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「しばらく使用禁止に…」多目的トイレ清掃員が見た多目的すぎるトイレの使い方

プレジデントオンライン / 2020年6月30日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■多目的トイレはしばらく使用禁止にするかも

「多目的トイレね、しばらく使用禁止にするかもって」

新宿で清掃員をしているその老人と出会ったのは数日前、ようやく東京都の休業要請も全面解除されたその日、老人は黙々と床清掃をしていた。モップの使い方もおぼつかない様子、声を掛けてみたらまだ新人だという。ハキハキと丁寧な口調で背筋をピンと伸ばす、あとで聞いたら私のことを施設の関係者だと勘違いしたらしい。

「例の事件のせいだね。なんていったかねあの芸人さん」

老人のことは仮に大山さんとする。大山さんの休憩時間に待ち合わせて行きつけの喫茶店へ。歌舞伎町のど真ん中のこの喫茶店は24時間営業でがんばっている。コーヒーだけではなく食事もどうぞと言ったら大山さんは知る人ぞ知るナポリタンを頼んだ。60代前半、清掃は新人だが新宿は長いそうだ。離婚して独身、一人暮らしで住まいもここから自転車で行ける距離だという。

「この仕事始めてそんなに長くないけど、場所が場所だからね、多目的トイレじゃなくてもすごいよ」

■多目的トイレから男女4人が出てきた

私はこの2週間、多目的トイレを中心に清掃にあたる方々に話を聞いた。みな口をそろえるのは、客のトイレの使い方が「すごい」ということだ。私は大山さんに正直に話す。とんでもない話はないかと。

「そうね、男女4人が出てきたことはあるよ。男3人と女1人ね」

なんと4P!?

「それは知らないけど楽しそうに出てきたよ。酔っ払ってたけどね、男はみんな若い子だったね、女の方は太ってるおばちゃんだったけど、なにしてたんだろうね、使用後はきれいだったし」

4Pと早合点してしまったが何なのだろう。いずれにせよ不気味な話だ。

「そのおばちゃんに1万円もらったよ。コロナだってのに景気のいい人だった。口止め料かね。ま、あんたに話しちゃってるけどね」

大山さんはひょうひょうとして愉快な人だ。新宿の会社に勤めていたが早期退職、年金のつなぎに清掃のパートを始めたという。

「そうね、いきなりコロナで参ったよ。年寄りだから死んじゃうかもだけど、仕事ないよりいいかなと前向きに考えてるよ」

■おむつ台に舟盛りの舟が置いてあった話

生涯現役社会と言えば聞こえはいいが、このコロナ禍でもっとも危険なはずの高齢者も清掃や警備の最前線で働いている。この6月にも高齢のパート清掃員がコロナウイルスに感染している。

「注射器は落ちてたね。別に珍しくないらしいけど、俺はびっくりだよ。足震えたよ」

それはびっくりに決まってる。糖尿病のインスリン注射とかじゃないのか。でなければ犯罪だ。警察はどうだったのか。

「いや、それがでっかい注射器なんだよ。すごくでかいの。ジュースの缶くらいのやつ」

ジュースの缶とは昔のストロー缶くらいということか。それはたぶん犯罪ではない。変なプレイに使ったということか。正直、あまりに内容がブッ飛びすぎて困る。

「おむつ台に舟盛りの船が置いてあったことがあったね、どーんと舟盛りの舟。舟だけで刺し身はのってなかったけど、酔っ払って持って来ちゃったのかね」

■清掃員に性欲をぶちまけるトイレ利用者

もう理解不能だ。大山さん、盛ってませんよね?

「いや本当だよ。こんなわけのわからないこと言う必要ないもん。長くやってる同僚の話だともっとすごいよ、"掃除の爺さんにトイレで無理やり性交されてる彼女の姿が見たい"って男に頼まれたって。もちろん即通報だけど。あとあえぎ声が聞こえたんで警備員呼んで解錠したら全裸の男がスマホでAV見てたとかね」

なぜに寝取られ、なぜに全裸。その後もそっち系の話を散々していただいたがさすがにカット。とにかく予想以上にひどい。ちなみに大山さんの施設は緊急時には声掛け即解錠が許されているという。よく聞く「便所飯」の類いはどうか。

「ハンバーガーの紙袋とかコンビニ弁当の容器とかはあるよ。あんなとこで食べてうまいもんかね。でも私がまだ(仕事について)短いのもあるんだろうけどうちの施設じゃそんなにはいない。あ、寝てる人はいたね」

酔いつぶれたり昼寝だったり、酔いつぶれは迷惑とはいえ不可抗力だが、後者はすごい。そんな奴いるのかと思ったらネットで検索すると出るわ出るわ、なんとトイレ仮眠を勧めているサイトもある。不可抗力で寝てしまうならともかく、さすがに迷惑、まして多目的トイレは一つしかないのだから。

■くしゃくしゃに丸められた離婚届が多目的トイレのゴミ箱に

「女性もひどいもんだよ。便器が血まみれだったり、生理用品がテープで壁にくっついてたり、気持ち悪いよ」

大山さんは心底嫌そうな顔をする。私もナポリタンが進まなくなった。ここの大きなマッシュルーム好きなのに。モラルに男女差などないということか。

「これも同僚に聞いた話だけど、トイレで商売してた女もいるんだ。そいつは常習犯でカメラに映ったら即追い出してたそうだよ。警察の話じゃ近くのパチンコ屋に入り浸ってる女で、金に困ると商売するんだって」

こういう言い方はよくないかもしれないが、女性なら新宿で割の良い仕事はいくらでもありそうなものなのに。これに限らず警察沙汰は多そうだ。

「コロナもあって人は少なかったからね、私はそんなにひどいのは経験しないで済んでるけど、それでも(働き始めて)短いのにびっくりすることばかりだよ」

人生経験の長いはずの大山さんでも経験したことのない日本の多目的トイレの現実。大山さんによればくしゃくしゃに丸められた離婚届が多目的トイレのゴミ箱に入っていた時は切なかったという。確かにそれは切ない。しかしなんでまたそんなもの多目的トイレに捨てるのか。多目的過ぎる。

■無抵抗かつおびえながらの清掃業務を強いられる

「入り口に監視カメラはあるけど俺たちは何もできないからね。パートの年寄りが正義感出してひどい目に遭うのも嫌だし、見て見ぬ振りさ。警備員には伝えるけど、警備員も年寄りだからやる気はないね。障害者の人には悪いけど、文句言われてもすいませんってあやまるしかないね」

一般人が多目的トイレを使うことは何も問題ないが、目的外利用は論外だ。詳しくは書けないが大山さんの施設は場所柄どうしても客筋は悪くなる。それでも無抵抗かつおびえながらの清掃業務を強いられる大山さんたちがあやまり通しというのは理不尽極まりない。

「だからさっきも言ったけど多目的トイレはやめちゃおうって話が出てるの、必要な人には悪いけどね」

私はこれが一番怖い。これまでは施設で処理していた小さな事案の数々が、例の芸人の事件のせいで注目を浴びてしまった。施設側からすれば何かがあったら困る。事なかれで多目的トイレを閉鎖する施設も出てくるかもしれないし、現に一時的とはいえ使用禁止となった施設もあると聞く。

多目的トイレは車いす、オスメイト、介助者が必要な障害者はもちろん乳幼児や高齢者などには欠かせない施設だ。2000年の旧ハートビル法から2006年のバリアフリー新法に移行してトータル20年、まさか21世紀の日本でここまでモラルが乱れることになるとは。本当に必要な人が安心して使えるように、また大山さんのようなエッセンシャルワーカーも安心して働けるように、新たな法整備で対応するしかないだろう。そのきっかけがあの芸人のトンデモ事件とは、なんとも皮肉な話だが。

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日野 百草(ひの・ひゃくそう)
ノンフィクション作家/ルポライター
本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。近刊『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。

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(ノンフィクション作家/ルポライター 日野 百草)

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