「連日の感染者100人超え」いま緊急事態宣言を再発令すべきなのか
プレジデントオンライン / 2020年7月3日 19時15分
■6月はずっと100人以下だったが、ここに来て増加中
東京都の新型コロナウイルス感染者が連日100人を超えている。7月2日は107人、7月3日は124人だった。感染者が100人以上となったのは、政府の緊急事態宣言が発令中だった5月2日の154人以来で、2カ月ぶりだ。
これまでの都内の感染者は4月4日に初めて100人を超え、その後、7日に政府が緊急事態宣言を発令した。これまでの最多は4月17日の206人だ。6月はずっと100人以下だったが、ここに来て増えている。
しかし100人を超えたからといって、慌てることはない。欧米の例を見ても、外出規制の緩和後に感染者が増えることはわかっている。冷静に行動することが重要だ。都と厚生労働省は、感染ルートを洗い出して、感染源とその周辺をつぶしていく「クラスター対策」に力を入れてほしい。
■「手洗い」は個人でできる最重要の防疫手段
個人でできる一番の対策は「手洗い」だ。手をこまめに洗ってウイルスを流し落とす。せっけんがなければ、水だけで洗ってもいい。きちんと洗えば十分な効果が期待できる。
一方、マスクは万全ではない。感染者が人に移すのを防ぐ手立てとしては有効だが、それでも極小のウイルスはマスク生地の網目から飛び出してしまう。また感染予防の手段としては気休め程度だと思ったほうがいい。どちらを徹底するべきかをあえて問えば、マスクよりも手洗いだ。手洗いは個人でできる最重要の防疫手段といえる。
新型コロナウイルスが厄介なところは、感染しても自覚症状のない無症状の感染者がいることだ。若者に多くみられ、彼らが動き回ることで感染が広まる恐れがある。東京都の「夜の街」での感染増加は、こうした無症状の若者に起因する。
■6月には「唾液」から調べるPCR検査も認可された
ワクチンや特効薬はないものの、検査体制は整いつつある。たとえば海外に比べて普及していなかったPCR検査では、厚労省は6月2日、唾液からウイルスの遺伝子の有無を調べるPCR検査を認可した。綿棒を鼻や口の奥に差し込んで検査するのに比べ、唾液の採取は簡単で検査数が増やせる。
感染歴を示す抗体の有無を調べる抗体検査や、特有のタンパク質を検出する簡易な抗原検査の体制も整いつつある。
コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同じく、寒さと乾燥を好む冬の病原体である。それゆえ秋口からの流行の拡大(第2波、第3波)が懸念されている。
100年前の新型インフルエンザの「スペイン風邪」の場合、1922年(大正11)年の内務省衛生局(当時)のまとめによると、日本国内のスペイン風邪の第1波は1918年8月~1919年7月で、その間に2117万人の患者を出し、26万人が死亡した。致死率は1.22%だった。第2波は1919年10月~1920年7月にかけて発生し、241万人が罹患(りかん)して13万人が亡くなった。致死率は第1波の4倍以上の5.29%と高かった。
■まだ緊急事態宣言を再発令するべき状況ではない
致死率の上昇の理由について旧内務省は、ウイルスが変異してその病原性が強くなったと推定し、第2波で患者が減少したことには、第1波で多くの人に免疫ができたからだと考えていた。
この先、新型コロナウイルスが変異によってその病原性と感染力を変える恐れがある。病原性が強まれば、スペイン風邪のように第2波で致死率が上がる。感染力が高まれば、流行も大きくなる。
いま大切なのは現時点での感染者数をできる限り抑え込んで、秋口から予想される感染拡大の次の波の規模を小さくすることである。ただ、まだ緊急事態宣言を再発令するべき状況ではない。経済活動と感染防止のバランスを見きわめながら、冷静に対応することが重要だ。
■「最悪のケースを想定し、備えるのは危機管理の基本だ」
「小池百合子都知事は今の状況を『感染拡大要警戒』の段階と位置付けた」
「また、菅義偉官房長官は緊急事態宣言について『直ちに再び発出する状況に該当するとは考えていない』と述べた」
7月3日付の産経新聞の社説(主張)はこのように指摘した後、「東京を中心とする首都圏の感染再拡大に対する危機感が、これでは都民や国民に十分に伝わらないのではないか」と訴える。
そのうえで産経社説は都と政府の感染防止対策を批判する。
「5月25日に緊急事態宣言を解除して以降、政府も東京都もコロナ対策の重心を経済活動の再開に置いてきた。都の『東京アラート』が廃止され、新たな指標は警報としては分かりづらい。感染の状況は正しく、分かりやすく伝えなければならないはずだ」
「政府は、緊急事態宣言の再発令も現実的な視野に入れて、直ちに首都圏のコロナ感染再拡大への対応策を議論すべきである。最悪のケースを想定し、備えるのは危機管理の基本だ」
産経社説は緊急事態宣言の再発令も検討すべきだと書く。そんな産経社説の主張は浮き足立っていないだろうか。
■7月2日の107人のうち「感染経路不明」は29%だった
産経社説は指摘する。
「東京都の感染再拡大は、ホストクラブやキャバクラなど、いわゆる『夜の街』を震源地とするものだが、家庭や職場での感染例も報告されている。新宿から池袋や秋葉原へ、さらに都県境を越えて感染が広がる事例もみられ、経路不明の感染者も増加傾向にある。地域や業種が限定されない『市中感染』とみなすべきだ」
飛沫感染するウイルスの感染ルートを調べ上げるのは難しい。どうしても感染ルートが不明なケースは出てくる。だからといって慌ててはいけない。7月2日の107人のうち感染経路が不明な人は20人で29%だった。この比率に注目するべきだろう。
なお産経社説は次のような重要な主張もしている。
「首都圏で緊急事態宣言の再発令が必要となった場合でも、前回の宣言時のようにほぼ全面的に経済・社会活動を止めてしまうわけにはいかない」
「経済を回しながらコロナの拡大を食い止めるために、叡智を集めて備える。その議論に、早過ぎるということはない」
再び緊急事態宣言を出したからといって、経済と社会の活動に大きな影響を出してはならない。「議論に、早過ぎるということはない」は余計だが、海外の例を参考にしながら感染症や経済の専門家らが知恵を絞り、それを政府に提言していくべきである。
■都知事の次は「日本初の女性首相」を狙っているのだろうか
次に7月2日付の毎日新聞の社説を読んでみよう。
「こうした中で、東京都は東京アラートを廃し、新たなモニタリング指標を示した。東京消防庁の救急相談センターへの発熱相談件数や、救急患者の受け入れ先確定までの時間という新たな指標も加え、専門家の分析を得て対策を検討するという」
「状況を総合的に判断するのは当然だ。だが、外出制限や営業自粛の基準がなく、わかりにくいことは否めない。なぜこのように変更したのか、納得のいく説明も足りていない。」
感染者数の増加で都庁やレインボーブリッジを赤いライトで染めて都民に警戒を呼びかける東京アラートは、分かりやすい。だが、感染症対策は感染者数だけではない。検査体制や医療体制、重症患者の人数などを総合的に踏まえて判断していく必要がある。その点において小池都知事の説明は不足していて、批判を受けても仕方がない。
毎日社説は書く。
「東京都知事選のさなかにあって、指標の変更に政治的な狙いがあってはならない。東京アラートが警戒のメッセージだったとすると、アラートが出ないことが安心材料と誤解される恐れもある」
「大事なことは、都民が日々の感染や医療の状況を知り、行動に注意を払えるようにすることだ」
確かに「政治的な狙い」があるのかもしれない。都知事の次は、日本初の女性首相を狙っているのだろうか。都知事選がその踏み台だとすれば、とんでもない話だ。都民のための都知事選であることをよくかみしめてほしい。
■人々の移動を容認する以上、感染者の増加は予測されたこと
「緊急事態宣言でいったん流行は落ち着いたが、ウイルスが消えたわけではない。経済活動を再開し、人々の移動を容認する以上、感染者の増加は予測されたことだ」
「しかし、手をこまねいていれば入院患者が増えて医療が圧迫される。急激な感染拡大が起きれば医療崩壊につながりかねない」
感染防止対策と経済・社会活動の両立。相反するところがあるだけに、柔軟な思考とバランス感覚が要求される。その点について毎日社説は主張する。
「まず、次の流行の兆候を迅速につかみ、感染の急拡大を抑え込むことが肝要だ。それでも拡大が避けられない場合に備え、医療や検査の体制拡充を今のうちに徹底しておかねばならない」
「さらに考えておくべきなのは、再流行の兆候が見られた時の対応だ。再び緊急事態宣言で幅広い外出制限や営業自粛を求めるのか。地域や業種によるメリハリをつけるのか」
政府が感染症の専門家に委ねるべきポイントは以下の3つだろう。
②急な感染拡大を抑え込む
③医療と検査の体制の整備
そして、専門家の意見を踏まえたうえで、どこまで制限を求めるのかは政府自らが決める必要がある。毎日社説が最後に主張するように「東京都と国は連携して早急に検討し、国民の理解を得なくてはならない」のである。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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