池上彰さんの話がいつもわかりやすい数学的な理由
プレジデントオンライン / 2020年6月30日 15時15分
国連が「国際ガールズ・デー」に制定した2015年10月11日、都内で開催されたイベント「羽ばたけ!世界の女の子」のトークショーに参加したジャーナリストの池上彰さん(東京都渋谷区の国連大学) - 写真=時事通信フォト
※本稿は、深沢真太郎『数学的に考える力をつける本』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■池上彰の話はなぜ、聞き手に伝わりやすいのか
意識するだけで、伝える内容が劇的に「わかりやすい」という評価に変わるポイントがあります。もちろん私も普段から実践していることです。
それは、「少しだけ『間(ま)』をとる」ということです。
「少しだけ」では人によって解釈が異なってしまいますから、具体的に「1秒」としましょう。ただし、厳密に1秒間というより、イメージで理解してください。
たとえばテレビ番組でおなじみのジャーナリスト・池上彰氏の解説です。どんな伝え方をしているでしょうか。非常に論理的かつ短い文章で伝えているのに加え、適度に「間」をとってゆっくり伝えているのではないでしょうか。
あなたの周囲には、早口で話が長いうえに論理性がなく、何を言いたいのかわからない人がいると思います。本人はマシンガントークと自称しているが、周囲からは煙たがられているタイプです。
そんな人と比べるにつけ、池上氏の伝え方はなんとわかりやすいのかと感嘆するに違いありません。池上氏の伝え方のポイントのひとつが、「間」なのです。
■「伝える」という行為は夫婦のジョギングと同じ
話の「間」はどのようにとればよいのでしょう。次のような意識を持つとよいと思います。
数学コトバ(※)の両脇に1秒の「間」をつくる。
もっとも実践しやすいのは、一文を話し終えたときです。本書でご紹介したフォーマットに当てはめてみましょう。
短文→(間)→数学コトバ→(間)→短文
話には「間」があったほうがいい。誰しもわかっていることです。しかし、「間」をとれと漠然と言われてもどうしていいかわからないものです。
そこで、ルールをつくりましょう。次ページのようなわかりやすいルールがあれば、格段に実践しやすくなります。
・短文にし、話し終えるごとに間をとる
・数学コトバを使ったら間をとる
私は「伝える」という行為は夫婦のジョギングと同じだと思っています。
会話には話し手(夫とします)と聞き手(妻とします)がいます。ふたりは並んでジョギングをしています。もし、健脚の夫が自分のペースで走ったら、妻はついていくのがやっとになります。最終的には走ること自体がイヤになってしまうかもしれません。まさにマシンガントークを聞かされているときと同じです。
しかし、夫がちょっと先に進んだらペースを緩め、妻を待ってあげるようにしたらどうでしょう。妻は安心してずっと一緒に走ることができます。
言うまでもなく、聞き手を待つ行為が「間」をとることです。ちょっと離れたらすぐペースを緩めて合わせるのが夫婦のジョギングのコツ。話も同じです。私がこの章で再三、短いことは重要だと申し上げる理由はここにあるのです。
夫婦のジョギングを意識して、1秒の「間」をつくる感覚を身につけてください。
※「たとえば」「つまり」のように「思考を促すコトバ」のこと。詳細は前回記事に記載。
■堀江貴文が学生に向けたスピーチのすごさ
数学的に伝えている事例を引き続きご紹介します。
ビジネスの世界で結果を出してきた人たちは、本当に「数学的に伝える」行為をしているのでしょうか。
まずはマルチな実業家・堀江貴文氏です。
2015年3月の近畿大学の卒業式における堀江氏のスピーチは、当時、話題になったと記憶しています。グローバル化とは何なのか、これからの時代はどう生きていくことが重要なのか、といったことを熱意を込めて語っていました。次はその一部です。内容の賛否ではなく、あくまで伝え方という視点から見てください。
人間なんて、5年先の未来でさえも予測できません。僕だって予測できません。いまから10年前に、みんながスマートフォンを持って、歩きスマホとかしながらツイッターとかラインをしている姿を想像できましたか? できなかったでしょう? 僕もできませんでした。
だから、未来のことなんて考える意味なんてない。そして、過去を悔やんでいる暇なんて、みなさんにはないはずだ。なぜなら、これからグローバル化で競争激化して(あっという間に世の中は変わっていく=著者注)、そして、未来には楽しいことしかないと思います。それはどうやったら楽しくできるか。それはいまを一生懸命生きることです。
全体的に短文を多用し、しばしば「間」をつくって話をしていました。学生に向けたスピーチのため、わかりやすい伝え方を意識したからではないでしょうか。
引用した部分で堀江氏が伝えたいことは明らかに後半です。その重要な局面で使われているのが数学コトバです。ちゃんと伝えたい。わかってほしい。そんな思いが、話の進行方向を伝える「数学コトバ」になったという解釈は、少々強引でしょうか。
私には、この堀江氏のスピーチが、数学コトバを使って人生の進行方向まで伝えているように思えたのですが。
■成功者は数学的に伝えている
続いて東進ハイスクールの現代文講師である林修氏。
実は林氏はもともと数学を教えていたそうです。テレビなどのメディア露出の場でも数学の重要性を説いており、そのメッセージは数学を専門とする私よりずっと影響力があるようです。次は、なぜ林氏が予備校講師になったのかを語ったテレビドキュメンタリー番組での発言です。
やっぱりやりたい仕事ではなかったですね。(なぜなら)同級生がみんな官僚とかね、医者だとか弁護士とかでね、特にバブルの時代でね、国際的に派手に活躍しているときに、僕もそれをやろうとして、ことごとく失敗したんですよ。
(だから)僕はね、官僚として出世している連中と自分を比較したときに、彼らのような粘り強さがない。(一方で)キレはあるかもしれないけど、あの粘り強さは僕にはないですね。(だから)そういうところで勝負したら負けるんですよ。
「短文→数学コトバ→短文」という原則どおりに話しています。文脈上は数学コトバを使うべき箇所が4カ所あります。しかし、林氏は数学コトバを使いませんでした。そのかわり、1秒以上の「間」をつくって話しています。
伝える内容を構築するために、考えるときは数学コトバを使う。だが、実際に伝えるときには不要なコトバは発しない。
きわめて数学的な伝え方です。数学的な人物である林氏ですから、伝え方も数学的なのは当然なのかもしれませんが。
数学的に伝えるのがいいのは、聞き手にきわめてわかりやすくなるからです。そして実際、多くの成功者も伝えるべき局面でそれを実践していることがわかりました。
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ビジネス数学教育家
BMコンサルティング代表取締役。一般社団法人日本ビジネス数学協会代表理事。国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者。1975年神奈川県生まれ。幼少の頃より数学に没頭し、日本大学大学院総合基礎科学研究科修了後、大学院にて理学修士(数学)を取得。予備校講師、外資系企業の管理職などを経て、2011年に「ビジネス数学」を提唱する研修講師として独立。大手企業やプロスポーツ団体の研修を手がけ、数字や論理思考に強いビジネスパーソンの育成に務める。2018年からビジネス数学インストラクター養成講座を開講。指導者の育成にも従事している。主な著書にベストセラーとなった『数学女子 智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(日本実業出版社)、『「仕事」に使える数学』(ダイヤモンド社)、『数字アタマのつくりかた』(三笠書房)など多数。
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(ビジネス数学教育家 深沢 真太郎)
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