部下に「本当の予定表」を見せてもらえない管理職はもう通用しない
プレジデントオンライン / 2020年6月29日 15時15分
■現場の担当者より管理職の方が変化に対応しづらい
テレワークの定着に伴い企業の営業部門は大きな変化の時を迎えています。
前回の記事では「足で稼ぐこと」を封印された現場担当者は、「データを集める」「計画をスケジューラーに記入する」「その計画を上司や同僚に公開する」という3つを心がけたほうがいいとお伝えしました。
では、営業部門を指揮する管理職はどのように変わるべきでしょうか。私は現場担当者より管理職のほうが変わりづらいと考えています。自身の担当者時代の成功体験が邪魔をするからです。
いま下半期に向け体制を整え、年間目標売上を確保しなければならない企業は多いと思います。試行錯誤する時間は残されていませんが、管理職はたった1つの習慣を身に着ければ、インサイドセールス(非対面型営業)のベネフィットを活かした運営が実現できるでしょう。
その習慣とは、部門全体の動きを「可視化する」ことです。ごく当たり前のように聞こえますが、在宅勤務で部下とも顔を合わせないなかで報連相を実現するのは難しい課題です。
■目標と現時点との差を認識し優先順位を付ける
まず部門全体の動きを可視化することから紹介しましょう。
管理職には案件を作ること以外に、期初に立てた目標を達成できることが求められています。前回お伝えしたように、担当者がスケジューラーにある程度自分が取り組んでいることを記した状態になったとしましょう。
その情報を元に判断するのが管理職の役割です。管理職は進行中の案件(以下パイプライン)が何本あり、いつ頃成約しそうなのかを把握することが大切です。情報の鮮度が命なので担当者にはまめにパイプラインを更新することを求めていきます。
要員も時間も有限であるなかで最大限の成果を生み出すには、目標と現時点との差を認識し優先順位付けすることが必要不可欠です。そのためのフレームワークを「達成ライン分析」と言います。
達成ライン分析は過去の受注確率と粗利率から、目標を達成するために必要な商談額を確認する手法で、外資系金融機関でも類似の手法が用いられています。
たとえば、営業部で粗利が確保されるまでには①商談額→②売上額→③粗利額という3ステップがあります。粗利が変動する要因は2つで、①と②の間の受注確率と、②と③の間の粗利率です。
これを達成ライン分析に当てはめると、年間目標となる粗利額を決め、それに必要な商談額をはじきだし、必要な行動に落とし込んでいくこととになります。当然、商談から受注までのリードタイム(所要時間)が長い案件ほどパイプライン管理が難しくなると言えます。
■コロナで通期の目標達成が難しくなったA商事のケース
分かりやすく説明するために、A商事の営業部門を例に説明しましょう。
この営業部門は売上を4つに分類できます。既存顧客から一定額を必ず見込める「定期購入」、競争入札による「入札」、既存顧客での新しい商品の取引である「新規」、取引自体が初めての「口座開設」の4つです。
この部門の2019年度の粗利額は10億円でした(図表1参照)。2020年2月、経営陣から営業部の高橋部長に今期は粗利を10%引き上げるように指示がありました。
早速2019年度第4四半期に、2020年度に4つの分類をどう伸ばせば目標達成できるかを評価しました。高橋部長は、小林課長らと協議し、未着手の入札や新規成約案件の水平展開のほか、紹介強化などを行えば達成可能だと判断します。それで必要な商談額を130億から135億に設定しました。
その直後、大きな誤算が生じました。新型コロナウイルスの感染拡大により、定期購入以外の商談が急減し、4月の訪問予定はことごとく延期となりました。担当者のスケジューラーは真っ白になり、パイプラインがどんどん消えていったのです。
2020年度第1四半期の粗利は前年同期比マイナス20%と見込み、通期の目標達成が困難だと予測できました。高橋部長は経営陣と今年度の目標を再び協議しました。その結果、2019年対比「フラット」へ目標を下方修正したのです。景況感の冷え込みを考えると、前年度と同水準に持ち込むのも高い設定です。
■目標を再設定し3つのアクションプランに落とし込む
残りの期間を前年同期比7.5%増で進めなければ目標達成できません。高橋部長は、小林課長らと協議し、新たな目標を実現するプランを設定しました(図表2参照)。
営業部門が目標達成のために立てた戦略は既存顧客の深堀りと新しい分野の入札参加です。新規顧客を開拓するよりも、既存顧客のなかで新たな商材の営業攻勢をかけたり、入札に新しく参加したりすることで目標達成に近づくと判断しました。
図表3のように着地目標を設定し、営業部門の4つの分類に細分化します。それぞれ前年同期比で、「定期購入」は増減なし、「入札」は10%、「新規」は40%と増えることを目標の目安にしました。
高橋部長は実現のため3つのアクションプランを提示しました。
まず、内勤での営業時間の引き上げです。営業担当者は既存顧客に別の商品を売り込む「新規」に集中させ、設定した商談金額を達成できる環境を作ります。
次に「定期購入」「入札」「口座開設」は基本的に内勤で対応することにしました。入札情報をくまなく探したり、過去に開いたセミナーで得た顧客先候補の情報を元にしたりといった接触活動に取り組みます。
最後に、スケジューラーを活用し報連相の時間を減らすことで、報告のための会議は廃止し、過去の謝絶案件の再検討、最近の成約例の水平展開を営業部内でも話し合い、新規提案の数を増やすことに注力しました。各担当者の商談金額に落とし込んだことにより精緻な時間配分ができるようになります。
■新たな稼ぎ頭を早期発見する
そのうえで、高橋部長は第1四半期の予想外の減速が長引くケースに備え、新たな環境での成長エリアの発見に注力するよう指示しました。具体的には、担当者は顧客と接触する際、「今後の注目の分野はなんですか?」といったヒアリングを徹底しました。
高橋部長の考えにはリーマンショック時の経験が生きています。リーマンショック時も定期購入すら減ってしまい、稼ぎ頭となったのは新規事業だったからです。前回はがむしゃらに取り組んだことで成長エリアを発見できました。一方、今回は達成ライン分析によって確率の高いアプローチに集中することで、新たな稼ぎ頭の早期発見を目指したのです。
ここで重要なことは、まず、第1四半期で生じたマイナス20%の危機に際し、営業部の実績データに基づく達成ライン分析によって、下方修正後の目標を達成する方法が具体的に示されたことです。商談額まで落とし込んで把握できたことで、担当者の奮起のみに頼らない3つのアクションプランを、高橋部長は提示できました。
■「とりあえず予定だけ入れた」担当者は要注意
ここでもうひとつの管理職の重要な習慣は観察力を磨くことです。
テレワークでは部下の働く様子が見えにくく、管理職は不安を感じます。状況を把握するため、より多くの報告を求めたくなります。報告が増えると、担当者が顧客のために割く時間は減り、担当者は管理職により具体的なサポートを期待し、多くの場合失望します。いずれも成果にはつながりません。
管理職はパイプラインやスケジューラーのデータを観察して、適切なタイミングで部下をサポートすることが求められています。
それは先ほどのような達成ライン分析を実践するためにも必要な能力です。A商事では、管理職が部下のスケジューラーを見る際に2つの点に注目しています。
まず、具体性です。特に顧客と接触する予定では、トーキングポイントやFAQ(よくある質問)が用意されているかを見ています。
次に、進捗です。パイプラインに関連する仕事に時間を配分しているか、また、それらの仕事は進捗しているかを見ています。
報告会議や日報では、話し方や表現により、この2点は明確には伝わってきません。スケジューラーの内容を確認することで、いつどのような行動をしたかを正確に把握することができます。したがって、報告関連の仕事を減らしても部下へのサポートの頻度や質は落ちません。
■顧客に伝わる情報は事前準備した内容の6、7割
管理職はパイプラインとスケジューラーの入力情報について、質問やフィードバックをしましょう。日報を中心に管理職と担当者の間でコミュニケーションを行っている場合は、徐々にパイプラインとスケジューラー中心へ移行することをお勧めします。パイプラインは、統一されたフォーマットを活用しましょう。
管理職は担当者の大事なアポイントなど、重要な業務に関する記入を注意深く観察すべきです。記入内容が具体的であるほど、担当者がきちんと実行している確率が高いと言えます。
一方で、顧客名と商品名のみが“とりあえず”記入されているケースは、実行されていない可能性が高いです。経験則では、事前に準備した内容の6、7割しか顧客に伝わりません。何も準備しなければ、その時点での「思いつき」で顧客と話すことになります。
この場合、コミュニケーションの質に大きな個人差が生じ、受注確率に大きく響きます。スケジューラーに事前の準備に充てる時間が書き込まれているとなお良いでしょう。記入された準備の質を観察することで、その担当者の仕事の質も推測できます。
■数字やデータで管理する仕組みが必要不可欠
ここまでお伝えしてきたように、このやり方が習慣として馴染むまでには時間もかかります。ただし成果は必ずついてきます。
新しい生活様式でも成果を出すためには、担当者の個人的スキルや頑張りだけに依存することなく、数字やデータで管理する仕組みが不可欠です。ただ担当者に「入力しても何もメリットがない」と思われてしまうと進みません。
今回お伝えしたように経営戦略にひも付き、担当者に適切なサポートを提供することが大切になるでしょう。これが新しい時代の報連相なのです。
いま政府もIT補助金制度を充実させ、顧客管理やバックオフィスのDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを支援しています。テレワークも掛け合わせ、どのような環境でも数字に強い組織へと変貌できる環境が整いつつありますので、ぜひ御社でも実践してみてください。
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マーケット・フラッグス 代表取締役
一橋大学大学院経済学研究科修了。2001年ゴールドマン・サックス証券入社。03年債券営業部配属、国内機関投資家向けの債券売買を担当。06年ニューヨーク本社へ異動。09年東京オフィスへ。12年に証券部門で営業成績首位となる。13年マネージング・ディレクター。19年に目標を達成する習慣を活用してセールス・マネージャーをサポートするコンサルティング会社、マーケット・フラッグス社を設立。
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(マーケット・フラッグス 代表取締役 原 裕平)
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