日本人が韓流ドラマ「愛の不時着」を敬遠せずに見るべき理由
プレジデントオンライン / 2020年7月23日 11時15分
■クリエーターが『愛の不時着』を見る理由
2003年、BSで『冬のソナタ』が放送されたことをきっかけにして起こった「韓流」ブーム。
あれから時が経って、韓国の音楽や映画、ドラマといったエンターテインメント産業を真剣に研究し、参考にすべき時期が来ているように思う。
このところ、周辺でクリエーティブな仕事に関わっている方と雑談していると、韓国のドラマが話題になることが圧倒的に多い。
特に話に挙がるのが、『愛の不時着』。韓国の財閥の令嬢がパラグライダーで北朝鮮に不時着し、北朝鮮の兵士と恋に落ちる話。そして、『梨泰院クラス』。ソウルの繁華街に居酒屋をオープンし、成功の階段を上ると同時に復讐を遂げる青年の物語だ。
興味深いことに、私の周りで『愛の不時着』や『梨泰院クラス』を話題にする人たちの中には、単に視聴者としてそれを楽しむということだけでなくて、何らかのかたちで自分の仕事に活かそうと考えているケースが多い。
映画『パラサイト』がアカデミー賞作品賞を受賞し、ボーイズグループのBTSがアメリカのヒットチャートの常連になるなど、躍進が目覚ましい韓国のエンタメ業界。そこにある成功の秘密を、日本も参考にしない手はない。
■「グローバル化」ということを自然に受け入れている
韓流コンテンツでまず目につくのが、「グローバル化」ということを自然に受け入れているその姿勢である。
以前から、日本の国内市場は中途半端に大きいのでその中で満足してしまいがちだと言われる。一方、韓国の経済規模はそこまで大きくないので、最初から世界を意識せざるをえない。
韓国の作品では会話の途中で、ごく自然に英語のフレーズが挟まれてきたり、ドラマの登場人物の思考や行動のパターンが最初から海外でのキャリアを前提に組み立てられていたり、あるいは実際にドラマの中に外国から来た人が自然に入ってきたりと、グローバル経済の中で呼吸する空気感が、日本のエンタメとはだいぶ違う。
韓国は日本よりも遅れて経済成長が始まり、まだ成熟期に入っていないこともあってか、登場人物の目的意識や上昇志向が強い。良くも悪くも、自分の欲望や人生で達成したいことをストレートに表現する。ゆるくてふわっとした気分を描くことが多い日本の作品世界から見るとギラギラしている。しかし、その率直さが世界市場では受け入れられやすいのだろう。
韓流ドラマの主要テーマの1つは「恋愛」だけれども、その表現もより強烈で、全人格的である。空気を読んで遠慮をする登場人物の多い日本のコンテンツとのコントラストが鮮烈だ。
重要なことは、そうは言っても日本と韓国は文化的にも歴史的にも近いということ。韓国の映画やドラマを見ていると、時々はっとするほどセリフが日本語のように聞こえる瞬間がある。目上の者を敬い、礼儀正しくするという価値観も似通っている。
脳の働きからすれば、自分たちと共通点もあるけれども異なる側面もある存在は、「鏡」になってくれる。韓流のコンテンツを見る一番のメリットは、自分たちのこと、日本のことがよくわかるということかもしれない。
政治の世界ではいろいろある日韓関係だが、ビジネスの発想を得るという点で韓流を敬遠しているのはもったいない。韓国のエンタメに接することが、日本の文化、経済をさらに進化させるきっかけになるように思う。
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脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。
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(脳科学者 茂木 健一郎)
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