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「専門家会議」をあっさりと切り捨てた西村担当相のわかりやすい傲慢さ

プレジデントオンライン / 2020年7月2日 18時15分

公明党の新型コロナウイルス感染症対策本部などの会議で、政府の専門家会議の廃止をめぐり陳謝する西村康稔経済再生担当相=2020年7月1日、東京都千代田区の衆院第2議員会館(写真=時事通信フォト)

■国民のために力を尽くした専門家会議を無視する非礼

西村康稔(やすとし)・経済再生担当相が6月28日、記者会見で「廃止という言葉が強すぎた。反省している」と釈明した。西村氏は新型コロナウイルス感染症の対策を担当する閣僚のひとりで、毎日のようにテレビに映るから知らない人はいないだろう。

まず、西村氏が釈明会見に至った経緯から説明しよう。西村氏は24日の記者会見で突然、政府の専門家会議の廃止を表明した。廃止の理由は、改正特別措置法に位置付けられたものではないというもので、あわせて特措法に基づく分科会の新設を発表した。

これまで専門家会議は「3密」の回避や、人と人の接触の「8割減」、それに「新しい生活様式」などを提唱し、防疫の中心的役割を担ってきた。ところが廃止については、専門家会議のメンバーには知らされておらず、自民・公明の与党にも事前の説明がなかった。こうした対応について、「これまで国民のために力を尽くしてきた専門家会議を無視するのは失礼だ」との批判が上がった。

その結果が「釈明会見」だった。西村氏は「分科会の新設は感染症の専門家だけで判断できない問題についても議論するためで、分科会は経済界、労働界、都道府県知事、マスコミ関係者らで構成する。今後、新型コロナウイルス感染症の対策本部で正式に決めた後、7月10日までに分科会の初会合を開く」と述べた。

■事前に廃止を伝えなかった「西村氏らしさ」とは

西村氏が記者会見で「廃止」を公表した同じ時間帯(24日の夕方)、専門家会議の尾身茂副座長ら中心メンバー3人は、日本記者クラブ(東京・内幸町)で記者会見を行っていた。

この記者会見では第2波、第3波に備え、専門家会議と政府との役割分担について次のような反省と提案が示された。

①専門家会議の積極的姿勢が国民に期待され、その反面、疑義も招いた
②感染リスクに関する情報発信は政府が主導する
③専門家会議は社会経済活動と感染症対策の両立を図って政府に協力する

記者会見中、尾身氏は西村氏が専門家会議の廃止を表明したことを問われ、一瞬、怪訝な表情を浮かべた。そして「え? もう1回言って。西村大臣が何か発表されたのですか」と戸惑いつつも、「(廃止は)知りませんでした」と冷静に答えていた。

なぜ西村氏は専門家会議の廃止を、事前に尾身氏らに伝えなかったのだろうか。

■当選3回のときには自民党総裁選に出馬したことも

西村氏は1962年10月15日に兵庫県明石市で生まれた。現在、57歳。名門の私立灘高校から東京大学法学部に進み、1985年に通商産業省(現経済産業省)に入省した。その後、2003年11月の衆院議員総選挙で兵庫9区から出馬して初当選し、6回の当選を重ねている。安倍政権下で内閣官房副長官や外務政務官などの要職を歴任した。かつての海部内閣で自治相・国家公安委員会委員長を務めた元衆議院議員の吹田愰が岳父だ。

なかでも2016年8月には安倍晋三・自民党総裁のもとで総裁特別補佐・筆頭副幹事長、選対副委員長に就任し、翌年8月には内閣官房副長官に就任している。安倍首相に尽くして信頼され、与党との連絡調整から経済、外交まで幅広い仕事をこなしてきた。

いわば安倍首相の「お気に入り」なのである。安倍首相にうまく取り入ったところなどは公職選挙法違反(買収)事件で東京地検特捜部に妻とともに逮捕された前法相の河井克行衆院議員と似ている。

野心は強い。最近の記者会見では「新型コロナの対策にあたった経験を必ず日本の将来に生かしていきたい。私自身が先頭に立って取り組んでいく」と語るなど、ポスト安倍を虎視眈々と狙っている。当選3回のときには自民党総裁選に出馬したこともある。

■自分よりも立場の弱い専門家会議のメンバーには横柄

西村氏は6月24日の夕方、専門家会議の尾身副座長に廃止を伝えようとしたが、すでに専門家会議の記者会見が始まっていて間に合わなかったという。しかし、これは疑わしい。連絡が取れないなら、24日の記者会見後に尾身氏ら専門家会議のメンバーに伝え、そのあとで自らの記者会見を行えば済む話だ。

専門家会議の記者会見を知って、先手を打とうとしたのではないだろうか。専門家会議に記者会見で安倍政権の対応や政策のまずさを批判され、安倍首相にそのことを指摘されるのを恐れたのかもしれない。そうだとすれば馬鹿げた話だ。

西村氏はテレビに映る立ち居振る舞いとは違い、霞が関の官僚や新聞・放送記者の間では西村氏の評判はあまり良くない。安倍首相の虎の威を借り、その態度はかなり横柄だという。自分よりも立場の弱い専門家会議のメンバーに廃止を伝えることなど考えもしなかったのかもしれない。

■専門家会議を廃止する安倍政権のやり方は歪んでいる

それでは新聞の社説を読んでみよう。

6月30日付の産経新聞の社説(主張)は「専門家会議廃止 声引き出し政治が責任を」との見出しを付けて専門家の意見の重要性を訴える。

「国の方針を決めるときに重要なのは、専門家の意見がきちんと届き、どう反映されたかが見える透明な仕組みにすることだ。政府の方針は逆行していないか」

専門家の意見が政策の決定の礎となり、政策決定の流れがはっきりと私たち国民の目に見えるようにする。これが重要なのである。

この後、産経社説は「異なる分野の専門家を集めて議論は深まるか。闘う相手は感染症である。医学や感染拡大に関する専門家の見立ては不可欠であり、単独で存続させるべきだ。経済や危機管理の専門家による分科会も別途設けて意見を聞き、政策決定は政府が行う」と指摘し、「それが筋ではないか」と主張する。

その通りである。感染症対策の専門家の意見は貴重だ。その専門家会議は独立したものとして存在させるべきである。もちろん経済政策面での会議も別に設置すべきである。

■誰が意思決定をしているのか分からない安倍政権

産経社説が指摘するように、「新型コロナウイルス対策の専門家会議を廃止し、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく有識者会議の下に、新型コロナ対策を議論する分科会を新設する」という政府の方針は、歪んでいる。国民の生活を守るという政治本来の流れに逆行する。

産経社説は書く。

「専門家の役目は、自らの知見に基づき、声を上げることだ。世の中が危機にひんしていると気付いたら、真っ先に大きな声で訴えなければならない。象牙の塔にこもり、危機を感じても黙っている専門家には存在意義がない」

これもその通りであるが、沙鴎一歩が思わず膝を打ったのは次のひと言である。

「問題はむしろ、誰が意思決定をしているのか分からないと指摘された安倍晋三政権の方であろう。進むべき道を決定するのも、責任を負うのも、政治家の職責で行われるべきである」

最後に意思決定して責任を取るのは、やはり政権の役目なのである。

■専門家会議の記者会見には謙虚さがにじみ出ていた

次に朝日新聞の社説(6月26日付)を読んでみよう。

朝日社説は「ちぐはぐな対応に不信を抱いた人も多いのではないか」と書き出し、「当の専門家会議には改組の発表が伝えられていなかったというのだから驚く」と批判する。

中盤で朝日社説はこう指摘する。

「一方で、この会議が政策を決めているかのような印象を与えたのは否めない。おとといの西村氏の表明と同じ頃、知らずに会見を開いていた座長らは、自省も込めつつ、政策に責任を負うのは政府であり、『専門家との役割分担を明確にすべきだ』と提言した。あわせて示された、地域での感染状況を迅速に把握できる体制の整備や、感染症疫学の専門家育成などとともに、的を射た指摘である」

朝日社説が言うように記者会見で示された専門家会議の指摘は納得できた。記者会見自体に謙虚さがにじみ出ていた。それに比べ、廃止を伝えなかった西村経済再生相の姿勢は残念だ。

■安倍政権はすべての責任を専門家に押し付けた

さらに朝日社説は指摘する。

「専門家会議が前に出過ぎだとの批判は確かにあった。だが、その責任の多くを負うのは政府の側というべきだ」

一連のコロナ対策で責任を負うべきなのは安倍政権なのだ。朝日社説はさらに手厳しく安倍政権を批判する。

「専門家の意見を聞かぬまま、首相が2月末に大規模イベントの自粛や全国一斉休校を要請して批判を浴びるや、一転して専門家会議に丸投げするような言動を重ねた。4月に緊急事態宣言を出した後は、安倍首相も西村担当相も、国会や会見で方針を聞かれるたびに『専門家の意見を踏まえ』を繰り返し、自らの言葉で説明し、理解を得ようという姿勢を欠いた」

安倍政権は責任を専門家に押し付けたのである。安倍首相と安倍首相の威を借る西村氏にはもっと謙虚になってコロナ対策に当たってほしい。

■国民を置き去りにして逃げたと批判されても仕方がない

毎日新聞の社説(6月27日付)も安倍政権の姿勢を強く批判する。

「専門家会議は、感染リスクが高い『3密』回避の定着などで重要な役割を果たした。主体的に提言を繰り返したのは、感染拡大への危機感からだ」
「踏み込みすぎとの批判はあったが、そもそも政府がコロナ対策で本来の役割を果たせていなかったことに問題がある」

専門家会議のメンバーには危機感があった。その危機感が専門家会議を前面に押し出したのだ。反対に政府は前面に出ることに尻込みした。安倍政権は私たち国民を置き去りにして逃げたと批判されても仕方がない。

毎日社説は書く。

「この4カ月余りを振り返ると、政府が専門家会議を都合よく扱ってきた面は否めない」
「安倍晋三首相が小中高校の一斉休校を唐突に打ち出した際は、専門家会議の意見を求めておらず『独断』と批判された」
「感染が拡大すると、一転して政府方針の説明で『専門家の意見』を強調するようになった。ところが、感染者数が減少すると、安倍首相は専門家会議の最終的な意見を聞く前から、緊急事態宣言の全面解除に前のめりになった」

■感染症対策は経済状況との微妙なバランスが必要になる

政権の維持に専門家を利用し、政権にとって不要になれば捨て去る。これが安倍首相、安倍政権の体質なのだ。こうした首相と政権に対し、国民は批判の目を忘れてはならない。

後半で毎日社説はこう主張する。

「感染症対策は経済状況との微妙なバランスが必要になる。専門家会議も自己検証で、多様な分野の知見を結集した組織にする必要性を指摘している」
「ただ、今回の廃止に伴い、経済活動を優先するあまり、感染症対策の科学的知見が軽視されることがあってはならない」
「新組織では、バランスの取れた人選が大切だ」

コロナの防疫対策と経済・生活の対策。常にこの2つを天秤にかけ、バランスを保つことが欠かせない。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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