マスコミはなぜ、中国コロナ事情を偏見を持って見るか
プレジデントオンライン / 2020年7月4日 11時15分
■コロナが丸裸にした中国への日本の本音
本書はコロナ禍における著者の怒りと責任感の結晶だ。
コロナ禍でも日本が捨てきれない「中国バイアス」に対する怒り。そして、裏付けのある情報を届けようという責任感。この2つの要素が書籍という形で結実したのだ。
今回のコロナ・ショックがあらわにしたのは、日本でくすぶる中国に対する固定観念の強さだ。中国の感染症の専門家によって「人から人への感染」の実態が明らかにされても、日本では対岸の火事という扱い。「中国という特殊な環境だからこそ感染が拡大しているのだ」というバイアスから抜け出せなかった。
メディアも中国のコロナ情勢を色眼鏡で見ていた。2020年1月下旬、浦上氏が「日本でも感染者が増える」と編集者や記者に話すと、「いたずらに危機感を煽ってはいけない」「日本人の専門家の意見があるから必要ない」と取り合ってもらえなかったという。
「あれだけ中国のテクノロジーの情報はないか、と私に聞いてきた人たちが、ウイルスの話になると途端に中国の専門家の意見を聞かなくなる。これが本音だと感じました」
浦上氏はこの「中国バイアス」こそが、執筆の原動力にもなったと語る。中国が嫌いな人にこそ読んでほしいという。
■大手マスコミを遥かに凌駕するメディア
メディアにそっぽを向かれ失意と怒りの中にあった浦上氏が独自に取り組み始めたのが「一人通信社」だ。中国の現地情報を、日本語に翻訳してTwitterで公開した。テレビ局のプロデューサーに「うちより情報が速い」と一目置かれるなど、内容と速さで大手マスコミを遥かに凌駕するメディアを作り上げた。
「コロナの深刻さを理解してもらえなかった怒りから始めた一人通信社の作業は、次第に責任感に変わっていました」
その一人通信社の活動を基に書き上げたのが本書である。この半年程でコロナ情勢がどのように推移したかを時系列で把握するのに役立つ一冊だ。
そんな浦上氏はコロナ・ショックを「通信簿」に例える。
「コロナ前からやるべきことを着実にやっていた国や企業が高い評価を得ました」
確かに、給付金支給の遅滞は行政のデジタル化、在宅勤務をめぐる混乱は柔軟な働き方がそれぞれ導入されていなかったために生じたと言える。どちらも随分前から議論されていたが、十分に導入が進んでいないと新型コロナウイルスに評価されたのだ。
コロナ対応における日本の通信簿は、優等生のそれではない。しかし、感染第1波を中間試験と見れば、期末試験となる第2波で挽回する余地は多分にある。無論、期末で良い成績を取るには、中間試験の振り返りが必要だ。
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1974年、福岡市生まれ。経済ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業後、98年から西日本新聞社。2010年に中国・大連の東北財経大学などを経て、米中ビジネスニュース翻訳、経済記事執筆・編集など。
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(プレジデント編集部 撮影=よねくらりょう)
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