ストレッチ店のダメ社員が「副業ユーチューバー」で大当たりできたワケ
プレジデントオンライン / 2020年7月3日 9時15分
※本稿は、俣野成敏『サラリーマンを「副業」にしよう』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■“コロナ危機”が副業を後押しする
新型コロナウイルスが経済に与える影響は、むしろこれから本格化してくるといわれています。サラリーマンの中には、残業代がカットされたり、自宅待機で給料が減額されたり、すでに何かしらの影響を受けている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相変わらず、サラリーマンの厳しい懐具合が良くなる兆しはありません。そんな中で最近、世間で注目を浴びているのが“副業”です。2018年1月に厚生労働省がモデル就業規則を改定してから早2年余り。今、コロナ危機をキッカケに、真剣に副業を検討し始める人が増えています。
副業というと、真っ先に思い浮かぶのがUber Eatsの配達員や、Amazonなどと契約している個人宅配などではないでしょうか。もしくは、残業の代わりにコンビニなどでのアルバイトを考えている人もいるかもしれません。確かに、こうした仕事は自分の空き時間を使ってできるので、サラリーマンとの掛け持ちもしやすいイメージがあるのでしょう。
■不器用なダメ社員が、一躍人気YouTuberに
しかし、個人が少ない時間の中でたくさんのお金を稼ごうと思ったら、基本的には時間単価の高い仕事をするしかありません。では、高単価が取れる仕事が何かというと、「技術力」か「オリジナリティがあるもの」になります。
オリジナリティで勝負していて、誰でも知っている仕事の1つにYouTuberがあります。無料動画サイトYouTubeの月間視聴者数は世界で20億人といわれ、サイバーエージェントの子会社Cyber Nowによると、国内YouTuberの市場規模は2022年には579億円になるとの予測を発表しています(日経新聞Web版、2020年1月13日)。しかし、市場自体は伸びているとはいえ、YouTuber自体は参入障壁が低いため、日々プレイヤーも増えています。
そんな中にあって、わずか半年余りで登録者数約15万人というYouTubeの人気チャンネルを持つに至ったYouTuberがいます。私がビジネスオーナーをしている会社の社員だった深井裕樹君です。「社員だった」と過去形になっているわけは、当社公認の副業YouTuberとして、個人事業として十分な収益を上げるようになってきたため、子会社として分社化し、当人をその会社の社長にすえたからです。
「事業化を成功させ、社長になるような人であれば、もともと優秀な人だったに違いない」と思われる方もいるかもしれません。しかし深井君は、どちらかというと不器用で、むしろ人心掌握は苦手です。
■突出した技術はないが行動力があるオタク肌
深井君は、私の会社に入社後、トレーナーとしてスタートしましたが、技術も人並みはずれて突出していたわけではありません。ただ、周囲の目も気にせず突き詰める行動力があるオタク肌の社員でした。後に店長選抜に立候補するも、2回続けて落選。3回目にして、晴れて店長になりましたが、自店スタッフとの人間関係の構築が上手くいかず、1年後には自ら店長を降りるという挫折も経験しました。
弊社では、新規顧客の獲得には、有料の新規客獲得サイトも利用しています。サイト自体は多くの会社が使っているありふれたものですが、深井君は店長時代に覚えたネットマーケティングによって、余分な費用をかけずに店の新規顧客を約1.5倍に増やすという快挙を成し遂げました。
「だったら、このノウハウを集客で困っている他社に販売してはどうか?」と外販をやらせてみましたが、半年で撤退。決裁権者へのB to Bセールスには向いていませんでした。しかし、その後、それまでの経験をTwitterに応用し、フォロワー獲得に成功したことから、他のSNSにも進出。個人の名前で始めたYouTubeチャンネルの「ズボラストレッチ」で人気に火が付いたのです。
■面倒くさがり屋さんのための動画
無料のSNSから収益を上げる方法は、主に2つあります。1つは自分の撮る動画内で商品を紹介するなどして、企業から紹介料をもらうこと。もう1つは動画に広告を付けることで、動画の再生時間に応じて広告収入を得る方法です。深井君がTwitterを始めたのは、2019年の夏頃。その半年後にYouTubeにたどり着いたのは、セールスが苦手な深井君にとって、動画広告による収益化のほうが取り組みやすかったことが挙げられます。
深井君がYouTubeを始めた当時、すでにストレッチをウリにしている人気YouTuberは存在していました。しかし、彼らの多くはパーソナルトレーナーか理学療法士。つまり、本格派のストレッチ動画が彼らの持ち味だったため、家でもトレーニングをしたいトレーニングマニア向けのモノでした。深井君も最初は彼らにならって、筋トレ好きのトレーナーを装っていました。しかし「やっているうちに、違和感を覚えた」といいます。
実際に、お店でお客さんと接している時に、「家でもやってくださいね」とマニュアルを渡しても、家で自主トレをやってくる人は、ほとんどいませんでした。「自主的にトレーニングをすることが前提になっているけれど、本当はやらない人のほうが多いのでは」と思った深井君は、「ダメだったら消せばいい」と覚悟を決めて、「トレーニングなんか、本当はやりたくない面倒くさがり屋さんのための動画」に切り替えました。すると、「やりたいけれども続かない」「自主トレできない」といった人たちの心をつかんだのです。
■ビッグキーワード×ニッチで差別化する
ここに、他人との差別化をするための秘訣があります。過当競争が起きている業界で、差別化する方法とは「ビッグキーワード×ニッチ」です。別の言い方をするならば、「すでにあるものと、ないものを掛け合わせる」こと。
「すでにあるもの(ビッグキーワード)」とは、この事例ではストレッチのこと。すでに認知されているもの、成長している分野、世間で受け入れられていて需要の多いマーケットのことです。そこに、ニッチ(まだないもの、希少性)を掛け合わせます。この“ニッチ”というのは、自分の強みに関係していることでなくてはなりません。
実は、深井君は弊社に来る前は、ラーメン屋の店長をしていました。最初はお客さんとしてストレッチを受けにきた時に、その技術に惚れ込み、弊社に入社したわけですが、たとえその当時に、「ズボラストレッチ」のYouTubeチャンネルの構想を思いついたとしても、実現は不可能だったでしょう。入社後、10年近くもストレッチと向き合ってきたからこそ、できたことなのです。
あなたの技術がその業界No.1である必要はありません。しかし、受け手があなたに専門性を認めるだけの何かは必要です。
■過当競争の中でも生き残る人とそうでない人の違い
お金を稼ぐことが簡単でないことは、誰しも実感していることと思います。なのに、なぜか副業のことになると、人は「簡単に手っ取り早く稼ぎたい」と考える傾向があるようです。普通は、副業は本業ほどには時間を取れません。
自分の空き時間を使うということは、当然ながら自分の自由時間が減ることを意味します。趣味の時間はもちろんのこと、副業を始めることで睡眠時間が少なくなったりする傾向があります。軽い気持ちで始めた副業で体調を崩してしまったり、もしくは、手っ取り早く稼ごうとして、詐欺まがいの情報商材に手を出して損をしてしまったり、といった事例も少なくありません。
緊急事態宣言が発令された時には、外に出られない人が急増したことで、ますます注目され、参入者が増えたYouTube。最近は芸能人の参入も相次ぎ、転機を迎えているといわれています。深井君の事例には、過当競争の中でも生き残る人とそうでない人の違いや、他人と差別化を図るための秘訣が隠れていると思います。ぜひ、参考にしていただけたら幸いです。
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ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー
30歳の時にリストラに遭遇。同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の中で現役最年少の役員に抜擢、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家としても活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、その啓蒙活動にも尽力している。自著著書に『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部シリーズ、共著に『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』などがある。
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(ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー 俣野 成敏)
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