維新・都知事選の実態「女性票の獲得失敗で『底辺レベル』の大惨敗」
プレジデントオンライン / 2020年7月10日 9時15分
■吉村バブルに乗り切れず
新型コロナウイルス対応で人気が急上昇し、「将来の総理候補」との声もあがるようになった大阪府の吉村洋文知事。その「吉村バブル」に沸く大阪府は11月に「大阪都構想」の是非を問う住民投票を実施予定で、吉村氏が代表代行の地域政党「大阪維新の会」は悲願を成就できるか否かの重要局面を迎える。
だが、その足を引っ張りかねないのが大阪以外の「維新」の動向だ。吉村氏の人気に便乗して日本維新の会は「全国展開もいってまえ」とばかりに鼻息は荒いが、7月5日の東京都知事選と都議補選では大惨敗。その戦い方もすがすがしい「大阪維新」流ではなく、他候補の批判に終始して手前味噌で「善戦」を強調するようなチャラいもので、その「KY=空気が読めない」ぶりに首都の人々はNOを突き付けた形となった。5年ぶりとなる住民投票まで4カ月を切る中、首都敗北はフワッとした「吉村バブル」という期待感の喪失につながるのか。その影響は決して軽くはなさそうだ。
■都議補選惨敗…東京維新の戦い方に疑問の声
ルックス、決断力、発信力の「三拍子」がそろっていると評される吉村氏は最近、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。コロナ対応でリーダーシップを発揮していく姿に好感する人々は多く、毎日新聞と社会調査研究センターが5月に実施した全国世論調査で、吉村氏は「最も評価している政治家」のトップとなった。他の調査を見ても同じようなもので、それに連動する形で日本維新の会の政党支持率は野党第1党の立憲民主党を一時上回る「躍進」を果たしてきた。その効果は絶大で、これまで反対派だった自民党府議団は賛成に転じ、11月1日に予定される「都構想」の住民投票は可決される可能性が高まっている。維新の松井一郎代表は「これが最後の審判となる」と意気込む。
だが、こうした勢いに水を差した形といえるのが「東京維新」だ。2012年に設立された東京維新は今回の都知事選で、直前まで熊本県副知事を務めていた小野泰輔氏が柳ケ瀬裕文、音喜多駿両参議院議員の高校同窓という縁で「日本維新の会」の推薦にした。柳ケ瀬氏は、都議時代に「関西圏の維新」の影響力が及ばない首都で一人気炎を吐いてきた人物として知られ、逆風が吹いてつらい立場に追い込まれようとも耐え忍んできた気骨のある政治家を松井代表らは買っている。だが、今回の都知事選で東京維新の戦い方は「維新流」といえるものだったのかと疑問視する声は少なくない。
■恩を仇で返すアンチ小池の急先鋒「ねずみ男」
政党の推薦がなければ小野氏は主要候補としてメディアに扱われず、泡沫(ほうまつ)候補となっていたのは想像に難くないが、その選挙戦の手法はこれから与党勢力になろうとする集団では決してなかった。街頭で現職の小池氏批判を繰り返し、コロナ対応でも多くの都民が小池氏を評価しているにもかかわらず、執拗(しつよう)にディスった。街頭演説を聴いた維新支持者の40代男性は「(音喜多氏が)4年前に自らが支えた小池氏をこき下ろすなんて、さすがに嫌悪感しかなかった。その立ち居振る舞いは、コウモリ、ねずみ男そのもの」と吐き捨てた。別の30代女性会社員も「3年前の都議選は小池氏の支援があったから都議選(北区)でトップ当選できたのに、その音喜多氏は恩を仇で返すようにアンチ小池派の急先鋒となっている。その個人的な好き嫌いが出すぎているような気もする」と残念がった。演説の大半は不平不満ばかり、揚げ足取りに終止し、「あなたが都知事になったら私たちの生活はどうなるの」という素朴な疑問に、答えられなかったのではないか。小池知事が掲げている「7つのゼロ」の未達成部分を批判するのは容易いが、政策の大枠の方向性をきちんと打ち出してほしかった。維新政治で、東京はどうなるのか。
日本維新の会は柳ケ瀬、音喜多両氏に加え、片山虎之助共同代表や鈴木宗男参議院議員らが全面支援したものの、その他は自転車での山手線一周やネット動画などユニークなものが目立ち、その結果はあわや「底辺レベル」の大惨敗を喫した。政策とはなんの関係もない、そのアピール手法の数々は、前回参院選の音喜多氏のものと酷似する。小野陣営としては当初、「20万票」という低めの目標を設定することで、60万票獲得すれば「大善戦」とうたう狙いだったのかもしれないが、所属国会議員が26人もいる中で、元日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏(84万4151票)に歯が立たず、国会議員がたった2人にすぎない「れいわ新選組」代表の山本太郎氏(65万7277票)にも及ばなかった。とりわけ女性票の獲得失敗は顕著だ。「ねずみ男政治」は維新にとってプラスになっているのか。「組織のがん」は切り捨てる覚悟をもってのぞんでほしい。
■維新の東京再進出はうまくいくのか
「いやいや、知名度がないことが理由」という人は、ちょっと甘い。小野氏が得票した61万2530票をデータから見ればわかることだが、都内での維新の「集票力」は昨年の参議院選挙東京選挙区で音喜多氏が獲得した52万6576票からほとんど伸びていない。8万票以上増えたとの見方をする人もいるだろうが、今は「吉村バブル」で絶好調のはずだ。それにもかかわらず、維新は都内での支持率はいまだに低迷しており、4月の目黒区長選に続く惨敗は「東京再進出」が再び失敗に向かうことを暗示しているようだ。ある全国紙政治部記者は「維新旋風は東京にはまだきていない。大阪で起きている盛り上がりは東京ではまだまだ『泡』にすぎないと分からせてくれたのは皮肉にも今回の都知事選だったということではないか」と解説する。
「吉村バブル」の到来で日本維新の会の政党支持率は一時、野党第1党の立憲民主党を抜いていたが、その効果は表れることはなかった。コロナ禍で吉村氏は上京しての応援は控えたが、インターネット上には「吉村氏が一緒に回っていても東京では勝てなかった」との書き込みも見られている。
■小池百合子と橋下徹
もう1つ、都知事選と同日に投開票された北区の都議補選を見てみよう。音喜多事務所の政策スタッフとして参画してきた佐藤古都氏の得票は3位の3万3903票で、トップの自民党の山田加奈子氏の5万2225票から大きく離されている。2位の立憲民主党の斉藤里恵氏(3万6215票)とは、約2000票しか変わらない「善戦」とうそぶく声も漏れるが、2017年の都議選で音喜多氏は約5万6000票を獲得している。もし、「それは小池人気があったから」とするならば、維新人気はそれよりも下ということになってしまう。「知名度不足が響いた」「準備期間が足りなかった」などと自分勝手な解釈や言い訳ばかりが目立つようでは、東京での維新は成功することはないだろう。
維新ファンならば誰もが知っていることだが、維新創業者の橋下徹氏は5年前の住民投票が僅差で否決された際、「市民に受け入れられず、(都構想は)間違っていたということになる」とすがすがしい表情で政界引退を表明した。民意を問う最高の手段である選挙の結果を経ても、あれこれ文句を言い続けるのは「維新流」とは言えない。橋下氏は、今回の都知事選で告示前には小池氏に苦言を呈していたものの、投開票翌日の7月6日にはTBS系「グッとラック!」に出演し、「都民がこういう判断をした。投票率だって55%。これだけ圧勝したのは重い」と評価した。その上で、小池氏が4年前の前回知事選で掲げた公約の達成状況についても触れ、「僕の時を見てくださいよ。大阪都構想なんて10年がかり。2年や3年で実現できる話ではない。ゼロになっていないから全部だめだという話ではない」とフォローした。吉村氏も7月5日夜のツイッターで「選挙結果は完敗」とつづっている。
■「大阪の改革を全国に」を実現できるのか
バブルは泡であり、それは一気にしぼんでしまう可能性もある。今、絶頂期にある吉村人気を生かすも殺すも大阪以外の維新勢力である。「維新の政治家は、頻繁に『大阪の改革を全国に』と演説するが、それは地元の人々にとっては大きなお世話で、自分たちが下に見られているような気持ちになる」。神奈川県に住む維新支持者の男性はこう率直に語る。吉村バブルは「都構想」に向けてしぼむのか、それともさらに膨れ上がるのか。まずは今回の都知事選と都議選で表れた民意を一度、総括・検証する必要がありそうだ。
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政経ジャーナリスト
1987年岩手県生まれ。早稲田大学卒業後、週刊誌記者を経てフリーランスとして独立。プレジデントオンライン(プレジデント社)、現代ビジネス(講談社)などに寄稿。婚活中。
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(政経ジャーナリスト 麹町 文子)
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