとつの判断材料になりそうだ。
■自分の「常識」は、他者にとっての「非常識」かもしれない
新型コロナウイルスは、いまだ世界で猛威を振るっている。一日の新規感染者は過去最多の15万人を超え、WHOは「世界は危険な新局面に入った」と発表している。第一波はなんとか乗り越えられた日本も、今後の状況は不明である。
いずれにしても、日本はもちろん、世界中の働き方や生き方が、今後大きく変わっていくだろう。そのなかでは、さまざまな新しい「常識」も生まれていくはずだ。
一億総中流社会として、「日本人ならこれが常識」という不文律はすでにここ数十年で失われつつある。そのトドメとなったのが、新型コロナウイルスだったのかもしれない。これまで自分が「常識」としてきた考えかたが、他者にとっては「非常識」と映ることも出てくるだろう。健康・仕事・家庭・余暇……、さまざまな世代や立場、個人にとってそれぞれ優先順位も異なってくるだろう。
自分が「この人は無理……」と思われないためにも、自分の「常識」は、他者にとっての「非常識」になりうる意識を忘れずにいたいものだ。
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フリーランスライター
1977年、埼玉県生まれ。武蔵大学大学院人文科学研究科欧米文化専攻修士課程修了。構成を手がけた本に『まっくらな中での対話』(茂木健一郎ほか著)などがある。
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(フリーランスライター 三浦 愛美)
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