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「重い女」や「束縛する男」が実家の話題を避けがちな理由

プレジデントオンライン / 2020年7月8日 11時15分

中野信子『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ新書)

相性が悪い親とは距離を置いたほうがいいのか。脳科学者の中野信子氏は「毒親育ちの呪縛から抜け出す方法がある。毒親の存在を否定するのではなく、自分を育て直すことが大切だ。毎日、花に水をやるように、自分に愛情を向けてみてほしい」という――。

※本稿は、中野信子『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■「毒親」は自分を知るための指標になる

親も、毒親になりたくてなっているわけではないのかもしれない、と理性では理解できても、傷が癒えるわけではありません。また、痛みがなくなるわけでもないでしょう。

そもそも、自分を傷つけた相手を、親であるからということだけで許せるかどうかといわれれば、かなりの困難があるのではないでしょうか。もちろん外向きには、もう許しています、と言えたとしても、本心からそれを口にするのはかなりの努力が必要でしょう。

毒親、という言葉は、自分の親がそうであったのかなかったのかを判別して、彼らを責めることによって自分の抱えた痛みをいっとき軽くしようとするために使うのではなく、自分の持っている傷がどれほど深く、それを癒していくためには何が必要なのかを知るために使うべきです。

そもそも、何が毒で、何が毒ではなかったのか、はっきりとわかるような行為もありますが、判別するのが難しいようなものもあります。ひとえに、その子と、親との関係性によって決まるものなのです。

言ってしまえばつまり、毒親というのは、そういう親のことそのものを指すというよりも、その子と親との相性の悪さを示す概念であり、相性の悪い親のもとで育ってしまった「毒親育ち」の子どもたちの、現在の状態がどれほどのものかを問う指標として有効だといえるでしょう。

■自分の傷の深さを見つめ、癒すこと

毒親、という言葉にもし反応して、自分もこの心の裡の苦しさを吐露したい、という気持ちになったのなら、その気持ちの強さが、毒親、という指標によって測ることのできる傷の深さです。親たちをむやみやたらと攻撃するために『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』を書いたのではありません。

たとえば、親の価値観を押しつけられてきて息苦しかった、ということで自分は毒親育ちですという人の場合、女の子らしくすることを強要されて嫌だった、勉強ばかりさせられたなど、確かに子にとっては苦痛があったかもしれない。

若いアジア ビジネスの女性の肖像画
写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi

けれど、親だって子どもが社会に出たときに困らないようにと考えて、心を鬼にして、子どもをしつけなければという使命感があったでしょう。子が初めて出会う愛情の対象が親だとするなら、初めて出会う不条理の体現者もまた親なのです。

毒親なのかどうかが判然としないようなケースでは、たしかに子側があまり良い印象を持っていない以上、親はいたらない親ではあったのでしょう。

しかし、そもそもほとんどの親は、いたらない親なのではないでしょうか。今もし自分も親となって、子を育てていく中で自分の親のようにふるまってしまうことに苦しさを感じている人がいたとしたら、自分の傷の深さを見つめ、それを癒すところから始めてみてほしいと思います。

■「自分を育て直す」毒親育ちの宿命から解放される方法

自分の傷の深さを見つめてそれを癒すといっても、癒された経験の少ない人には、どうしていいのかまるでわからないものかもしれません。

傷ついて育った人は、人を傷つける方法は何通りも学んできているでしょうけれど、人に愛情を注いで癒す方法については学んできていないからです。もちろん、そんな状態では、自分を愛してあげるなんていう芸当は至難の業でしょう。

とはいえ一方で、愛情をちゃんと注いでほしかった、という気持ちはずっと抱えてもいます。自分を一人の子どもとしてちゃんと愛して、育て直してほしかった、と、心の奥底で信頼できる人を探しているのです。

時にはその役割を、恋人やパートナーに求めてしまうこともあるでしょう。自然な恋愛感情以上の何かを相手に求めてしまい、それが得られないと世界全体から拒絶されたような絶望感を味わってしまう、という人は、相手を対等なパートナーとしてではなく、かつて子ども時代に自分を愛してくれるはずだった人の代わり、と無意識にとらえている可能性があります。

どんなときも、24時間365日、自分を見つめて、愛して、可愛がってほしい——この要求は、恋人やパートナーにするものではなく、本来は親に対して向けられる要求だったはずのものです。

■求めすぎると「重い女」「束縛する男」に……

しかしながら、それは満たされることがなかったために、恋人やパートナーをその代理として、自分自身を育てなおそうとする。これが、いわゆる「重い女」や、「束縛する男」の一側面なのだろうと思います。

傷ついた子どもを心の中に住まわせている人にとって、恋人は対等な恋人ではなく、自分を愛してくれるはずだった“ママ”の代わりなのです。

しかし、大人としての社会生活のある恋人やパートナーに、24時間365日自分だけを見ていてほしい、と要求するのは、かなり酷な話です。時には相手の犠牲を愛の証として要求するような人もいます。

傷があまりにも深く、だれかを信用したいのにできないからこそ、そういった要求をするのでしょうが、その要求を永遠にかなえ続けることは現実的には無理な話で、早晩この関係は破綻してしまいます。そして、また傷を深くしてしまうのです。

傷を癒そうとして誰かを探すのに、却って自分の傷をえぐるようなことをしてしまう。その繰り返しの中で、自分はもはや救われないのだと思う人もいるかもしれません。

■あなたの人生を変える運命の人の条件

しかし、冷静に考えてみてほしいと思います。子どもを24時間365日、見ていられるのはそれが期間限定であることがあらかじめわかっているからではないでしょうか。

地上の庭でアジアの女の子ブルー散水
写真=iStock.com/Makidotvn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Makidotvn

しかも、その子育て期間ですら、実際には24時間365日ずっと、子どものことを見ていられるわけでもなく、思うようにならないものです。それなのに、恋人やパートナーに対して、いつ終わるかもしれない24時間365日をずっと続けられるでしょうか? さすがに無理があるとは思いませんか。

たしかに、傷を受けた心を癒すためには、親の代わりに、誰か信頼できる大人と1対1の関係を築き直し、愛着を結ぶ関係を作る「育て直し」が必要なことがあります。

もし、恋人やパートナー、もしくは友人に信頼できそうな相手を見つけることができたなら、その人の「愛し方」をよく観察してみてください。

自分本位の愛情で相手を振り回してしまう人なのか。気が向いた時だけ愛して、後は邪魔者扱いするような身勝手な人なのか。それとも、静かな愛情で、いつも、何がどうあろうとパートナーの人格を認め、大切に扱おうとしてくれる人なのか。

もし、この3番目に該当するような人がいたとしたら、その人があなたの運命の人です。運命の人、というのは、結婚する相手、ということではなくて、あなたの人生を変えてくれる人、という意味です。

■花に水をやるように、愛情を自分に向けてみる

そして、この人に頼りきりになるのではなく、この人が自分に向けてくれる淡々とした深い愛情のあり方を、ぜひ、自分でも体得していってほしいのです。

この人が向けるような静かな愛情を、自分でも自分に向けてみるのです。どんな失敗をしても、どんな姿であっても、あなたはあなたであり、僕/私の大切な人です、というメッセージを、自分に発してあげてみてほしいのです。

もしうまくできたら、それが自然にできるようになるまで、毎日、花に水をやるように、最初は意識的にでも、繰り返してあげてほしいと思います。

もしも、そういう相手に日常生活の中では出会うことができなかったとしたら、はじめはプロの手を借りるのも方法です。優秀なカウンセラーの先生方は、自分の心の中にいる傷ついた子どもをどう愛したらいいのか、そのやり方を教えるすべを持っているはずです。

その力を借りるのは、日常生活で関係のある相手に頼るよりももしかしたら数段スマートで、賢い方法だといえるかもしれません。

■愛情をたっぷり得られる環境が最重要な治療になる

著書『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』では、愛情遮断症候群の研究を詳しく紹介しましたが、それには続きがあります。愛情遮断症候群になってしまった子は、原因となった家庭や養育環境から引き離して隔離し、別の養育者を充ててしばらくすると、症状が軽快していくのです。

ストレスの少ない、愛情がたっぷり得られる環境にいることができれば、心身ともに発達の遅れが改善され、すこやかに育つことができるということです。つまり、傷を負ってしまった子どもに対しては、適切な愛情と養育環境を与えることが最も重要な「治療」になるのです。

毒親育ちの子どもたちは、親の期待に沿わない自分を数えきれないほどの回数、繰り返し否定して育ってきています。当然、自尊感情は低く、自分で自分のことを素晴らしいだなどとは到底、思える状態にはないでしょう。

そのために対人関係もなかなか思うようにはいかず、自分のことを認めることもできず、日々、なぜこんな生きづらい生を生きなければならないのかと暗澹たる気持ちになることも少なくはなかったでしょう。

しかし、こうした重荷を抱えながらここまで生き抜いてきたことこそ讃えられるべきことです。信じられないような重さを抱えて、ここまで生き延びてきたことこそ、賞賛にふさわしい事績であると、認めてあげてほしいと思います。

一生懸命生き抜いてきた事実があるのだから、親からダメという烙印を押されたことがあったにせよ、自分をもっと自分で愛してあげてもいいのだと、どうか捉えなおしてあげてほしいと思います。

過去を変えることはできなくても、その解釈と、自分自身の未来は変えられます。『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』が、みなさんが自身への愛情を深め、自分自身の人生を進むための一助になればと願っています。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
東京大学工学部応用化学科卒業。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに、人間社会に生じる事象を科学の視点をとおして明快に解説し、多くの支持を得ている。現在、東日本国際大学教授。著書に『サイコパス』(文春新書)、『キレる! 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」』(小学館新書)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)ほか多数。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)

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