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世界が見捨てた文在寅…IMFの経済成長下方修正に韓国民総悲哀

プレジデントオンライン / 2020年7月10日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/goc

■IMFの世界経済見通しも手探り、韓国だけが下方修正ではない

韓国は、国際通貨基金(IMF)が6月に出した、今年の韓国経済成長率の下方修正について「過激だ」との意見を述べています。IMFが4月に報告したマイナス1.2%からマイナス2.1%へと0.9%下方修正されたわけですが、世界全体も1.9%の下方修正となっており、この下方修正に過敏に反応する必要性などないように感じます。IMFに「物申す」背景には韓国国内の苦しい経済状況があるのです。

韓国銀行によれば、新型コロナウイルスの影響が年末まで続く場合、最大76万世帯が破産し、50.5%と半分以上の企業が利子を払えなくなる事態が起きかねないと警告しています。過度な家計・企業負債の膨張は非常に危険だと言えます。

6月、IMFは「類例のない危機、不確実な回復」と題し、4月の「世界経済見通し(WEO)」の予想から下方修正を発表しています。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、2020年前半の経済活動に予想以上のマイナス影響を及ぼしており、回復の見通しも、もともとの予想よりも緩やかになると報告しています。世界全体として、とりわけ低所得世帯への打撃が深刻で、さらなる貧困の拡大が懸念されているのです。韓国だけが成長率を下方修正されたわけではなく、IMFは世界の感染状況と経済活動の回復を考慮し、柔軟に見通しを変更しているにすぎないのです。

■韓国銀行のイ・ジュヨル総裁が反論「過剰な調整」

それにもかかわらず、下方修正を受けて、韓国銀行のイ・ジュヨル総裁は、「韓銀の1カ月前の韓国経済成長率展望値をマイナス修正しなければならないほど大きな環境変化があるとは思わない」という見解を明らかにしています。さらにイ総裁は、6月25日、「物価安定目標の運営状況点検」についての記者懇談会で「IMFが世界経済展望値を大幅に引き下げ、韓国に及ぼすショックの度合いをやや過剰に調整したのではないかという印象を消すことができない」と話しています。

また、IMFの見通しについて韓国政府は、「わが国は先進国のなかで唯一、来年末にGDP=国内総生産が新型コロナウイルスの感染拡大以前の水準に回復すると予想されている」として、「感染防止対策の成果が反映されたものとみられる」と説明をしています。

そもそも、韓国の2カ月で0.9ポイントの引き下げは「過激」なのでしょうか。他国と比べると、アメリカは▲5.9%から▲8%へ2.1%の下方修正、日本は▲5.2%から▲5.8%への0.6%の下方修正、ユーロ圏は▲7.5%から▲10.2%の2.7%の下方修正となり、開発途上国として分類される中国は1.2%から1%への0.2%の下方修正となっています。

4月時点での韓国の経済見通しがマイナス1.2%とそもそも凹みが少ない予想となっており、今回の0.9%の引き下げはそれほど目くじらを立てる必要性はないでしょう。韓国経済は雇用情勢が悪化しており、「持てる者と持たざる者」の格差が開いていることから、国内での不満がたまっています。国外に視点を置き換える政治手法によって国民の怒りの矛先をそらしているため、今回もその一環だと言えるでしょう。

■韓国の家計と民間企業の負債、GDPの2倍超

韓国では格差に伴い、家計の負債が増加しています。中央日報によると、「韓国の家計と民間企業の負債が初めて国内総生産(GDP)の2倍を超えた」と伝えています。韓国銀行によると、民間信用(貸付・債権など)は3月末現在で3866兆ウォン(約344兆円)に達し、GDP比201.1%を記録しています。債務増加速度も急で、GDP比の民間信用の割合はこの1年間で12.3ポイント上昇していました。そのさなかに新型コロナウイルス問題が起きたのです。

追い詰められた自営業者は最悪の事態に備えて現金確保に乗り出しました。4~6月期には民間信用の割合がさらに急上昇する可能性が高いです。最初に述べましたが、韓国銀行は新型コロナウイルスの影響が年末まで続く場合、最大76万世帯が破産し、50.5%と半分以上の企業が利子を払うことすらできない事態が起きうると警告しています。

■未来を描く「韓国版ニューディール」

雇用の逆風も続いています。韓国統計庁が6月10日発表した5月の失業率は4.5%に悪化し、2010年1月以来、10年ぶりの高水準となっています。文政権は公約として「81万人の雇用創出」を掲げていましたが、結果は、高齢層の雇用拡大が進み、若者の雇用状況は改善されていない状態が続いています。そこで、今年、6月3日に文在寅大統領が未来へのビジョンとして「韓国版ニューディール」を実施することを発表しています。内容は「2022年までに55万の雇用を創り、2025年までに76兆ウォンを投資するという計画」だと明らかにしています。

この、韓国版ニューディールは雇用の安定化を基に「デジタルニューディールとグリーンニューディール」という2本柱で推進される予定です。「デジタルニューディール」には13兆4000億ウォンを投資し、33万の雇用を創出するという構想です。データ・ネットワーク・人工知能の生態系の強化、デジタルおよびセーフティネットの構築、非対面産業の育成、SOC(社会間接資本)デジタル化の4つのテーマで進められる予定です。

「グリーンニューディール」は12兆9000億ウォンを投入し、13万3000人の雇用を創出する計画です。都市・空間・生活インフラの緑化転換、グリーン産業の構築、低炭素・分散型エネルギー拡散などが含まれています。韓国政府は今後、追加課題を補完、拡大し、7月中に総合計画を発表する予定です。

■大恐慌を乗り越えた米ニューディールの本質とは

そもそも、ニューディール政策とはアメリカで世界大恐慌後に公的年金や失業保険を創設し、大きな政府に舵を切ったフランクリン・ルーズベルトの政策です。不況では国民がお金を使わなくなるため、その分を政府が供給するというもので、“お金のバラマキ”を行う政策だと言われています。ニューディールは政府が財政を用いて雇用を生み出し経済を活性化させたことに焦点が当たりやすいですが、重要な点はそれだけはないのです。むしろ、公共工事などの、土木工事の効果はさほど大きくはなく、財政拡張にも限界がありました。

本当に重要なのは、ディール「契約」の部分です。ニューディールは、既得権益者だけが有利になる契約ではなく、権力関係と不平等な経済を改革していった新しい「契約」だったのです。具体的には、1935年のワグナー法は、団結と団体交渉など労働者の基本権を保証して最低賃金制を取り入れ、労働者の交渉力を強化しています。また社会保障法は、雇用保険や年金などの社会のセーフティネットを確立し、ルーズベルトは富裕層に対する最高所得税率も引き上げました。この歴史的事実から、現代でもニューディールをうたうならば、既得権にメスをいれつつ、脆弱(ぜいじゃく)な労働者を保護する必要があります。

■韓国のニューディール政策は不十分

過去のニューディールは、上で述べたように米国の深刻な不平等さの中において共存の秩序を探すものでした。では、韓国には何が必要なのでしょうか。それはやはり格差の是正です。韓国経済に存在する巨大な財閥は経済のバランスを歪めています。

韓国財閥は、中小企業の製品を買いたたくことで利益を伸ばしています。その結果、韓国では中小企業は成長が見込めない状態になっています。真の意味のニューディールならば、財閥、下請けの中小企業、労働者、政府が譲歩を行い、秩序を保つ方法を探さなければならないでしょう。韓国版ニューディールには、非対面産業の育成などの産業政策に力を入れていますが、「持てる者と持たざる者」の格差が深刻化する韓国社会に希望を与える内容も盛り込まれなければ、抜本的な解決にはならないでしょう。

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馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
テクニカルアナリスト
京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。

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(テクニカルアナリスト 馬渕 磨理子)

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