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連載・伊藤詩織「国と闘う風刺漫画家の勝利の笑顔」

プレジデントオンライン / 2020年7月11日 11時15分

自著『Fight Through Cartoons(漫画と共に闘う)』を手にする笑顔のズナール(2019年5月、筆者撮影)。

■政府と闘い続ける風刺漫画家の勝利の笑顔

「私にどうやって中立になれと? 私のペンにだって“スタンド”があるのに!」。風刺漫画家、ズナール(本名ズルキフリー・アンワル・ウルハケ)の言葉に耳を傾けていたジャーナリストたちは一斉に噴き出した。スタンドにはペンたてという意味と政治的スタンスという意味がある。

「私だって怖い。人間だから。でも(風刺漫画家としての)責任と恐怖、どちらが重要か。責任だろう」

この彼の言葉を聴いたのは2018年、ソウルで開かれたアジア調査報道大会だった。イベントではミャンマーで拘束されていたロイター通信のジャーナリスト2名の解放を世界中から集まったジャーナリストたちが求めた。

15年当時のマレーシアのナジブ政権下でも、政権に批判的なジャーナリストらは次々と逮捕されていた。そんな中、風刺漫画家のズナールもマレーシアで9件の扇動罪で起訴された。有罪になれば最長で43年の懲役が言い渡される、そんな経験をしたズナールの口から「恐怖と責任」の言葉を聴き、一人一人の市民としての責任は何だろうとハッとさせられた。

そんなズナールに再会したのは19年、エチオピアの首都アディスアベバでのユネスコ主催「世界報道自由デー」のイベントだった。このとき、マレーシアでの状況は大きく変わり、ナジブ元首相はマネーロンダリングの罪などで逮捕・起訴され、裁判が始まっていた。

■権力の不正に対し故郷でペンと共に闘う

そしてミャンマーで拘束されていた2人のジャーナリストには世界報道自由賞が贈られ、ほぼ1カ月後に彼らは500日を超える投獄から釈放された。ズナールは同年『Fight Through Cartoons(漫画と共に闘う)』を出版。「亡命を考えないのか」と言われても、渡航禁止令が下されてもズナールは権力の不正に対し故郷でペンと共に闘う姿勢を崩さなかった。

逮捕されても手錠を見せながらカメラに手を振る彼はどの写真を見ても笑顔だ。「どんな権利を奪われても、笑っていれば大丈夫。笑いまで禁止にされたらそのときは本当に終わりかもしれない」。

ユーモアと芸術で権力への監視の手を緩めないズナール。今日も笑いながらペンをとるだろう。

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伊藤 詩織(いとう・しおり)
ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信し、国際的な賞を複数受賞。著者『BlackBox』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。

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(ジャーナリスト 伊藤 詩織)

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