アインシュタインが「知識を詰め込むより遊べ」と言ったワケ
プレジデントオンライン / 2020年6月29日 9時15分
※本稿は、グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■英語の「school」という単語の語源は「楽しみ」
ミュージカル映画『メリー・ポピンズ』の終盤で、堅物の銀行員バンクス氏は長年勤めていた銀行を解雇された。だが、彼はいつになく陽気だった。あまりに浮かれているものだから、使用人からは「気が変になった」と言われ、息子からも「お父様じゃないみたい」と不審がられた。
厳格だったバンクスはすっかり別人になり、壊れた凧を直して「みんなで凧をあげよう」と歌い出す。つまらない仕事から解放され、心の奥に隠れていた子供の自分が息を吹き返したのだ。彼のごきげんな気分は家族全員に広がり、陰鬱だったバンクス家は喜びと親しみに包まれる。
フィクションではあるが、遊びを取り戻すことの大切さを雄弁に描いた話だ。
子供は、誰に教えられなくても遊びを覚える。いないいないばあを見て大喜びする赤ん坊。ごっこ遊びに夢中になる幼児。段ボール箱を積み重ねた秘密基地づくりに没頭し、「フロー」状態に入っている子供たち。
ところが大きくなると、私たちはだんだん遊びを忘れてしまう。「遊びなんてくだらない」「時間の無駄」「幼稚だ」という声に囲まれているからだ。そうした否定的な意見を植えつけるのは、遊びをもっとも必要とするはずの場所。学校である。
英語の「school」という単語は、ギリシャ語で「楽しみ」を意味する言葉から生まれた。それなのに現代の学校は、学びから楽しみを奪ってしまった。教育と創造性に関する研究で名高いケン・ロビンソンは、学校が創造性を殺す、と主張している。
「私たちは教育のファストフード化を容認してきました。その結果、まるでファストフードが体をむしばむように、教育が精神を弱らせることになってしまいました。……あらゆる偉業は、想像力から生まれます。ところが現代の教育システムは、まさにその想像力を奪いつづけているのです」
■遊びほど脳を活性化させる行動はほかにない
遊びはくだらない、という考え方は、大人になるとさらに強く刷り込まれる。あまりにも多くの会社が、遊びを殺してしまっている。「わが社は遊びと創造性を重視しています」とアピールする会社もあるが、たいていは口だけだ。本当に遊び心に満ちた職場を実現できている会社は、めったにない。
当然と言えば当然だ。現代のような形の会社は、もともと産業革命から生まれた。大量生産による効率の向上こそが存在意義だった。当時のマネジャーたちは軍隊を見習い、厳格な管理法を取り入れた(「営業部隊」など、軍隊を起源とする言葉がよく使われるのはそのせいだ)。産業革命が終わって久しい現代でも、大半の会社がその考え方や行動規範を捨てられずにいる。
遊びは、それ自体を目的とした行動だ。何かのためでなく、遊びたいから遊ぶ。凧あげ、歌、ボール投げ。どこにもたどり着かない行動は、一見無駄なようにも思える。しかし実は、そうした遊びこそ、人間にとって不可欠な行動なのだ。
精神科医でナショナル・インスティテュート・フォー・プレイの創設者であるスチュアート・ブラウンは、6000人を対象に遊びと成長の調査をおこない、遊びが人間のさまざまな面に良い影響を及ぼすという結論を得た。遊ぶと体が健康になり、人間関係が改善され、頭が良くなり、イノベーションが起こしやすくなる。
「遊びは脳の柔軟性と順応性を高め、創造的にしてくれます」と彼は言う。「遊びほど脳を奮い立たせる行動はほかにありません」
■精神は遊びを求めている
遊びは、生きるために不可欠なものだ。
最近の研究によると、動物は遊びを通じて主要な認知スキルを発達させているらしい。
実際、遊びが種の生存を左右することもあるほどだ。
15年間にわたってハイイログマの生態を研究しているボブ・フェイガンは、よく遊ぶ熊ほど長生きすることを発見した。彼はこう説明する。
「世界はたえず変化し、未知の課題や不確実な状況を突きつけます。遊びはそうした変化への対応力を育むのです」
神経科学者のジャーク・パンクセップも、同様の意見を述べている。
「たしかに言えるのは、遊んでいるときの動物たちがきわめて柔軟で創造的な行動をとるということだ」
動物のなかでも、ヒトという種はとりわけ遊びが好きだ、と先述のスチュアート・ブラウンは言う。人間は遊ぶ生き物であり、遊びを通じて生き方を身につけるのだ。
遊んでいるとき、私たちはもっとも純粋な形で人間らしさを発揮し、自分らしさをさらけ出す。最高の思い出や、「生きている」という実感をもたらしてくれるのは、遊んでいる時間だ。遊びは発想を豊かにしてくれる。新たなアイデアが生まれ、古いアイデアが新たな命を得る。好奇心が刺激され、未知のものを知りたいという意欲がわいてくる。
遊びがエッセンシャル思考(少ない時間とエネルギーで最大の成果を出すための考え方)に不可欠なのは、次の3つの点で役立つからだ。
■アインシュタインも遊びに重きを置いていた
<遊びが大切な理由1>
遊びは選択肢を広げてくれる。それまで気づかなかった可能性や、思いがけないつながりに気づかせてくれる。遊ぶことで、私たちの視野は広がり、常識にとらわれないやり方が見えてくる。意識の流れが豊かになり、新たなストーリーを発見できる。
あのアインシュタインも、次のように語っている。
「自分自身や自分の考え方を振り返ってみると、有用な知識を覚える能力よりも、空想する力のほうが大きな位置を占めているようだ」
<遊びが大切な理由2>
遊びはストレスを軽減してくれる。ストレスは生産性を下げ、好奇心や創造性の働きを弱める。仕事でストレスを感じたとたん、何もかもがうまくいかなくなるという経験は誰にでもあるだろう。部屋の鍵は見つからず、物にぶつかりやすくなり、キッチンのテーブルに大事な書類を置き忘れる。
最近の研究によると、これはストレスが脳に影響を与えるためらしい。ストレスによって感情をつかさどる部分(扁桃体)の働きが強くなり、認知機能をつかさどる部分(海馬)の働きが弱くなるのだ。その結果、うまくものを考えられなくなってしまう。
■遊びは脳を刺激し、ビジネスに不可欠なスキルを高める
<遊びが大切な理由3>
遊びは脳の高度な機能を活性化する。精神科医のエドワード・M・ハロウェルによると、「(遊びは)脳の実行機能に良い影響を与える。実行機能とは、計画、優先順位づけ、スケジューリング、予測、委譲、決断、分析など。つまりビジネスでの成功に不可欠なスキルの多くを含むものである」
遊びは脳の論理的で冷静な部分を刺激すると同時に、自由奔放な探究心をも刺激してくれる。主要な発見の多くが遊びを通じて生まれるのは、そのためだ。ハロウェルはこう述べる。
「コロンブスは遊んでいるときに、地球が丸いことを思いついた。ニュートンはぼんやりと心を遊ばせているときに、木から落ちるリンゴを見て万有引力の着想を得た。ワトソンとクリックはDNAの形を遊び半分で空想していたとき、二重らせんという形に行き着いた。シェイクスピアは言葉遊びを生涯やりつづけた。モーツァルトは寝ているとき以外はつねに遊んでいた。アインシュタインは実験という行為こそ、精神が遊びを求めている何よりの証拠だと考えた」
■仕事と遊びの関係性を知る
先進的な企業は、遊びの重要さに気づいている。
ツイッター社のディック・コストロ元CEOは、お笑いを社内に広めようと、即興コメディのクラスを創設した。自身も元コメディアンだったというコストロは、即興コメディを通じて社員の知性に広がりを持たせ、柔軟でクリエイティブな発想を伸ばすことができると考えている。
オフィス環境に遊びを取り入れている企業も多い。世界最高のデザインコンサルタント会社であるIDEO社は小型バスの中でミーティングをおこなう。グーグルの敷地では、巨大な恐竜の体にピンクのフラミンゴがまとわりついている。ピクサーのスタジオでは、各自が自由すぎる発想でオフィスを飾り立てている。たとえば西部劇に出てきそうな酒場、山小屋、そして天井から床まで『スター・ウォーズ』のフィギュアに覆われた部屋。
ある出版社で働いていた知り合いの女性は、デスクにイージボタン(押すと「楽勝だぜ!」としゃべるおもちゃ)を置いていた。彼女のところにやってきた同僚たちは、話が終わると遊び心で大きな赤いボタンを一押し。「楽勝だぜ!」という大声がオフィスに響きわたる。また同じ出版社で働いていた別の女性社員は、絵本のポスターを額に入れて飾っていた。絵本に出会った頃の楽しい気持ちを忘れないためだ。
そうしたおもちゃやフィギュアや恐竜を、くだらないと思う人もいるだろう。だが、こういう小さな遊び心こそが、何よりも大切なのだ。遊びなんてくだらないという非エッセンシャル思考の思い込みに、彼らはノーを突きつける。遊びこそが創造性と探究心の源だと知っているからだ。
遊びは本質を探求するのに役立つだけでなく、それ自体がどこまでも本質的なのだ。
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「少ない時間とエネルギーで最大の成果を出す」というエッセンシャル思考の生き方とリーダーシップを広めるべく、世界中で講演、執筆を行う。また、アップル、グーグル、フェイスブック、ツイッター、リンクトイン、セールスフォース・ドットコム、シマンテックなどの有名企業にコンサルタントとしてアドバイスを与えている。ハーバード・ビジネス・レビューおよびリンクトイン・インフルエンサーの人気ブロガーでもある。スタンフォード大学でDesigning Life, Essentiallyクラスを開講。著書の『エッセンシャル思考』(かんき出版)と共著書『メンバーの才能を開花させる技法』(海と月社)の原書は、ともに米国でベストセラー入りしている。
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(THIS Inc. CEO グレッグ・マキューン)
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