なぜ私たちは「病的な嘘つきのナルシスト」に投票してしまうのか
プレジデントオンライン / 2020年7月1日 9時15分
※本稿は、ビル・エディ著『危険人物をリーダーに選ばないためにできること』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■他人の人生をストレスだらけにする「対立屋」
私たちがふだんどのように考え、感じ、行動するか。それが、私たち一人ひとりのパーソナリティです。たいていの人は、揉め事に巻き込まれるとそれを解決しようとしますが、対立を煽るパーソナリティの持ち主の場合は、逆なのです。
彼らはあらゆる関係は本質的に敵対的なものだと考えます。彼らは絶えず自分は誰かの敵とみなされ、脅かされていると感じ、しばしばきわめて敵対的な対応をするのです。その結果、彼らはほぼどんな場合でも、次から次へと不要な対立を生んでいきます。
さらに悪いことに、彼らは対立を解消することには興味がありません。それどころか、対立を悪化させます。他人が何人傷つこうと、自分の行いが自分の首を絞めることになろうと、お構いなしです。彼らはみな、同じような言動のパターンを共有しており、いったんわかればその言動のパターンは、きわめて予測しやすいものです。
彼らの言動には大きく4つの特徴が見られます。
2 何にでも白黒をつけずにいられない
3 攻撃的な感情を抑制できない
4 極端に否定的な態度を取る
対立屋は自分自身がなぜ対立を煽る言動を繰り返しているのか理解していないので、事態が悪化するとどんどん保身に走って、身の回りの人々を「非難の標的」として攻撃します。そのため、対立屋はしばしば本当の友人を持てずに、コミュニティの中でも危険な人という評判を得てしまいます。身の危険を感じるような脅迫をしてきたり、果てしない不平不満で周囲の人の人生をストレスだらけにしたりしてしまうのです。
■「カリスマ的な魅力」に覆われた本性
いやな隣人、あまりに気むずかしい同僚や上司、事業主。みなさんの家族の中にもいるかもしれません。実際、対立屋はどこにでもいます。ただ、ほとんどの人は、対立屋は単に短気で適応が苦手で孤立した人と思うばかりで、対立屋のパターンが見えていません。今日問題とされていることの中心にしばしば対立屋がいることや、その数の多さがわからないのです。
対立屋はどの国、どの文化でも一定の存在感を持っています。しかも、その数は年々増える傾向にあります。荒野に一人で住んでいるのでもない限り、対立屋を避けることはできません。
対立屋にはもう一つ、驚くべき特徴があります。彼らが欲しいものを手に入れられるのは往々にしてそのおかげなのですが、彼らはきわめて魅力的で説得力のあるカリスマの持ち主にもなれるのです。彼らは、少なくとも最初のうちはそのように振る舞います。ところが、親しくなったり、対立が発生したりすると、化けの皮がはがれて、本性を見せ始めます。
■対立屋の言動を変えることは「無理」
ここで強調しておきたいのが、対立屋は自ら扱いづらい人間になろうとしているわけではない、ということです。あらゆるパーソナリティは遺伝的傾向、幼少期の経験、文化的な環境という三つの基本的な要因から生まれますが、どの要因も成長の過程でコントロールできるものではありません。
大切なのは、彼らの言動を変えようとするのではなく、自分の言動を適応させることです。彼らに反省させようとしたり、過去のことをいつまでも掘り返したりするのは避けてください。いまどうすべきか、たとえば自分自身の将来にかかわる選択肢のみに集中するのです。そのうえで、自分のパートナーやチームの指導者、上司、地元のあるいは国家の指導者には対立屋を選ばないように気をつけましょう。
対立屋の多くが、ナルシストやソシオパスといったパーソナリティ障害の特性をある程度備えています。ナルシストやソシオパスはどこにでもいるものですが、極端な例は精神疾患とみなされ、『DSM–5 精神疾患の診断・統計マニュアル』というアメリカ精神医学会の診断マニュアルで取り上げられている10種類のパーソナリティ障害にも含まれています。
■配偶者や同僚を下に置かないと気がすまない「ナルシスト」
ナルシストは、他人より上だとみなされること、他人より上位に立つことばかり考えています。ナルシストの対立屋は、配偶者、子供、同僚、隣人、上司、組織長など、自分が非難の標的とした相手を、しばしばおおっぴらに貶める発言をします。自分が上だと見せるため、他者を下に置かないと気がすまないのです。そうした理由から、彼らは政治に関心を持ちます。政治的な争いは、彼らが他のすべての人より優れているところを見せる機会を提供してくれるからです。
ただし、対立屋は一般的に、自分が立候補している職業に必要となる柔軟な政治的手腕は持っていません。そのかわり、彼らは人々の注意をそらして、常に非難の標的に目を向けさせるようにします。他のすべての人々に、自分は「あの酷い候補者」よりはましだと説得するのです。また、彼らは壮大な構想を持っています。彼らはしばしば、その構想は実現可能だが、それは自分が指導者になったときに限ると他人に思い込ませます。
対立を煽る言動のパターンを理解するのに重要なナルシストの特性には次のようなものがあります。
2 壮大な構想
3 無限の権力を持つという妄想
4 他者への共感の欠如
ナルシストは心から自分や自分の構想を信じているので、一見とても魅力的で、信頼のおける、説得力のある人物に見えるかもしれません。ただし、彼らは、自分自身を含め、あらゆる人をだます傾向があります。彼らは必ずしも嘘つきではないのですが、自分の能力や構想については無自覚に誇張したり非現実的になったりします。ある大がかりな研究によれば、アメリカ人の6.2%ほどが自己愛性パーソナリティ障害を持っています。これはおよそ2000万人に相当します。
■「ソシオパス」には直接対決を挑んではならない
『DSM–5』には、反社会性パーソナリティ障害(ASPD、ソシオパス)の特徴もいくつか列挙されています。ソシオパスが対立を煽る言動のパターンを見つけるには、以下の四つの特性を探しましょう。
2 欺瞞(嘘や言いくるめ)
3 強い攻撃性
4 良心の呵責の欠如
ある調査では、全人口の4%近くの人が反社会性パーソナリティ障害を持っていると指摘されています。ソシオパスの対立屋は当然、他人を支配し、恥をかかせることができる立場――政治、ビジネス、組織のリーダー、犯罪など――に引き寄せられます。彼らに近づきすぎたり、彼らの企てに参加したり、あるいは彼らに直接対決を挑んで彼らの標的にならないのが身のためです。
ソシオパスの対立屋の中には、公金を横領できるからとか、他人から大々的に金を巻き上げる計画に参加できるからという理由で政治に引きつけられる人もいます。そのような支配やリスクの高い行為が彼らには楽しいのです。また、自分の政治力を使って親分風を吹かせ、大勢の人々を馬鹿にしたり、コントロールしたり、排除したり、破滅させたりします。
彼らは悪事を働いているとき、非難の標的を使って人の目をそらします。他の政治家のことを調べさせているうちに、自分たちは自由に権力やその他望むものは何でも握れるからです。スリがぶつかってきて、「あっ、UFO!」と空を指さして叫ぶようなものです。ぶつかられた人が思わず上空を見ている隙に財布を抜き取るのです。
■ヒトラーもスターリンも「悪性のナルシスト」だった
ここからが本当に怖い話なのですが、この2つのパーソナリティ障害の両方を備えている人は「悪性のナルシスト」だと考えられます。専門家によればこれは「治療法のない、不治の」障害です。
悪性のナルシストは、特に強力で、説得力のある、自信にあふれた、攻撃的な人に見えることがあります。とてつもなく壮大な計画を推進しているときは非常に魅力的なカリスマの持ち主に見えることもありますが、彼らは無慈悲で、情け容赦がなく、良心に欠けています。専門家によれば、彼らは偏執的で加虐的でもあります。
ドイツ生まれの精神科医エーリヒ・フロムはこの悪性のナルシストについて次のように説明しています。
■「対立を煽る人」をリーダーにしてはいけない
先にも言及したパーソナリティ障害の大がかりな研究によれば、アメリカ人の約0.7%がこの二つの障害を両方とも備えています。少ないように見えますが、これはおよそ200万人ということです。彼らはどんな職業、どんな階層にも存在しうるのです。
これでナルシストやソシオパス、それを組み合わせた悪性のナルシストを含む対立を煽る政治家の「パターン」を見つける基本はおわかりいただけたでしょう。[図表1]は彼らの特徴を簡単にまとめたものです。
一般的に、パーソナリティ障害の診断は経験を積んだ精神衛生の専門家でさえ、しばしば意見が食い違います。もっとも、私たちにとってはそれで十分です。私たちは診断しようとしているわけではなく、「対立を煽る言動のパターン」があるかどうかを知りたいだけです。これがある場合、その人は危険な、人をだます、選出してはいけない人である可能性があることを肝に銘じてください。
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個人や組織が「対立屋」に対処することを支援する会社、High Conflict Instituteの共同創設者兼トレーニングディレクター。アメリカ、サンディエゴにある国立紛争解決センター(National Conflict Resolution Center)のシニアファミリーメディエーター。弁護士、臨床ソーシャルワーカーの資格を持ち、ペパーダイン大学ロースクールのストラウス紛争解決研究所(Straus Institute)およびモナーシュ大学法科大学院の非常勤講師を務める。200万人以上の読者を持つPsychology Todayのウェブサイトに連載を持つ。最新刊は『危険人物をリーダーに選ばないためにできること』(プレジデント社)。
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(ハイ・コンフリクト・インスティテュート創設者 ビル・エディ)
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