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保育園に通う子は家庭保育の子より2歳半時点で偏差値が6~7高い

プレジデントオンライン / 2020年7月3日 9時0分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

子育てに親はどう関わるのがベストなのか。東京大学経済学部の山口慎太郎教授は、「2歳半時点の言葉の発達では、保育園に通う子は通わない子より偏差値換算で6~7くらい高い。子どもを保育園に預けて働くことに罪悪感を覚える必要はありません」という——(後編/全2回)。

※本稿は、『プレジデントBaby 0歳からの知育大百科2020』の一部を再編集したものです。

■●各論2

パパの育休が家族にいい影響を与える?

YES 
父親の子育てや家事の時間がUP

「実は、日本の男性育休制度は世界トップレベルなんです」

山口さんによれば日本の育休期間の長さは1年と、先進国の中で第2位。給付金の割合も給与の67%とドイツやフィンランドと並ぶ手厚さだ。

“制度だけ”は北欧のどの国より長い 男性に認められている育休の期間(週)

しかしながら、現実の男性育休取得率は2018年で約6%と低いままだ。

「北欧の取得率は7割であることと比べるとかなり低いです。しかも制度上は1年取れても、実際に取得している期間は数日から1〜2週間程度と短い。せめて1カ月は取ってほしいところです」と山口さんの言葉に力が入る。

山口さん自身は子どもの誕生直後に1カ月子育てに専念した経験がある。この1カ月で自分の中の価値観が大きく変わったそうだ。ここから紹介する男性育休の好影響を知れば、世の父親は育休を取りたくなるかもしれない。

「個人的な意見ですが、男性が育休を取るのにベストなタイミングは子どもが生まれた直後や、退院してきた直後など早い時期。母親も初めての子育てで戸惑っているときに一緒に育児経験を積めるからです」

好影響の一つは父親が育休を取ることで、その後の子育てに積極的になることだ。

「『短い育休をとってもあまり効果はないのでは?』と考える人には、カナダのケベック州の調査を知ってほしい。父親が育休をきっかけにその後も熱心に家事、育児に関わるようになったことがわかったのです」

ケベック州で、父親の子育てや家事時間を育休改革前と改革後1〜3年の期間を比べたところ、子育て時間は1日平均1時間30分から1時間50分に増え、家事時間も1時間10分から1時間25分と増えたのだ。

日本では父親の家事関連時間は34分、育児時間が49分(16年社会生活基本調査)という現実と比べると、15分や20分アップしただけでも、その効果は大きい。

「男性育休の効果が、数年後も続いていることに注目してほしい。たった数週という短い育休でも、当事者意識が生まれたり、育児が楽しくなったりするのでしょう」

■父親が育休を取ると子の将来の偏差値もアップする

父親が育休を取ると子どもの成績に好影響があるかもしれない。

「ノルウェーの研究によると、お父さんが育休を取得した場合、子どもが16歳になったときの偏差値が1ほど上がるという結果になりました」

たった1と思うかもしれないが、経済学的に見れば偏差値1アップは小さなインパクトではないそうだ。父親の育休で上がるならばトライしてみる価値はあるだろう。ただし、父親が勉強を見る時間が増えているからなのか、ほかに理由があるのか、偏差値アップの原因はまだわかっていない。

「父親が子の勉強を見ているため、父子間のいい関係が続いていると考えられます。短期の育休でも、そこから始まった親子関係の深まりと安定が持続するということは十分考えられます」

一方で、男性が育休を取ることで所得が減ってしまうというショッキングなデータもある。

「ノルウェーの調査では男性が育休を4週間取ることで所得が2%減り、しかも子どもが5歳に成長してもこの影響は続くという結果が出ました。同様の調査はスウェーデンでもあります。育休後、子育てや家事に熱心に関わるようになり、仕事に向けるエネルギーが減ったのではと研究者は推測しています」

家族と過ごすという楽しみが増え、仕事を早く切り上げる人が増えているなら、収入が多少減るのは仕方のないことかもしれない。

■出産後5年時点での離婚率が23%から17%に大幅ダウン

父親が育休を取得すると、夫婦の絆は深まるだろうか。離婚率にはどう影響するか?

『プレジデントBaby 0歳からの知育大百科2020』
『プレジデントBaby 0歳からの知育大百科2020』(プレジデント)

男性の育休と離婚率の関係を見ると、アイスランドでは男性育休制度を導入する前と後で出産後5年時点での離婚率が23%から17%に大幅ダウン。夫婦の絆にいい影響を与えているように見える。ところが、スウェーデンでは、産後3年以内に離婚する割合が男性育休創設の前後で12%から13%にわずかに上がった。

「しかし産後5年以内の離婚率を比べると変わりませんでした。つまり、スウェーデンでは遅かれ早かれ離婚するカップルが、育休を取ることで離婚する時期が早まっただけという考え方ができます」

男性が育休を取ることで離婚が早まった原因は以下の三つが考えられるそうだ。

・夫婦の相性の悪さに早く気が付いた
・夫にとって育児がストレスになった
・収入減少による家計のストレス

夫婦の相性については解決するのは難しいかもしれないが、残りの二つの原因は、子どもが生まれる前の準備で離婚が防げるかもしれない。

「子どもができることで、夫婦ともに生活や役割が大きく変わります。妊娠期間を通じて母への準備をする女性に比べて、男性はなかなか気持ちの準備が進まない。夫婦ともに必要なのは、変化に対する心構えではないでしょうか。夫婦二人から父親・母親になっていくための支援もあるといいですね」と山口さんは言う。

■●各論3

子どもが保育園に通うことは発達にいい?

YES
言葉が発達、乱暴な行動が減る

働く女性が7割を超える時代。待機児童問題を乗り越え、子どもが無事に保育園に入園できたかと思ったら、今度は預けて働く罪悪感を覚えるお母さんもいる。

しかし、その罪悪感から解き放たれそうだ。山口さんが共同研究者らとともに保育園通いが子どもや親に与える影響を分析したところ、子どもが保育園に通うことで子どもたちの発達にも、母親のメンタルにもプラスの効果があることがわかったのだ。

「保育園に通っている子は通っていない子と比べて、言葉の発達が順調という結果がでました。2歳半の時点で保育園に通っていない子に比べて偏差値換算で6から7くらい高かったのです。また、3歳半の時点で、落ち着きがないなどの多動性や、人に乱暴をするなどの攻撃性が保育園通いで低くなることもわかりました」

この調査では母親の学歴も見ている。母親の学歴が家庭環境を決めるわけではないが、親の学歴が低い場合、経済的な問題を抱えていたり、子育てに必要な情報が十分に得られなかったりする傾向があるからだ。

言葉の発達では母親の学歴に関係なくすべての家庭で保育園での効果が見られ、攻撃性や多動性は特に母親が高校を卒業していない家庭の子のほうが大幅に低くなることがわかった。

「母親の調査を見てみると、高校を卒業していないお母さんは自分が幸せだと思うかという『幸福度』が特に低く、子どもを叩いたり無視したりといった『しつけの質』もよくない傾向が見られました。しかし、子どもの保育園通いでお母さんのしつけの質が上がり、幸福度も上がりました。さらにストレスも減ることがわかりました」

保育園通いの効果は大きい

保育園には専門知識と経験を持った保育士がいるため、しつけも行き届き、子どもの行動がよくなるのだろう。さらに父親・母親にも間接的に気持ちのゆとりを与え、子育てストレスを下げることで、親子関係も安定するという好循環があるのだ。

「調査からは恵まれていない家庭の子が特に保育園の恩恵を受ける傾向が見られますが、どんな家庭にもいい影響があると考えています」

■●各論4

乳幼児期は知育が大事なのは本当?

NO
知育は効果が長続きしない

乳幼児期の教育が、子どもの将来に良い効果を与えることは証明されているのか。山口さんは、大切なのは“情緒面の教育”だと言う。

「乳幼児期に愛着形成をしっかりすることで、将来、物事に粘り強く取り組む力やあきらめない力など、社会的に成功するために大切な力の土台をつくるといわれています。人生に大きく関わる情緒面をしっかり育ててやりましょう」

愛着形成は親子のスキンシップやコミュニケーションで促進されると考えられていて、テストで測れないような非認知能力につながるといわれている。

「英語や音楽、算数などを小さいうちからやらせる知的な面の教育は、途中でやめると効果がなくなるといわれています。しかし情緒面の教育は0〜2歳でしっかり行えば、その後生涯にわたり効果があります」

乳児期は、赤ちゃんを抱き抱えたり、声をかけて反応を見たり、泣き声や喃語(なんご)にこたえて声をかけたりあやしたりしてやること。この時期にネグレクト(育児放棄)にあった子どもは愛着形成がうまくいかないことがあるという。

東京大学経済学部の山口慎太郎教授
東京大学経済学部の山口慎太郎教授

少し会話がわかるようになってきたら、日常生活でのルーティンや簡単なルールづくりが情緒面を育てるのに有効だ。例えば「寝る前に歯を磨く」「遊んだら片づけをする」という簡単なものでよいが、親が一貫性を持って継続して取り組むことが大事だ。「今日だけは例外ね」というのは、子どもを混乱させてしまうそうだ。

「日々のルールをこなすことで、感情コントロールや人への信頼感、自己肯定感なども身につくといわれています」

とはいえ、子育ては親も一緒に成長していく長い道のり。迷い、模索する作業の連続になるかもしれない。

「子育ては完璧を目指す必要はありません。究極的に言えば親はなくとも子は育つくらいにゆったりと考えてもいいのでは? 親の心理状態が子どもに影響を与えるので、完璧を目指すより安定した状態を保つほうが大事です」

山口さんは家庭では子どもとよく話をしたりして楽しい時間を過ごすことを心掛けているそうだ。

「子が成長すると話題の幅も広がりますし、子育てはどんどん面白くなりますよ」とエールを送ってくれた。

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山口 慎太郎(やまぐち・しんたろう)
東京大学経済学部・政策評価研究教育センター教授
2006年米ウィスコンシン大学経済学博士(Ph.D)取得。東京大学准教授などを経て、19年より現職。専門は、「家族の経済学」と「労働経済学」。初の著作『「家族の幸せ」の経済学』が2019年度サントリー学芸賞を受賞。1児の父。

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(東京大学経済学部・政策評価研究教育センター教授 山口 慎太郎)

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