「わかりにくい?」ローソン社長がPBデザイン変更をいきなり決断したワケ
プレジデントオンライン / 2020年7月8日 18時15分
■「店舗の声」と「ネットの声」が一致した
——なぜ変えたばかりのパッケージをリニューアルするのですか。
PB商品のパッケージは、昨年の秋から徐々に切り替えていたのですが、切り替え後の商品が増えてきた5月頃になって、ネット上で「商品名がわかりにくい」という指摘が相次ぐようになりました。新しいパッケージデザインでは、納豆は「NATTO」、豆腐は「TOFU」とローマ字で書かれているのですが、それがパッと見てわかりにくいというご指摘です。
私は頻繁に店舗を訪問しているのですが、クルーさんから「今は慣れたけれど、最初の頃はどこに並べたらいいのかわからなかった」という声をいただいていました。またお客さまからも「欲しい商品がどこにあるかわからなかった」というご意見がありました。
新しいパッケージデザインとなったPBは、売り上げも好調だったのですが、店頭でも、ネット上でも、「わかりにくい」という指摘を受けたことを重く受け止めました。その結果、7月から、納豆や豆腐、それに食パンなど8点のデザインを、あらためてリニューアルすることにしました。さらに100点以上の商品でよりわかりやすいデザインにする予定です。ご不便をおかけしたお客様、クルーさんには、しっかり変えていきますとお伝えしたいです。
——ローソンの新PBのデザインは、ネット上でとても注目されました。6月9日にはニュースサイト「ハフィントンポスト」のライブ番組に竹増社長が出て、商品のリニューアルを発表されていました。異例の対応です。
この状況では、社長が出るしかありません。しっかり私が説明申し上げて、トップダウンで変更を進めていく姿勢を示したいと思いました。お客様からの声をスルーして手遅れになっては、経営として致命的です。自ら意見を聞いて、反省すべきは反省し、次のチャレンジに向かっていきたいと考えています。
■「バスチー」「マチノパン」の成功体験が背景
——そもそもなぜPBのデザインを大きく変えることになったのでしょうか。
順を追ってご説明できればと思います。2016年にローソンの社長となってから、私は「コンビニ」ではなく「ローソン」として選ばれたいと店づくりを進めてきました。その結果のひとつが2019年3月に発売した「バスチー」(税込215円)です。
2018年秋、私は「自由な発想で作るデザートチーム」を立ち上げました。これは、自分たちが食べたいもの、大切な人に食べてほしいもの、かつローソンにしかできないものを、自由な発想で作るのが目的です。バスチーはそこから生まれたのです。
当時コンビニスイーツは「200円を超えると売れない」と言われ、周囲からも大反対されました。しかし、価格でこの企画をボツにしてしまっては、「自由な発想」が出てこなくなってしまいます。私たちの狙いは、コンビニという枠を超えて「ローソンのあれがほしい」と言われる商品を出すこと。そう考えて発売したところ、3日で100万個を売り上げ、他社さんも追随してくださる人気商品になりました。
また2019年の3月に発売した「マチノパン」では、「脱・コンビニ袋パン」を目指しました。フランス産小麦の小麦粉を使用したフランスパンに、「グラスフェッドバター」をサンドするなど、素材や製法にこだわり、食感と具材のおいしさを追求したシリーズです。おかげさまで好評となり、前年比100%を切っていたベーカリーカテゴリーの売上は、100%超に回復しました。
これらの経験から、「コンビニらしさ」という枠から出て、自由な発想で商品をつくることに手応えを得ていました。そこで、2019年9月、佐藤オオキさんが率いるデザイン会社「nendo」にPBデザインの全面リニューアルをお願いしたのです。
■「コンビニのパッケージ」にとらわれないデザイン
——具体的にはどのような狙いがあったのですか。
私たちが目指すPBは、振り向けばそこにあるようなPB、いつも生活を一緒に過ごせるようなPBです。そのため、これまでの「ローソンセレクト」を「L basic(エル・ベーシック)」と「L marche(エル・マルシェ)」の2つのブランドに分けました。
さらに佐藤オオキさんと検討を進めるなかで、「買ってきた後に、家やオフィスにしっくりなじむ」というアイデアをいただきました。その発想は今までの僕らにはなかったものでした。牛乳やお茶など、常にストックしているものは、すでに選んで買ってきているのだから、主張の強いデザインである必要はない。「ぜひ一回やってみよう」となりました。
——一部のPBのデザインを変えるということですか。
いいえ。当初から、すべてのPB商品を刷新する計画でした。中途半端に始めると、その後の方向性について、判断しづらくなるため、大きく振り切ったのです。どんどん世の中に出して、お客様の声を羅針盤にしながら方向を修正していこうと考えました。昨年秋以降、在庫の切れた商品から徐々に入れ替えを進めています。
初期に刷新した商品で、大きな手応えを感じたのが「第三のビール」です。うちの商品名は「ゴールドマスター」。よく売れていた商品です。それがデザインを変えたところ、さらに売上が伸びたのです。お客さまからは「コンビニじゃないみたい」「クラフトビールみたい」といわれました。デザート、ベーカリーに続いて、第三のビールでも「コンビニらしくない」ことが評価されたことで、間口は広げられるのだと感じました。
■売上は好調、それでも7月にリニューアル
——どのPB商品もデザイン刷新で売り上げ好調だったのですね。
新型コロナウイルスの影響があるので判断しづらいところがあるのですが、商品カテゴリごとにNB(ナショナルブランド)とPBを比べると、売上が伸びているカテゴリではPBのほうが伸びが大きく、減少しているカテゴリではPBのほうが減少率が小さいという結果が出ています。
——売上好調だったにもかかわらず、早くもリニューアルを決めたのはなぜですか。
刷新した商品が増えたところで、「わかりにくい」という声が目立つようになりました。デザートやベーカリーとは状況が違うと感じ、振り切りすぎた部分を戻していくことにしたのです。
新しいパッケージデザインは、家やオフィスでお使いいただく時に、ほっこりした幸せ感を訴求するものです。その点は変えずに、店頭でもわかりやすくお選びいただけるようにしていきます。「わかりやすいけど、コンビニらしくないね」と言われることを目指しています。
——佐藤オオキさんは、デザインの修正についてどんな反応でしたか。
コンビニが「便利な存在であるべき」という認識では、佐藤オオキさんとも相違はありません。お店に来てくださったお客さまが、商品を見つけられずに帰ってしまうのはよくない。その前提を共有したうえでのチャレンジです。
私がライブ番組に出た時にも、オオキさんに「せっかくここまで注目していただいたのだから、良いものに進化させていきましょうね」と申し上げました。オオキさんも「そうですね」とおっしゃっています。あとは私たちが目指したものを保ったまま、お客様の声にどう合わせていくかです。
■「無印に寄せた」ことはまったくない
——先日、無印良品との業務提携を発表されました。SNSでは「新しいパッケージデザインは無印良品に寄せたのではないか」という意見も見かけました。
「デザインを寄せた」ということはまったくありません。これまで無印良品の金井政明会長や松﨑曉社長とは、「ローソンはコンビニと総称されるところから抜け出ていきたい、人に優しくて地球に優しい存在を目指したい」と話してきました。その過程で、同じ方向を向いていることから、一緒にやってみようとなったのです。
■「コンビニない?」ではなく「ローソンない?」を目指す
——コンビニ業界は「店舗数の飽和」が課題といわれます。これから成長の可能性はあるのでしょうか。
「ローソンのあれがほしい」「ローソンに行きたい」と思ってもらえるお店になれるかどうかです。新型コロナウイルスでお客さまの生活は大きく変わりました。例えば、店内調理による弁当や調理パンを提供する「まちかど厨房」の人気が高まっています。外食に行きづらい現在、「外食的な存在」として選ばれていると感じています。一方、住宅立地での売り上げは堅調ですが、オフィス立地ではなかなか人が戻ってこない状況が続いています。
こうした状況は、ローソンが指名されるお店になる大チャンスだと思っています。ここでお客さまに「あのPBがほしい」と思ってもらえるかどうかで、これからの景色が大きく変わるはずです。
「近くに靴下売っているところない?」といって無印良品に行く人はいませんよね。「近くに無印良品はないかな?」と探す人が大半のはずです。そういう指名される存在になりたい。「近くにコンビニない?」ではなく「近くにローソンない?」といわれたい。それに向けてチャレンジを続けていきます。
チャレンジには、成功も失敗もありません。あるのは検証だけです。今回のパッケージ刷新でも、学びが得られたことで、次に目指すところがわかりました。次のステップとしては、パッケージだけではなく、商品の中身についても注目をしていただけるようにしていきたい。そうやって、チャレンジと検証を繰り返していくのみです。
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ローソン 代表取締役社長
1969年大阪府生まれ。93年大阪大学経済学部卒業後、三菱商事入社。畜産部に配属。その後グループ企業の米国豚肉処理・加工製造会社勤務、三菱商事社長業務秘書などを経て、2014年ローソン副社長に。16年6月から現職。
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(ローソン 代表取締役社長 竹増 貞信 構成=プレジデントオンライン編集部 飯田樹)
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