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「老け顔アプリ」を使う人に教えたい自撮り写真の3大リスク

プレジデントオンライン / 2020年7月7日 15時15分

App Store内、「FaceApp AI」 アプリのページより

フェイスアップという「老け顔アプリ」が人気を集めている。ITジャーナリストの高橋暁子氏は「危険なのはフェイスアップだけではない。自撮り写真は思わぬトラブルの原因になる」という——。

■「個人情報」のトラブルをたびたび起こしている

ロシア発の画像加工アプリ「FaceApp」(以下、フェイスアップ)が流行している。スマートフォンで顔写真の性別を変えたり、年齢を変えたりして楽しめるアプリだ。

配信が始まったのは2017年だったが、6月下旬からこのアプリが「再注目」され、加工した顔写真の投稿がSNSで目立つようになった。私自身もこの間に「性別を変えたら妹そっくり」「疲れたおばさんになっちゃった」などと投稿している人を見かけた。

その一方、「フェイスアップは危険」「削除したほうがいい」といった投稿も見かける。たしかにこのアプリは過去に流行する度に、個人情報に関してトラブルを起こしている。

フェイスアップそのものの危険性だけでなく、自分自身の顔写真をSNSに投稿することにはリスクがある。今回はその点について考えてみたい。

■アプリより、顔写真を公開すること自体が危険を招く

フェイスアップが「危ない」といわれるのは、加工するために無断で写真をアップロードしているとみられるからだ。

2019年、情報流出を懸念した米チャック・シューマー上院議員は、FBIとFTC(米連邦取引委員会)に対してアプリのデータ処理方法を精査するように依頼。これに対してロシアにある運営会社は、利用者のデータはロシアに送られたり第三者に提供されたりしておらず、ほとんどのデータは48時間以内に削除されていると主張した。

加工写真データの取扱いの他、規約の条文が肖像権などの権利を多く求めすぎていると批判を浴びたり、人種を変えられる機能が「人種差別につながる」という非難を招いたこともある。その上、お試しの3日間以内に解約しなければ、年額3200円が自動的に課金されることにも批判された。

このような理由で、「フェイスアップ危険説」は広まった。しかし、少なくとも運営会社はデータは本国や第三者には送信していないと主張しており、規約も改定されているので、現在はそこまで危険というわけではなさそうだ。

ソーシャルネットワーキングサービスの概念
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

ただ、このアプリには、顔写真をアップロードするという根本的な問題がある。顔写真は重要な個人情報だ。安易にアップロードしていいものではない。第三者に悪用されれば、大きなリスクがあるものだ。

■「顔が出ていた方がいいねが増える」と投稿

【リスク① 顔写真がいじめの原因になる】

「SNSに顔写真を投稿すると危険」ということを知らない人はほとんどいないだろう。しかし、実際には「みんなやっているから」と投稿してしまう子どもたちが後を絶たない。それだけでなく、他人の顔写真を勝手に公開し、トラブルになることもある。

ある女子中学生は、友達に写真を載せられて困っている、と教えてくれた。

「スマホ安全教室で『顔写真は個人情報。取り扱いには注意を』と聞いたのに、みんな友達の写真も断りなしにSNSに載せてしまう。顔写真は正直あまり載せないほうがいいと思う。でも浮きたくないから、みんなで写真を撮る時には撮影する役になったり、映るときもなるべく顔が隠れるようにしたりしている」

高校生の娘を持つ母親は「娘は『制服姿の方がかわいいし、顔を出していた方がフォロワーとかいいねが増える』といって制服姿の自撮り写真を公開している。『知らないおじさんからナンパメッセージもらった』と笑ってたけど、子どもが誘拐される事件も起きているし、心配」と語る。10代を狙ってパパ活や家出などの誘いのメッセージを送る大人もいるのだ。

別の女子中学生は「付き合っている彼氏とインスタグラムにツーショットで写っていた」という嫌疑をかけられて、ひどいいじめにあった。「人の男に手を出す女」として、クラスで仲間外れにされ、SNSで誹謗中傷を受けた。何気なく投稿した写真がもとでいじめにつながるケースは少なくない。

■友達との待ち合わせ場所に見知らぬ中年男性が……

【リスク② ストーカー被害、自宅特定で空き巣被害も】

最近目立つのが、写真から自宅を特定され、ストーカー被害に遭うリスクだ。自分の写真を公開することで、われわれはそれに付随して多くの情報を広く公開し、自らを危険にさらしているのだ。

ある女子高生は、放課後に友達との待ち合わせ場所に行ったら、「○○ちゃんだよね」と知らない中年男性に名前を呼びかけられたという。

「自撮り写真も公開していたし、ツイッター上で友達と待ち合わせ場所を決めていたけど、知らない人が見ているとは思ってもいなかった。学校とかもバレていると思うと怖い」

ある20代男性は、インスタグラムに投稿していた写真から空き巣被害に遭った。男性は、「#LOUISVUITTON」「#GUCCI」といったハッシュタグをつけ、所持している高級ブランド品の写真を投稿していた。

それが、犯行グループの目に留まった。男性が投稿した電車の遅延情報や行きつけの店などの情報から最寄り駅を特定。その後、所有する高級外車の前で撮影した写真や、男性が自宅前で撮った写真からグーグルストリートビューで位置関係や外観を確認して男性の自宅を特定した。そして男性が確実に留守にしているときを狙って空き巣に入ったというわけだ。

2019年9月には、女性アイドルの自宅前にファンの男が現れ、暴行を受ける事件が起きた。男は、女性アイドルがツイッターに投稿していた自撮り写真の瞳に写った情報から自宅を特定していた。男は他の投稿から沿線を把握し、部屋の位置まで特定していたという。

このような被害は世界中で起きている。たとえば米国人女優のキム・カーダシアンはフランス滞在中、総額10億円以上の宝飾品を奪われる強盗被害に遭った。この事件も、キムがインスタグラムなどに事細かに自分の行動や所持品をアップしていたためとみられている。

■「かわいい子どもの写真公開」に潜む落とし穴

【リスク③ 無断転載や親子トラブルの危険性】

保護者が子どもの写真をSNSに投稿する場合も注意が必要だ。

インスタグラムで、「#パパとお風呂」を検索した画面(編集部で画像を部分加工)
インスタグラムで、「#パパとお風呂」を検索した画面(編集部で画像を部分加工)

確かに、遠方に住んでいる友人・知人にも子どもの成長を伝えたり、同じ年頃の子どもを育てる者同士で情報交換したりできるなど、保護者側のメリットも多い。子どもが幼い頃は、SNSによって孤独になりがちな子育てから救われることも少なくないため、完全に否定すべきではないと思う。しかし、リスクが向かうのは子どものほうだ。

リスクを感じる投稿は少なくない。インスタグラムには特に顕著で、「#パパとお風呂」などのハッシュタグをつけて子どもの裸写真を投稿したり、「#入園式」とつけて園名がはっきりわかる状態で子どもと撮った写真が投稿される例も散見される。

インスタグラムは仲間内でしか写真は見られない、と錯覚しやすい。しかし、実際はハッシュタグ検索で誰でも見られる状態だ。悪用のリスクをしっかりと認識しておくべきだ。

ある30代女性は、インスタグラムに投稿した子どもの写真が、海外のサイトに無断転載されていることを知った。「自分の子どもとして掲載されていた。まさか写真が悪用されるなんて」と女性は戸惑いを隠さない。他にも子どもの写真を保存したり、転載したりする人がいるかもしれないと怖くなり、それ以来、子どもの写真を投稿しないことにした。

■子どもの写真が親子トラブルに発展した事例も

SNSに子供の写真を投稿していたことで、親子間のトラブルに発展した事例もある。2016年には、オーストリアに住む10代の少女が、自分の両親を訴えた。少女は、両親がフェイスブックに投稿した自分の幼い頃のおむつ交換やトイレトレーニング写真の削除を求めたが、両親はこれを拒んだことで訴訟になった。

幼い頃はただのかわいい写真でも、成長した子どもがそれを好意的に受け取るかどうかはわからない。一度公開した写真は、削除しない限りインターネット上に残り続ける。子どもが恥ずかしいと感じる可能性のある写真は、公開しないことが大切だ。

投稿して問題になっているのは両親だけではない。オランダのある女性は、自分の孫の写真をフェイスブックと写真共有サイト「ピンタレスト」に掲載。孫の母親である娘に削除するよう言われたにもかかわらず従わなかったため、裁判所から削除命令を受けた。

■公開範囲、個人情報の映り込みに注意を

SNSはコミュニケーションツールであり、顔が出ていたほうがコミュニケーションしやすい面がある。しかし、顔写真は重要な個人情報だ。一度公開した画像は削除できないと思ったほうがいい。

顔写真以外にも、SNSに写真を公開するリスクは高まっている。ゴミの日のカレンダーや選挙ポスターなどは要注意だ。何気ない風景写真であっても、そこに写った看板から住所を特定された例もある。複数のSNSを使い写真を公開すれば、自宅や学校、勤務先の特定は非常に容易になるのだ。

カメラの性能が良くなっているのも、リスクを高めている。「ピース」をした写真から、指紋を読み取り、生体認証に使われる危険性があることは既に証明されている。このようなリスクを防ぐためには、写真を気軽に投稿しないのがいちばんだ。

SNSでだれもが当たり前のように写真を投稿しているが、特に顔写真についてはあらためて家族で話し合い、取り扱いを考え直してほしい。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
ITジャーナリスト
情報リテラシーアドバイザー、元小学校教員。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、コンサルタント、講演などを手がける。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。

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(ITジャーナリスト 高橋 暁子)

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