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トヨタ社長とアリババ創業者のスピーチに共通する「4つのF」とは

プレジデントオンライン / 2020年6月28日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maybefalse

人の心に刺さるスピーチにはどんな共通点があるのか。NY在住の事業戦略コンサルタント、リップシャッツ信元夏代氏は「ドラマチックに話を盛って語ろうとする人が多いが、過去の自分の体験や気づき、失敗談などを語るほうがいい。たとえばトヨタ自動車の豊田章男社長とアリババ創業者であるジャック・マー氏は、いずれも『4つのF』を用いている」という——。

※本稿は、リップシャッツ信元夏代『世界のエリートは「自分のことば」で人を動かす』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

■「未来予想図」を語り、20億円の融資を手に入れたジャック・マー

ストーリーテリングが巧みなビジネスリーダーと言えば、ジャック・マー(※)が筆頭に挙げられるでしょう。

※ECサイト「アリババドットコム」、決済サービス「アリペイ」など、幅広いサービスを展開する「アリババグループ」創業者

1年に1回しか鶏が食べられないという貧しい家庭に育ったジャック・マー。ジャック・マーが語るのはサクセスストーリーではありません。

大学には3回落ち、仕方なく教職につき、それからアメリカに渡っても、ハーバード大には申請しても10回断られたと言います。

「職を探していてもすべて断られました。たとえホテルの仕事であっても、おまえでは容姿が悪すぎると断られたんです」

起業家になるとも想像しておらず、インターネットのビジネスを始めた時も決して大きなビジョンがあったわけではないと語っています。

■失敗談を語るための「4つのF」

実はジャック・マーは「4つのF」(① Failures:失敗、過ち、② Flaws:欠点、③ Frustrations:フラストレーション・不満・苦悩、④ Firsts:初めての体験)を利用して、自分の失敗談から始めているのです。つまり、自分の「失敗談」をストーリーの流れに取り入れているのです。

「私がこれほど有能だったからサクセスしたのです」というストーリーではなくて、「失敗続きだった私。でも失敗を何度もしてそこから学んだから、ビジネスを修正して成功できたのです」というストーリーに作っています。

成功ストーリーでは、受け手は「この人が特別だからできたんだろう」と感じるだけですが、失敗をストーリーに入れることで「その方法をマネすれば、自分にもできるかもしれない」と感じさせるわけです。

「成功物語を勉強するな。失敗から学ぶべきだ。過去18年間、私たちは毎日失敗したり拒絶されたりしてきました」

「拒絶されたら痛いのが当たり前です。だからこそ夢に向かって愚かであり続け、闘い続けなくてはなりません。失敗を避けるのではなくて、失敗に立ち向かうことを学ぶのです」

彼のこうしたメッセージは多くの起業家やビジネスパーソンにインスピレーションを与えるものでしょう。

■だから孫正義は20億円をアリババに投資した

またジャック・マーのビジネスを成長させたのも、ほかならぬストーリー能力でした。ソフトバンクの孫正義が中国のビジネスプレゼンのミーティングに来ていた時のことです。

ジャック・マー以外のすべての人たちは、しっかりしたビジネスプランや戦略を発表したなかで、彼だけがそのような戦略はなく、どんな未来を作りたいのか、アリババはどんな会社になってどう世界に貢献するのか、これまでの軌跡とこれからのビジョンをストーリーとして語りました。

リップシャッツ信元夏代さん『世界のエリートは「自分のことば」で人を動かす』(フォレスト出版)
リップシャッツ信元夏代さん『世界のエリートは「自分のことば」で人を動かす』(フォレスト出版)

それに孫正義は感銘を受け、20億円をアリババに投資したのです。

ジャック・マーが語ってみせたのは、ビジネスプランや戦略ではなく「未来予想図」で、それが明確なビジョンにつながっていることです。

どんな未来を作りたいのか、どう世界に貢献したいのか。

それをストーリーとして語れたところに、ジャック・マーの力があります。だからこそ、このリーダーを信じたい、ついていきたい、投資したい、ビジネスを共にしたいと思わせる力があるのです。ビジョンを形にする、最大の近道がストーリーなのです。

■トヨタの豊田章男社長の有名な「ドーナツ」スピーチ

たしかに、ジャック・マーのストーリーは波乱瀾万丈ですが、自分のビジネスにはそんなにドラマチックな出来事がないという方もいるかもしれません。

よくある誤解が、ストーリーというのはドラマチックに話を盛って語ることだという認識です。それは大間違いです。ストーリーを語るというのは、あくまで自分の体験や気づきを語ることです。

そのいい例が、トヨタ社長の豊田章男氏が、バブソン大学の卒業生に送った祝辞スピーチです。これをサンプルにして、ストーリーの構造を見ていきましょう。

カナダ・ノバスコシア・ハリファックスにあるトヨタの看板
写真=iStock.com/tomeng
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tomeng

構造としては、ここでは3つのストーリーが効果的にスピーチに組み入れられています。まず1つ目は豊田社長が、バブソン大学に留学していた時の話です。

「私はバブソンでは、寮と教室と図書館を往復する、ひと言でいえばつまらない人間でした」

と卒業生たちに向かってマジメな学生時代を明かしつつ、「しかし、卒業してニューヨークで働き始めると、夜の帝王になったのです」と落としてみせて、聞き手を笑わせます。

「人生で喜びをもたらすものを自分で見つけることが大切です。私がバブソン生だった頃、自分で見いだした喜びは……」と期待を盛り上げつつ、「ドーナツ」と意外なオチを言って、ドッと笑いがわき起こります。「人生で喜びをもたらすもの」=「ドーナツ」という方程式をまず印象づけます。

■豊田章男「変化から逃げず、変化を受け入れるということを学んだ」

そして2番目が少年時代のストーリーです。

「少年の頃、タクシードライバーになりたいと思っていました。夢は完璧にはかないませんでしたが、きわめて近いことをしています。ドーナツより大好きなものがあるとしたら、それは車です」

子どもの頃から車が大好きだったというエピソードが語られます。

そして3つ目が、彼が社長に就任してからのストーリーです。

「私が社長になってからすぐに景気が後退し、東日本大震災も発生しました。リコール問題ではワシントンの公聴会で証言しなければなりませんでした。その時は、本当にタクシードライバーになっていればよかったと思いました」

ここでは艱難(かんなん)辛苦のストーリーが語られます。

「バブソンで過ごした日々で、変化から逃げるのではなく、変化を受け入れるということを学びました。みなさんも同じであってほしいと思います」

さらに、52歳でマスタードライバーになるための挑戦をしたと話します。

ここで語られるのは、タクシードライバーになりたかった少年が、バブソン大学で勉強に打ち込み、トヨタのCEOになった時に苦労にあいつつも、52歳の時にはマスタードライバーの訓練に挑戦するという車愛にあふれたストーリーです。

「では早送りして、みなさんが成功して、本当に大好きなことをしているとしましょう。CEOからCEOへのアドバイスをさせてください。しくじらないで。当たり前と思わないで。正しいことをやりましょう。年を取っても新しいことに挑戦してください。みなさんの時代が、美しいハーモニーと、大いなる成功と、たくさんのドーナツで満たされますように!」

砂糖のかかったドーナッツ2つ
写真=iStock.com/paci77
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paci77

最後に「ドーナツ」で締めるところが、またうまい。「ドーナツ」ということばが、メッセージを伝えるツールとして、あたかもクシで通してつなげている感じに仕立てています。

■自分にしか語れないストーリーを発信していく力

以上、ここで語られるエピソードじたいは決して変わったものではありません。

けれども「自分だけのドーナツを見つけよう」というテーマに向かって、3つの体験がストーリーとして語られているため、聞き手の心と頭に焼きつくスピーチとなっています。

そして、このスピーチを聞いた卒業生たちやその家族たちは、トヨタという企業にも好感を抱いたのではないでしょうか。

あなたの肩書や資格よりも、実はあなたしか持っていない、あなたのストーリーが相手を動かす近道なのです。

リーダーは、その企業のブランドの顔でもあることをしっかりと認識し、自分のことばで、自分にしか語れないストーリーを発信していく力を備えておきたいものです。

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リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)
事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー
ニューヨーク在住。1995 年、早稲田大学商学部卒業。ニューヨーク大学スターン・スクールオブビジネスにて経営学修士(MBA)取得。早稲田大学卒業後すぐに渡米し、伊藤忠インターナショナル・インク(NY)に勤務。その後マッキンゼー・アンド・カンパニー(東京)を経て、2004 年に事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンスを設立。著書に『20字に削ぎ落とせ』(朝日新聞出版)などがある。

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(事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー リップシャッツ 信元 夏代)

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