東京220人…感染症医師が警鐘「自粛ムードを一気に解除すると、2週間で元の状態」
プレジデントオンライン / 2020年7月9日 15時15分
■死亡率は低いのになぜコロナは怖いか
2020年5月25日、全国で緊急事態宣言が解除され、日本で新型コロナウイルス感染症流行の第1波が去ろうとしている。だが、一部地域では再び感染者が増えるなど、まだまだ気が抜けない。世間を大きく混乱させた新型コロナとは、いったいどんなウイルスなのか。季節性インフルエンザと何が違うのか。感染症専門医であるKARADA内科クリニックの佐藤昭裕院長は次のように語る。
「新型コロナがインフルエンザと大きく違う点の1つに、『肺炎になりやすい』ということが挙げられます。インフルエンザによる肺炎は、高齢者など限られた人のみに起こるのに対し、新型コロナによる肺炎は比較的若い人にも起こっています。死亡率に関してはインフルエンザや他の感染症と同じで、年齢が高いほど上がっていくという結果が出ています。新型コロナの死亡率は、60代以下だと2%以下ですが、80代以上だと11%ぐらいになります。これは、すでに存在している細菌性肺炎と同じくらいの死亡率です。ただ、新型コロナは治療薬もワクチンもないので、かかってしまうと手の打ちようがないというのが他の感染症と違うところですね」
■新型コロナは特効薬がまだ開発されていない
肺炎には大きく分けると細菌性とウイルス性の2種類があり、細菌性は抗生物質、ウイルス性は数は少ないが抗ウイルス薬で治療できる。インフルエンザは抗インフルエンザ薬を投与すれば良くなるが、新型コロナは特効薬がまだ開発されていない未知のウイルスのため恐れられているのだ。
そんな新型コロナウイルスの感染者には、軽症で済んだ人もいれば重症化したり死亡したりした人もいる。何がその違いを生むのか。
「20年4月24日に出た『The New England Journal of Medicine』という有名な医学雑誌で、新型コロナで重症化しやすい人の特徴(重症化因子)が発表されています。高齢(65歳以上)、肺疾患、心臓疾患、糖尿病、肥満、免疫不全(HIV患者、ステロイドや免疫抑制剤使用者、骨髄や臓器の移植をした人を含む)、腎疾患、肝疾患、喫煙などです」
また、子どもは新型コロナの感染率も死亡率も低いというデータが出ているが、1歳未満の乳児は逆に死亡率が上がるのだそうだ。
新型コロナによる肺炎で亡くなったコメディアンの志村けんさんは、ヘビースモーカーだったといわれている。そのことは、やはり死亡したことと関連性があるのだろうか。
「喫煙者は、何も診断されていなくても、CTを撮ると肺気腫や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など何かしらの肺の病気があることが多いです。志村さんの場合も、もしかしたら肺に基礎疾患があった可能性がありますね」
女優の岡江久美子さんも、新型コロナによる肺炎で亡くなった。岡江さんは19年12月に乳がんが見つかっており、20年1月末から2月中旬にかけて放射線治療を行っていた。
「岡江さんがなぜ亡くなったのかという根拠は少し難しく、リリースされている情報だけを見るとあまりがん治療とは関係がないように感じます。乳がんの放射線治療はごく表層に放射線を当てるだけなので、後ろの肺に影響があったり、免疫力が落ちるということはないんですよ。手術後ということと放射線治療後ということは、免疫力低下やコロナ重症化には直接的には関わっていないと思われます」
一方で、抗がん剤は免疫力を下げるため、確実にリスクになるそうだ。抗がん剤治療をしている人は、前述の重症化因子の中の「免疫抑制剤使用者」に含まれる。ただ、抗がん剤治療をしてから数年が経過している場合は関係がないという。
また、大相撲の高田川部屋に所属していた三段目の勝武士さんは、新型コロナによる肺炎で28歳という若さで亡くなった。勝武士さんは、「重症化因子」のうちの「肥満」や「糖尿病」に該当している。肥満の人はさまざまな生活習慣病を合併しているので、重症化のリスクが高かった。
■感染しても軽症や無症状で済んでいる人
重症者や死亡者がいる一方で、感染しても軽症や無症状で済んでいる人もいる。その違いを佐藤院長は次のように話す。
「詳しいことはまだよくわかっていないのですが、人種差は関係ありそうだと思っています。死亡率は黒人が一番高く、次いで白人、黄色人種となっています。ニューヨークでの比較なので、国による医療水準の差はあまり関係ありません。もっとも、社会的(経済的)階層や生活様式の違い、医療へのアクセシビリティの差はあるので、それが関与している可能性はありますが。また、BCGワクチンの予防接種が関係しているという説もありますが、はっきりしたことはわかりません。日本国内でも、どのような人が重症化するかはわかってきています。ですが、軽症者がなぜ軽症で済んでいるかはわかっていません」
さて、新型コロナにかかると、どんな症状が出るのか。芸能人の例を見ていこう。
新型コロナから生還した俳優の石田純一さんは、報道によると、20年4月10日に仕事で沖縄へ行き、11日に体がだるく感じた。13日に東京へ戻るまでホテルで休息したが、その間発熱や咳の症状はなかったという。しかし、14日に病院で診察を受けたところ肺炎の傾向が見られたため入院。PCR検査の結果、15日に陽性と確認された。その後「アビガン」を投与され、4日ほどで平熱に戻ったそうだ。
石田さんは入院中に命の危機を感じ、妻に宛てたメールの中で息子に遺言のような内容を記したという。また、担当医師からは「肺の状態が悪く、もしかしたらもうダメなんじゃないかと思った」と言われたそうだ。誰しもが重症化し、最悪の場合死に至る可能性があるのだ。
また、グラビアアイドルのソラ豆琴美さんは、医師から「軽度の感染者」と診断されたにもかかわらず、その闘病生活は過酷なものだった。
「私は軽度の感染者ですがとにかく苦しいです。悪化するとまともに食事もできず、起き上がることもやっと、息を吸うのもやっとでずっと微熱だったのが最終的に39℃までなりました。咳も止まらず痰がひたすら出てきて息が止まって飛び起きます。ずっと胸が苦しい状態。味も匂いもずっとしません」(Twitterより)
同じく生還者であるフリーアナウンサーの赤江珠緒さんの場合は、連日37.5度くらいの熱がダラダラと続いたという。本人が出演するラジオ番組のホームページで次のようにコメントしている。
「たとえ37度5分ぐらいの熱でも、10日も続けば、うんざりしてきます。その点が、『軽症』とはいえ、今までの風邪などとは違う感じがしました。そして、この病の特異な点は、何といっても孤立、隔離を強いられる点です。
普通の病ならば、家族や友人に、看病をお願いすることもできます。私のように、子供のいる方なら尚更、その存在がありがたいでしょう。
ただ、このコロナウイルスの場合は全く打つ手がありませんでした。玄関まで支援物資を届けてくれる友人の厚意や、宅配の方々の努力によってのみ、生活を維持できる状況です。解熱剤で何とか症状を緩和しつつも、子供がいると昼間に眠ることなどは不可能なので、それは正直、結構きつい状況でした」
同じく新型コロナから生還した宮藤官九郎さんも警鐘を鳴らす。
「みなさんにお願いします、自分は大丈夫だろうと過信しないでください、今とにかく出かけないでください。コロナは非常に厄介な病気だし、軽症だったとしても急変する可能性があります。そして、何より自分が感染させてしまう側になってしまいます。あの時もっと気をつけておけば良かったと後から悔やんでも遅いです」(TBSラジオ「ACTION」での発言)
■第2波が年内に起きる可能性「ほぼ確信」
日本では死亡率が低いとはいえ、人によってはかなりしんどそうだ。しかし、新型コロナは特効薬がない以上、自分の免疫力が身を守るうえで重要になってきそうだ。「免疫力を下げない」ということは可能なのか。
「一口に免疫といっても評価基準はたくさんあり、例えば皮膚も細菌やウイルスの侵入を防ぐという意味で免疫です。そのため、アトピーなどで肌が荒れると免疫力が下がっているといえますが、皮膚をきれいにしたからといって免疫力が上がるということはありません。また、血液の中の白血球にある好中球の数も免疫と関係していますが、数が少なくなると感染症にかかりやすくなることはわかっていても、数が多くなれば感染症にかかりにくくなるということはないのです」(佐藤院長、以下同)
そんな中、新型コロナの重症化に関する話で、最近わかってきたこともあるという。
「新型コロナによる死亡者は肺炎が原因で亡くなったという印象がありますが、実はほかにも2パターンほど原因があるのではないかといわれています。
1つは免疫系が暴走して抗体が過剰に作られることにより(サイトカインストーム)、臓器不全に陥って亡くなるパターンです。関節リウマチに使われるアクテムラという薬が、このサイトカインストームを抑えるのではないかといわれています。
もう1つは、肺の血管が血栓で詰まることによって亡くなるのではないかともいわれています。重症化してから早期に亡くなってしまう方がこれに当てはまるとされています。血栓ができやすいかどうかは、あらかじめ採血して検査すると判明します。血栓ができやすい体質だということがわかったら、血をさらさらにする薬を出すことで対処しています」
肺炎以外の死亡原因と対処法が研究されてきたことで、今後は重症者や死亡者も減っていくかもしれない。
さて、日本では新型コロナの流行はいったん収束の様相を見せ、段階的に経済活動が再開されているが、今後第2波、第3波が起こる可能性がある。20年4月30日のCNNの報道によると、米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、新型コロナウイルスの「第2波」が年内に起きる可能性について、「個人的にはほぼ確信している」との考えを示している。
■たった2週間で元の状態に戻ってしまう
佐藤院長も、「緊急事態宣言発動時のような自粛ムードを一斉に解除すると、たった2週間で元の状態に戻ってしまう、というシミュレーション結果も出ています。再流行は簡単に起こると考えていいでしょう」と言う。
とはいえ、今世界が総力をあげてワクチンの開発を進めている。ワクチンが実用化されれば、第1波ほどの被害は起きないのではないか。
「ワクチンが実用化されるまでには、一般的には最低でも1年半から2年はかかると思います。年内には打てるようになるという報道も出ているので期待はしていますが、実際のところはわかりません。例えば2012年に見つかったMERS(中東呼吸器症候群)はいまだにワクチンができていないので、新型コロナのワクチンもこの先何年もできない可能性だってあるのです。ちなみに米国のファウチ所長も第2波は第1波より厳しいものになる可能性を示唆しています」
つまり、緊急事態宣言の解除後も、当分は引き続き感染予防に努めることが必要だ。具体的にはどんな予防策があるのか。
「重要なことは何も変わらなくて、まず手洗いですね。不特定多数の人が触ったつり革やエレベーターのボタンなどに触れた後、無意識に自分の目や鼻、口に触ってしまう『接触感染』が感染ルートとしては相当多いので、引き続き手洗いは徹底しましょう。
私も医師として日々患者さんに接しているので、人よりこまめに手を洗うようにしています。診察室の机の上に自動で出てくるアルコールの手指衛生剤があるのですが、これを一回の診察で2回ぐらい使っています。これから暑くなると、マスクを下げてしまったり、顔の汗を拭いたりなどして顔に触る機会が増えると思うので、より一層手洗いは大切になります」
また、これを機に痩せることやタバコをやめることも重症化リスクを下げるそうだ。今季は新型コロナの予防に努める人が多かったためか、インフルエンザの感染者数が例年より少なかった。あらゆる感染症を予防するためにも、手洗いは新しい生活習慣にしたほうがいいだろう。
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KARADA内科クリニック院長
医学博士。日本感染症学会専門医。日本内科学会認定医。前東京医科大学病院感染制御部副部長、感染症科医局長。
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(ライター 万亀 すぱえ 写真=時事通信フォト)
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