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現役医師の提言「日本は日本のコロナを考えよう。過度の自粛は必要ない」

プレジデントオンライン / 2020年6月25日 15時15分

5月1日からの東京都の感染者数。東京都発表より作成(画像提供=大和田潔)

■東京の感染者数は「氷山の一角」だ

日本の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は一旦収束しています。けれども、東京に20人、50人発生しているじゃないか、東京の抗体保有率は0.1%にすぎないと不安に思われる方も多いでしょう(※1)。「発症者があふれている東京から、流行していない当県への出張は最小限にしてほしい」と言われてしまったと出張がえりの患者さんも頭をかきながら嘆いていました。

6月24日時点での東京の感染者数です。このような図表を見せられれば、だれでも感染が収束していないように思います。次に、こんな図表はどうでしょう。日本の流行の全体図の中に組み込んでみました。東京の流行は山のすそのの一部でなだらかになります。

2月15日からの日本と東京の感染者数の推移
2月15日からの日本と東京の感染者数の推移(画像提供=大和田潔)

さらに、アメリカと並べたこの図はどうでしょう? 日本の流行の増減を確認することは難しくなります。この3枚のパネルは衝撃的ではないでしょうか?

2月15日からの米国と東京を含む日本の感染者数の推移(米国:緑、日本:黒、東京:赤)
2月15日からの米国と東京を含む日本の感染者数の推移(米国:緑、日本:黒、東京:赤)画像提供=大和田潔

米国の人口は3億人で日本の約3倍ですが、6月下旬でも連日数万人が新規発症していて、累計で200万人を大きく超えています。日本の新規発症数のピークは1000人以下でした。PCRを十分に行ったとしても、さすがに連日1万人にはならなかったと推測されます。

国による流行のイメージが全く異なることをご理解いただけたものと思います。日本は、大きな経済損出被害を計上し多額の補償費が必要になりました。さらに検証すべき点は、6月の発症者は、合計200~300人に達していながらその2割、40~60人が病院に担ぎ込まれてはいません。日本のメディアの報道の偏り、日本の状況を鑑みないパンデミックした諸外国を引用した発言の独り歩きが続いていることが確認できるでしょう。

■SARSが流行した国に共通すること

さて、日本の全体像を確認した私たちは次にベトナムを見てみることにしましょう。

ベトナムの感染者数の推移(画像=Worldmeter)
ベトナムの感染者数の推移(画像=Worldmeter)

日本よりさらに少なくピークでも数十人、総計発症者300人で死亡者はゼロです。ベトナムは中国と1400kmの距離で接していて、お互いの人々の往来も盛んです(※2)。驚くことに中国と国境を接するベトナムの方が、日本よりずっと少ない被害であることがわかります。

同様にシンガポールでは総計4万人の発症者、死亡者は26人と死亡者がとても少ない優等生。香港は1000人で死亡者4人、マレーシアでは8000人で死亡者100人です。発症者がいても、死亡者が極端に少ないことがわかると思います。日本では2万人が発症しましたが、死亡者は1000人以下で収束しました。

私が、ベトナム、香港、シンガポールなど中国の周辺国をとりあげた一つだけの重要な理由があります。SARS:重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome)が2003年に流行した国々ということです。

中国国内でも、新型コロナウイルスは武漢が震源地でしたが、それ以外の地域ではあまり流行しませんでした。SARSも同様で、震源地の広東省以外はあまり流行しませんでした(※3)。近隣でははやらず少し離れた省で流行しました。震源地から距離のあるところに流行する特徴は、新型コロナウイルスによく似ています。

■さまざまなコロナウイルスが流行していた可能性

また、SARSは新型コロナウイルス同様、前年の11月ごろに発生し世界で2月から4月に流行し収束していきました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすウイルスは「SARS-CoV-2」とよばれます。新型コロナウイルスの抗体検査の名前も「Anti SARS-CoV-2検査」と名付けられています。SARSとCOVID-19は良く似た振る舞いであることがわかります。

台湾も新型コロナウイルス感染症制御に成功した国ですが、同時にSARSが流行した国の一つでもあります。そして、台湾でSARS最後の例が確認されたことは有名です(※4)

北アメリカではSARSは香港からカナダのトロントへ飛び火してごく狭い範囲の感染で収束したので、ほとんどのカナダ人やアメリカ人には感染は拡大しませんでした。人口4000万人のカナダでは、新型コロナウイルスによって10万人が感染して8000人の死亡者を出しています。

それでは、日本でのSARS流行はどうだったかというと実は判然としません。少数発症したかもしれないけれど、確認例もなく流行は終了したことになっています。当時、SARSは新規のウイルスで十分に検査できませんでした。17年も前の2003年当時は、技術が追いついていなくて大量の検体を迅速に正確に検査できませんでした。また、遺伝子検査も現在のPCRのように発達しておらず国立感染症研究所などから苦労についての報告書が作成されています(※5、※6)。人類の技術が追いついていなかったため、全世界での8000例は、たぶん一部にすぎません。日本でも、気付かれない軽症SARSが流行していた可能性は否定できません。

私は、17年前にSARSが流行したから新型コロナウイルスがあまりはやらないと言いたいわけではありません。SARSはコロナウイルスの変異体の代表的な一つにすぎません。私は、変異を繰り返したさまざまなコロナウイルスがSARSのように繰り返し中国の辺縁国に流行していた可能性が重要だと考えています。

■市中のPCR陽性者数は6%なのに、抗体検査陽性は0.1%

さて、ここで「新型コロナウイルスに選択的な抗体検査(ここでは単に抗体検査と記す)の陽性率の罠(わな)」について考えてみたいと思います。

4月の時点で市中の6%ぐらいの人がPCR陽性だったという報告が複数あったことを憶えていらっしゃる方も多いでしょう。てくてく歩いて別件で入院しようとした元気な人の6%が陽性だったのです。その後も流行していたので、市中のPCR陽性者はさらに増加していたはずです(※7)。それなのに東京では、市民のわずか0.1%が抗体検査陽性でした。

「なぜ、抗体検査陽性の割合が、PCR陽性だったはずの6%をはるかに下まわってしまうのか? 検査が間違っているのか?」と疑問に思われるでしょう。

私は、両方の検査の結果はどちらも正しいだけでなく矛盾しないと思っています。そして、そこに真実が隠されているのではないかと考えています。

■抗体検査は厳密に設計されている

現在用いられている抗体検査は、非常に厳密に設計されました。季節性コロナウイルスはもちろん、SARSやMERSのような他のコロナウイルスに反応しないように設計された試薬を用いています(※8)。逆にその厳しい選択性が落とし穴となります。

厳密性を重視した抗体検査で陽性になった人は、新型コロナウイルスだけが持っているものに選択的に反応する抗体を持っていることを示しています。一方で、新型コロナウイルスは従来のコロナウイルスと似た部分がたくさんあります。さらに、人体は似たものを拡大して抗体を作る力も持っています。従来のコロナウイルスの抗体で新型コロナウイルスを撃退できた人は、新型コロナウイルス特有の抗体を作らなくて済んだはずです。

人間の免疫は、体を守れればそれでいいと判断します。とりあえず今あるものでウイルスが体内からいなくなるのであれば、新たに抗体を作る必要はありません。そういった場合、新型コロナウイルスだけに選択的な抗体を持っていないので、罹患(りかん)しても抗体検査は陰性になります。

つまり、たくさんの方が感染したとしても厳密性を重視した抗体検査では陰性に出てしまうわけです。それが、一つ目の「抗体検査の罠」です。

■抗体が低めの人は「陰性扱い」かもしれない

「何を絵空事を」あるいは「世迷い言を」と思う方が多いと思います。

実はそれを支持する面白い論文が発表されました。なんと、きちんとPCRで確認されて新型コロナウイルスにかかっても重症の人の半数しか、選択的抗体が上昇しなかったことが報告されました(※9)。Nature Medicineの論文のデータを見ても、抗体価が低い人も多く個人差がとても大きいものでした(※10)。抗体検査は臨床研究と異なり実測値ではなく、厳密性を担保するために一定の値以下は陰性と判断しますので(カットオフ値と呼びます)、低めの人は検査上陰性扱いになってしまっているかもしれません。軽症で済むため抗体が低めになりそうな日本人には、二つ目の「抗体検査の罠」となります。

また、新型コロナウイルスは免疫をすり抜けてしまうウイルスではないか? というのも間違いです。どちらの論文でもデータを見ると、免疫は発動していて選択的抗体の上昇は個人差が大きく軽症者ではあまり上昇していません。

また、デレク・ロウ博士が「コロナウイルスに対する人間の免疫反応に関する朗報」として抗体だけでない、細胞性免疫についてCellに掲載された論文について述べています。抗体だけでなく、人間の免疫力の総合力で新型コロナウイルスに対応できる可能性についての意見です(※11)

■急性胃腸炎として免疫獲得した人も多いだろう

日本では、季節性コロナウイルスが冬の感冒の主たるウイルスの一つです。私たちを含め中国周辺の国々の人々は、SARSを含めた人知れず変異を繰り返している季節性コロナウイルスに繰り返し感染してきました。接触感染のコロナウイルスは、主症状の一つが下痢です。気管支炎や肺炎ではなく急性胃腸炎として免疫獲得された方も多いことでしょう。

以前のウイルスによる免疫が新型コロナウイルスにも応用が効くものだとすると、「選択的な抗体検査の陽性率が低いから新型コロナウイルスが再度流行しやすい。第2波に備えよ」という考えは短絡的であることがわかります。

日本に2019年年末から翌年年始にかけて、3密を避けるどころか何の備えもすることなく知らず知らずのうちに新型コロナウイルスが持ち込まれていました。けれども、肺炎の大流行は起きませんでした。もちろん、医療崩壊なんて起きずに気づかずに過ぎてしまいました(前回の記事)。3月からの持ち込みも、厳しい規制をすることなく徹底されない自粛のみで小規模に収束しました。

今後、日本人におけるPCR陽性患者さんの抗体検査の陽性度合いや陽性率の検定などが待たれます。きっと100%なんかではなく、発表された論文の通りに大幅に下回るのではないか、抗体価が低い人が多いのではないかと私は予想しています。PCR陽性でありながら抗体検査では基準値以下で陰性と判定された人々は、過去の感染のおかげによる免疫の総合力で新型コロナウイルスを撃退した人々です。そして、その人々は新型コロナウイルスを自力で治した多くの日本人を代表する人々でもあります。

■PCR陽性者が増えても、重症化しなければ問題ない

私は、ブログで「日本は日本のコロナを考えればいい」と繰り返しお伝えしてきました。長年の臨床経験から、大流行している国々とは異なる日本の流行を鑑みて推察したものでした。その後、メカニズムについて補完してくれる論文が、このように散見されるようになってきています。起きた出来事がまず観察され、少し後になってその理由がわかるというのは医学ではよくあることです。

大切なのは、当初うちたてた方針に修正を繰り返しながらファクトフルネスに適応していくことです。

緊急事態宣言が解除されて初めての週末を迎え、大勢の人が行き交うスクランブル交差点=2020年5月30日、東京都渋谷区
写真=時事通信フォト
緊急事態宣言が解除されて初めての週末を迎え、大勢の人が行き交うスクランブル交差点=2020年5月30日、東京都渋谷区 - 写真=時事通信フォト

もちろん、人々が接触を減らすことはインフルエンザを含むどんなウイルス感染の流行も減らす効力を持ちます。「重症者が増加したら」そのときに方策を考えればよいだけです。PCR陽性者が増えても重症化しなければ問題ありません。ときどきPCR陽性の人が出現している中国とベトナムのフライトはすでに再開していますが、ベトナムでの再流行は起きていません。

人間は、新型コロナウイルスのような水際のないウイルスを防疫で完全に防ぐ方法を持っていません。そのかわりに、これまで日本で暮らしていた私たちの免疫システムが最新鋭の優れた防疫システムとして働いてくれています。

私達がコロナのことを忘れていても、免疫システムは健気に常時稼働してくれているので大丈夫です。私は、人体の免疫力の一部分しか反映しない抗体検査が陰性であっても不安に思うことはないと思っています。いつもどおり手洗いとうがいをして日々体調を整えて暮らしていくことにしましょう。なんていうことはありません。これまでどおり、日本の清潔な日常を暮せばよいだけだったのです。

※編集部註:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と、原因ウイルス(SARS-CoV-2)の説明に分かりづらい点があったため、修正しました。(6月26日11時50分追記)

■English abstract

Traps of new coronavirus antibody tests
Japan won only by the advantage of the ground, not strategy

In Japan, cases of COVID-19 (SARS-CoV2) are gradually declining. In particular, the antibody-positive rate to the virus is found to be only 0.1% in Tokyo (Reference 1). Against this background, will Japan experience another wave of the pandemic in the future? The study proposes that the scene is unlikely. Furthermore, the study considers it the “pitfall of the antibody test” for COVID-19.

In other parts of the world, Vietnam is one of the first countries to overcome the pandemic with a cumulative onset of only 300 people and zero death toll. Surprisingly, Vietnam shares a broad border with China spanning 1,400 km with many people crossing the said border (Reference 2). The situation in China is similar. Wuhan in Hubei Province was identified as the epicenter. However, many people from other provinces did not suffer from COVID-19.

The same is true for SARS, for which the outbreak was less severe except for the epicenter Guangdong (Reference 3). Taiwan has also succeeded in controlling new coronavirus infections and is one of the countries where SARS has become an epidemic. It is famous because the last case of SARS was confirmed in this country (Reference 4). However, the overall picture of the SARS epidemic in Japan remains unclear. In 2003, no devices or genetic tests were yet developed for detecting SARS infection. In fact, the National Institute of Infectious Diseases in Japan reported that the situation was difficult at the time (References 5 and 6).

Currently, very few people in Tokyo were positive in the COVID-19 antibody test. In contrast, approximately 6% of the population in the city was PCR-positive in April 2020. This finding is in contrast with expectations as the number of PCR-positive cases in the city should have increased further with the increase in outbreaks (Reference 7). It seems contradictory.

Current commercial antibody tests used clinically are very rigorously designed. The reagents were designed to remain non-reactive to other coronaviruses, such as SARS, MERS, as well as many strains of seasonal coronaviruses (Reference 8). The study infers that the strict selectivity is the absolute pitfall of the tests. In an antibody test with the abovementioned narrow window, cases who responded to the conventional coronavirus antibody (cross-antibody) will produce a negative result. This tendency is the first “antibody test trap.” However, many scholars consider this statement “a castle in the air.”

In fact, several interesting papers supporting it were published. Many studies reported that selective antibodies increased in only half of severely ill patients who were infected with COVID-19 and confirmed by RT-PCR (Reference 9). Reviewing data from a paper published by Nature Medicine, many people showed low antibody titers, which can spread in a very large range (Reference 10).

Dr. Derek Lowe also cited a study on cell-mediated immunity published in Cell, which focused not only on antibodies but also on the “good news about the human immune response to coronaviruses.” In other words, apart from antibodies, the human immune system responds to the new coronavirus as well (Reference 11). However, mankind has not developed a method for examining total immune resistance. This aspect constitutes the second “antibody test trap.”

In Japan, seasonal coronaviruses are one of the main viruses during the winter season. People in countries around China, including Japan, have been repeatedly infected with seasonal coronaviruses, such as SARS, that have undergone countless unknown mutations. One of the main symptoms of contact-borne coronavirus is diarrhea. However, detection is difficult as many people may have been diagnosed with acute gastroenteritis instead of bronchitis or pneumonia.

As such, the study proposes that the abovementioned scenario is the reason why COVID-19 did not spread in Japan. In other words, Japan won not by strategy but  by the advantage of location.

【参考文献】
1.Tokyo has 0.1% positive rate for coronavirus antibodies, government says
2.ベトナム・中国間の国境線画定・領土問題
3.Spatial pattern of severe acute respiratory syndrome in-out flow in 2003 in Mainland China; BMC Infectious Diseases,  31 December 2014
4.SARS国別報告数まとめ
5. SARS(重症急性呼吸器症候群)とは
6.SARS コロナウイルス. 国立感染症研究所ウイルス第3部. 田口文広.
7.COVID-19症状ない他疾患患者の約6%にPCR陽性;日経メディカル4月24日
8.Elecsys® Anti-SARS-CoV-2(RUO)
9.Systemic and mucosal antibody secretion specific to SARS-CoV-2 during mild versus severe COVID-19
10.Antibody responses to SARS-CoV-2 in patients with COVID-19, Nature Medicine volume 26, pages845–848 (2020)
11.Good News on the Human Immune Response to the Coronavirus、Targets of T Cell Responses to SARS-CoV-2 Coronavirus in Humans with COVID-19 Disease and Unexposed Individuals,

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大和田 潔(おおわだ・きよし)
医師
1965年生まれ、福島県立医科大学卒後、東京医科歯科大学神経内科にすすむ。厚労省の日本の医療システム研究に参加し救急病院に勤務の後、東京医科歯科大学大学院にて基礎医学研究を修める。東京医科歯科大学臨床教授を経て、秋葉原駅クリニック院長(現職)。頭痛専門医、神経内科専門医、総合内科専門医、米国内科学会会員、医学博士。著書に『知らずに飲んでいた薬の中身』(祥伝社新書)、共著に『のほほん解剖生理学』(永岡書店)などがある。

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(医師 大和田 潔)

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