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「老後資金確保の資産運用」で本当の地獄を見る…絶対やってはいけない3つの行動

プレジデントオンライン / 2020年7月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■コロナでわかった「自助努力」の必要性

新型コロナウイルスによって引き起こされた世界同時株安。それに対して、各国の政府や中央銀行は、リーマンショックをはるかに上回る強力な金融政策を実施し、株価は持ち直しつつある。

今回のコロナ禍のような先行き不透明な状況に、人々の投資への関心は冷え込むかと思いきや、SBI証券などネット証券各社の3月の株式売買代金は大きく伸び、口座開設者も増加傾向にあるという。

ファイナンシャル・プランナー(以下FP)である筆者のところにも、「投資を始めたい」といった相談が増えている。

独身・既婚者問わず、年代もさまざまだが、特に、20~30代の若い世代も「老後のために早いうちから準備を始めたい」と口をそろえる。

今回のコロナ禍によって、国はアテにならない。自分の身は自分で守らないといけないなど、まさに「自助努力」の必要性を実感したようだ。

とはいえ、投資には、始める前に知っておくべきことがいくつかある。

そこで、今回のコラムでは、ウィズコロナ時代において、老後資金作りのための資産運用でやってはいけないことをご紹介したい。

■30代前半でも「老後資金」が心配…

先日、30代前半のAさん夫婦から住宅ローンに関する相談を受けた。現在は、賃貸にお住まいだが、近い将来、住宅を購入したいという。

すでにお子さんは1人いるが、2人目も検討中。妻は、子育てのため、退職したが、家計の状況によっては、働きに出るのもやぶさかではないといった様子だ。

「自分の収入や預貯金などで、どれくらいの物件が買えるか」「住宅ローンはどれくらいなら安心か」など、よくあるご相談で、年収や現在の家賃や貯蓄状況などから試算していくのだが、Aさんご夫婦の家計支出の中で、多くを占めていたのが民間保険だった。それも、医療保険や生命保険だけではなく、個人年金保険が多い。

円建ての定額個人年金だけでなく、外貨建ての変額個人年金もあり、毎月の保険料は10万円近くにのぼっている。

聞くと「保険代理店に勤める知人に勧められて」ということのようだが、ご本人たちも、「やっぱり、僕たちの年代って、老後が心配じゃないですか。公的年金はもらえるのか分からないし、資産運用は早く始めた方が良いって聞きますし」など、老後資金に対する思い入れの強さを感じた。

■若い世代は「老後」より前にクリアすべきライフイベントがいっぱい!

Aさん夫婦の言い分はある意味で正しい。

早く投資を始めた方が良いのは、時間を味方につけることができるためだ。

相場は変動するものだし、良いときもあれば悪いときもある。時間さえあれば、保有資産の時価評価が落ち込んでいても、また上昇するまで保有し続ければ良い。

しかし、使い道が「老後資金」に限定された個人年金保険の場合、お金が使えるのは、今から30年以上も先である。

まずは、それだけ長い間、お金を固定化してしまう点はデメリットであり、それに対するメリット(金利)がどれだけあるのかも熟考すべきだ。

そこで、Aさん夫婦に対して筆者がアドバイスしたのは、ライフイベントの優先順位をもう一度よく検討すること。

たしかに、人間は、結婚しなくても、子どもを産まなくても、住宅を買わなくても、等しく老いる。

生きている限り、「老後」というのは誰もが経験するライフイベントではあるが、物事には順番というものがあり、Aさん夫婦の場合は、老後の前に、マイホーム購入や子どもの教育をクリアしなければならない。

試算の結果、現状の家計で、高額な年金保険料を払い続けると、住宅購入後に数年で家計は赤字に転落することがわかり、「保険は見直します」と納得してAさん夫婦は、帰っていかれた。

資産運用については、住宅購入後に、「つみたてNISA」や「個人型確定拠出型年金(iDeCo)」を利用して、コツコツ少額から積立を始めることをお勧めした。

■ほかの資金ニーズとのバランスをいかに取るかも重要

筆者のFPとしてのキャリアは20年以上になるが、その間、Aさん夫婦のように若い世代が「老後資金を準備したい」という人が確実に増えてきたと感じる。

以前は、老後資金のご相談といえば、50代後半か60代が中心で、40代でも、子どもがいないDINKsからの「老後資金を早めに作っておきたい」というニーズがあるくらいだった。

たしかに、金融広報中央委員会の調査(※)でも、金融資産の保有目的として最も高いのは「老後の生活資金(65.8%)と10年近くトップをキープしている。

※金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」[二人以上世帯調査](2019年)

次いで、「病気や不時の災害への備え」(58%)は前回よりやや低下し、「子どもの教育資金」(32%)がその分上昇した結果となっている(図表参照)。

 ※金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」[二人以上世帯調査](2019年)より
※金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」[二人以上世帯調査](2019年)より

老後資金作りのための資産運用を考える場合、まず知っておきたいのは、前述のAさん夫婦のように、ライフイベントの優先順位をよく考えること。

■“人生の三大支出”とは

さらに重要なのは、複数のライフイベントが重なる場合、いかにバランスを取りながら運用をしていくかということだ。

一般的に、「住宅資金」「教育資金」「老後資金」の3つは“人生の三大支出”と言われているが、例えば、20代、30代は、「住宅購入資金」と「子どもの教育費」が重なり、40代、50代は、「住宅ローン返済」と「子どもの教育費」に加え、「老後資金」も視野に入れていかねばならない。

三大支出のうち、「教育資金」は使う時期が決まっている。その上、公立や私立か、自宅通学が自宅外かなど、進学コースによって、費用が変わってくる点も厄介だ。

足りなければ、奨学金や教育ローンとなるが、安易に借りれば、親の老後だけでなく、子どもの将来にも影響を及ぼしかねない。

■「長期」「リスク分散」「積立」の三要素がポイント

さて、そこで肝心の老後資金作りの資産運用についてである。

ウィズコロナ、アフターコロナ時代を踏まえて、これからの資産運用はどう変わるか? といったご質問をよく受けるが、基本は、それほど変わらないと考えている。

基本とは、「長期」「リスク分散」「積立」の三要素である。

もちろん、今後の経済状況などコロナ次第といった大きな不確定要因があるため、これまで以上にリスク分散を心がけるべきだろうし、配当など利益を確定して受け取れるもので、株価が暴落した際のキャピタルロスを抑えたり、「有事の金」と言われるように資産に金を組み込んだりするのも有効かもしれない。

そして、コロナワクチンや治療薬をはじめ、新たな生活様式・働き方などを支援する非対面、非接触ビジネスの銘柄や巣ごもり消費、衛生・健康など、コロナによって銘柄選定が変わったということもあるだろう。

ただ、基本的に株価は、市場全体の要因である「外部要因」と業績といったその会社自体の要因である「内部要因」など、その時々の状況や投資リスク、将来を反映しながら形成されていく。

コロナという外部要因によって、業績が良いのにもかかわらず株価が下落した銘柄は「割安」だとみて投資のチャンスと考えることもできるが、株価が安いときに投資をした方が有利というわけでもない。

いずれにせよ、前述の三要素が老後資金のための資産運用のセオリーだということを踏まえて、やってはいけないのは、次の3つである。

■決めた積立を淡々と実行すべし

① 株式相場が下落したので積立をやめる

「つみたてNISA」や投信積立をしている人の中には、コロナ禍で急に相場が落ち込んで怖くなり、積立を中断してしまったという人もいるかもしれない。相場が下がったといっても、積立をやめたり、積み立てた資産を売却したりするのは早計である。

積立の効果は、価格が下がったときに多くの口数を購入し、平均買い付け単価が抑えられることで発揮される。分散投資がきちんとできているなら、決めた積立を淡々と実行すべし、ということだ。

ただ、2008年のリーマンショックを教訓に、今回のコロナの相場への影響を冷静に判断した投資家も少なくない。今後の第2波、第3波の可能性も考慮して、現在の積立で本当に大丈夫かを再確認してみよう。

■一括投資は避けたほうがいい

② 退職金や親の遺産などまとまったお金を使って一度に投資する

これは、特に、50代後半など退職金をこれから受け取る方や60代のすでに受け取った方、相続などでまとまったお金を手にした人が注意したい点だ。

もちろん、まとまったお金があれば運用できる商品の幅が広がるが、それでも一度に投資せず、投資期間や投資対象、銘柄など分けて投資した方が良い。

野村アセットマネジメントの投資家への意識調査(※)によると、今年3月下旬時点で、投資した株式や投資信託について、全体の6割で損失が発生しているという結果になった。

しかし、投資手法別の損益状況を見ると、「一括投資」の68%に比べて、「つみたて投資」の方が59%と10%近く損失は抑えられていることがわかる。

それでだけでなく、利益が出た、収支トントンなども、わずかな差だが「つみたて投資」の方が好成績だった。

とにかく、退職金は、余裕資金ではなく、大切な老後資金である。慎重に運用すべきだということだ。なお、退職金の運用について、詳しくは2019年4月15付コラム「退職金がみるみる蒸発する「2大理由」」もご参照いただきたい。

※野村アセットマネジメント「コロナが与えた影響とは?投資家意識緊急アンケート」3月25日~26日にかけて、2019年末時点で投資信託あるいは株式を保有していた5,322名を対象にインターネットで実施。

■「性格」も判断材料になる

③ 自分の「リスク許容度」を適正に判断しない

リスク許容度とは、文字通り、投資家の許容できるリスクの範囲のこと。

例えば、「どれくらい投資元本がマイナスとなっても生活に影響がないか」「どれくらい投資元本がマイナスとなっても精神的に耐えられるか」などである。

リスク許容度をはかる客観的な要素は、収入や保有資産、年齢、投資経験、今後のライフイベントなどで、一般的に、年齢が若い方がリスク許容度は高い。

また、主観的な要素として、性格なども挙げられ、「投資金額がちょっとでも減ると、仕事が手につかない、眠れない」といった人は、そもそも投資には不向きである。

そして、今回のコロナ禍で、大きく収入が減った、住宅ローンが払えなくなった、子どもの塾代が払えなくなったなど、すぐに家計に影響が出た人は、今の時点で投資をすべきではない。やるべきは、家計の見直しと、生活費の3カ月から半年分くらいのイザというときのためのお金を貯めることである。

投資や資産運用は、これから人生100年時代を生き抜くために身に付けておくべきスキルだとは思うが、“絶対必需品”というわけではない。

あくまでも、個々のリスク許容度に応じて行うものだということを知っておいていただきたい。

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黒田 尚子(くろだ・なおこ)
ファイナンシャルプランナー
プレジデント誌でもおなじみのFP。お金の管理に関するプランニングや講演、メディア出演を行うと同時に、自身のがん経験を生かし、病気時の資金繰りサポート活動にも力を入れている。近著に『三大疾病 ライフプランニングハンドブック』(金融財政事情研究会)。

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(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子)

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