敏腕コンサルが発言の最後を必ず「以上です」で締めるワケ
プレジデントオンライン / 2020年6月29日 15時15分
※本稿は、深沢真太郎『数学的に考える力をつける本』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■正しいけど言いたいことが分からない上司の言葉
わかりやすい説明をするためには、短文で伝えることがポイントになります。
事例で説明します。次の文章を読んでみてください。
「来週の会議は重要な意思決定をする場だ。月に1回しか開かれないし、役員が全員参加するし、議題も経営判断が求められるものばかりだ。特に社長は会議資料の内容や体裁に細かい指摘をするタイプなので、作成する資料にはヌケモレがないようにしておかなければならない。あ、以前に資料に不備があって社長にこっぴどく叱られたこともあったよ。絶対に不備がないよう、よろしく頼むぞ!」
おそらく中間管理職の人が部下に資料作成を命じているのでしょう。しかし、仮に言っていることがすべて正しいとしても、部下は何を言われているのかすぐにはつかめないと思われます。
要するに言いたいことは、「資料の不備はNG」ということです。ならば、次のように短文と数学コトバ(※)を使って簡潔に伝えれば十分ではないでしょうか。
「来週の会議は重要な意思決定をする場だ。だから、資料に不備がないように厳重なチェックをよろしく頼む」
「来週の会議は資料に不備がないよう入念にチェックをよろしく。なぜなら、重要な意思決定をする場だからね」
このほうが相手に伝わりやすいはずです。
※「たとえば」「つまり」のように「思考を促すコトバ」のこと。詳細はこちらの記事に記載。
■ムダに長い話は人の時間を奪う罪深き行為
私は、短いことはとても重要だと考えています。もちろん、どんな話も常に短くしなければいけないわけではありません。そんな人との会話はきっとつまらないでしょう。
しかし、短く済ませるべきときにそれができないのは問題です。
たとえばパーティなどでの乾杯スピーチ。参加者の手にはグラス。全員が「乾杯!」の瞬間を心待ちにしている。そんな局面でダラダラと長く話すのは御法度(ごはっと)とでしょう。
ムダに長い話は人の時間を奪う罪深き行為です。極端な表現かもしれませんが、簡潔に伝えられない人は「会話の犯罪者」なのです。
余談ですが、年配の人が「スピーチと女性のスカート丈は短いほうがいい」というジョークで笑いを誘おうとすることがあります。スカート丈についてのコメントは控えますが、スピーチについてはまったくそのとおりだと思います。
何かを伝えるということは、それを聞く誰かがいて、その人物の時間を奪っているという事実をまず認識したいものです。
■カーナビをイメージして話そう
「会話の犯罪者」にならないためにまず大切なのは、「伝え方のお手本」を決めることだと考えます。周囲に「この人の話はいつもわかりやすいなあ」と思える人物がいれば、その人をお手本にするとよいでしょう。
私は実は、「カーナビ」をお手本にしています。
カーナビと数学には共通点があります。
まず、いずれも最短距離をよしとしていることです。基本的にカーナビは遠回りのルートを推奨しませんし、あなたもあえて遠回りを探したりしないでしょう。数学ももっとも短く解くのが、よい解法とされます。
また、私はカーナビの「伝え方」がとても数学的であることにも気づきました。
カーナビの発するコトバの特徴を思いつくままに列挙してみます。
----------
・とても具体的
・方向を指示している
・短い
----------
ざっとこんなところでしょうか。
優秀な数学教師の話し方は、カーナビと同じです。授業で余計なことは言いません。話が脱線したり、不要なところで不要な定理を持ち出すようなこともしません。
■わかりやすい話のメカニズム
たとえばカーナビが発する「100メートル先の交差点を、右折です」というフレーズ。100メートルという正確な数字。交差点という具体的な情報。右折という方向づけ。余計な情報は一切ありません。
よく考えれば当然のことです。もしカーナビが発する情報がわかりにくかったらどうなるか。事故を誘発する可能性があります。「犯罪的カーナビ」と言われても仕方ありません。
車の運転をしていると想像してみてください。
カーナビが「100メートル先の交差点を、右折です」と伝えます。あなたは、その認識で運転を続けます。すると実際に交差点が見えます。右折という指示があるので、あなたは何の迷いもなく交差点の右折レーンに車を進めるでしょう。
つまり、こう言えるのです。
事前に進行方向を教えてくれるから、スムーズにその方向に進める。
これは車の運転だけに当てはまることではありません。
実は日常の会話においても、数学コトバが聞き手に進行方向を教えてくれるのです。
あなたが「なぜなら」と言えば、聞き手は次にあなたが述べる内容が【理由】であることを瞬時に理解するでしょう。すなわち、その話の進行方向が【理由】になることを事前に知るのです。そしてそのとおり【理由】が述べられる。だからその話がスッと入ってくる。
これが私の考える、わかりやすい話のメカニズムです。
----------
伝える側:「この先、右折です」
↓
伝えられる側:「ああ、この先で右折するのか」
↓
伝える側:実際に交差点に差しかかり「右折です」
↓
伝えられる側:理解
【いい伝え方】
伝える側:「なぜなら」
↓
伝えられる側:「ああ、このあとに理由を述べるのか」
↓
伝える側:実際に理由を述べる
↓
伝えられる側:理解
----------
私が本書の中で頻繁に使っている「たとえば」という数学コトバも同じです。このコトバが出てきた瞬間に、あなたは次の進行方向が【事例】であることを知り、そして、そのとおり【事例】が登場します。
たったひとつの数学コトバをはさむだけで、文章をスムーズに読み進めることができるのです。
■「以上です」は大切な数学コトバ
私は企業研修や大学の講義において、参加者に説明やプレゼンテーションを要求することがよくあります。そこで気づくのは、多くの人が「自分の話が終わった」という事実を聞き手に伝えないことです。
第1章で紹介した数学コトバには含めませんでしたが、数学では「以上です」や「証明終わり」といったコトバもよく使います。読んで字の如ごとく「お伝えするべきことはもうありません」という意味です。
このコトバは、聞き手に対してある方向づけをします。
「私の話を聞く時間はこれで終えましょう」という方向づけです。このコトバがなかったら、聞き手は話が終わったのか、まだ続くのかどうかを判断できません。
↓
伝えられる側:「ああ、この話は終わったんだな」
↓
伝える側:実際に話を終える動作をする(黙る、着席する、など)
↓
伝えられる側:理解
こんな経験をしたことはありませんか。
会議などである人が発言し、発言がいったん終わります。その直後、話が完全に終わったのか、まだ続くのか、どちらだろう? という「空気」が流れるという経験です。ほんの数秒間ですが、微妙な雰囲気になるものです。
そんな空気が流れる理由はたったひとつ。発言者が「以上です」というコトバを発しないからです。
「そんな細かいこと、どうでもいいじゃないか」と笑わないでください。私は教育現場で、必ず最後に「以上です」と言うように指導しています。
きちんとコトバで方向づけをしなさいということです。
■できるコンサルの話の終え方
ここで、ある経営コンサルタントのことを思い出しました。
以前、各分野で活躍するトップランナーがディスカッションをする場に参加させていただいたことがあります。テレビなどにコメンテーターとして出演している人や、有名な著作者などもたくさんいました。
その中に、私から見てきわめて数学的に思考し、伝える経営コンサルタントの人がいました。聞けば外資系コンサルティングファームで徹底的に鍛えられたとか。数学にも大変興味があったそうです。
この人も、数学コトバをきちんと使って伝え、発言の最後には必ず「以上です」と言ってマイクを置く人物でした。この人の説明がきわめてシャープであり、かつわかりやすかったこともつけ加えておきます。
そう言えば、カーナビも最後に必ず「目的地周辺です。案内を終了します」とアナウンスしていますね。
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ビジネス数学教育家
BMコンサルティング代表取締役。一般社団法人日本ビジネス数学協会代表理事。国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者。1975年神奈川県生まれ。幼少の頃より数学に没頭し、日本大学大学院総合基礎科学研究科修了後、大学院にて理学修士(数学)を取得。予備校講師、外資系企業の管理職などを経て、2011年に「ビジネス数学」を提唱する研修講師として独立。大手企業やプロスポーツ団体の研修を手がけ、数字や論理思考に強いビジネスパーソンの育成に務める。2018年からビジネス数学インストラクター養成講座を開講。指導者の育成にも従事している。主な著書にベストセラーとなった『数学女子 智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(日本実業出版社)、『「仕事」に使える数学』(ダイヤモンド社)、『数字アタマのつくりかた』(三笠書房)など多数。
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(ビジネス数学教育家 深沢 真太郎)
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