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東京・天王洲の倉庫街をアート街に変貌させた、75歳の仕掛け人

プレジデントオンライン / 2020年8月1日 11時15分

中野善壽氏

■考えているうちは何も変わりません

すらりとした長身に、シンプルでスタイリッシュなファッション。とても75歳とは思えない若々しさを湛え、まっすぐな視線で、穏やかに語る。

中野善壽・寺田倉庫前社長。2011年、親交のあった創業家出身の寺田保信氏に事業再編を託され社長に就任すると、拠点を置く東京・天王洲の倉庫街をアートの溢れる街へと変貌させた。「空間を提供するだけなら、不動産業と同じ」と従来の倉庫業を見直し、売り上げの縮小もいとわずに大胆な事業再編に着手。世界中の芸術作品や、高級ワインを預かるプレミアム倉庫のスタイルへと転換し、キャッシュフローを重視する経営へ改革を進めた。

その手腕は国内のみならず世界中から注目されたが、中野本人は露出を好まず、メディアからは距離をとってきた。

伊勢丹からキャリアをスタートさせ、数々のブランドや事業を飛躍、あるいは再建した「プロの経営者」が、ついにヴェールを脱いで発表したのが本書といえる。

■一行のタイトルに目が留まって

本を出すタイプの人とは思いませんでした、と感想を述べると「おっしゃるとおりです」と笑う。「ある日自分のデスクの上に乗っていた企画書に書かれた、一行のタイトルに目が留まって。このタイトルを提案してくる編集者に、ただ会ってみたくなったんです。直感的に」

中野善壽『ぜんぶ、すてれば』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
中野善壽『ぜんぶ、すてれば』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

ぜんぶ、すてれば――中野の人生の核心をつく言葉だ。

新たな価値の創造、ビジョンメーキング、強烈なリーダーシップ……。中野の経営を形容、評価する言葉は華々しいが、その思考法や「正解」を期待して本書を開くと、あなたは裏切られる。「確固たる哲学や信念なんてなにもない。成果やプライドなんて、ぜんぶ捨てればいい」。それが、中野の答えだからだ。

「僕にとっての価値とは、環境適応と変化対応。いかに環境に適応するか。変化にどれだけ速く対応するか。それだけ」。寺田倉庫の変革も、「羽田空港に近く、都心へのアクセスもいい」という環境に適応し、クリエーティブな「付加価値」が重視されるという時代の変化に素早く対応しただけであり、中野からすればシンプルな帰結だった。

中野の体験談や考え方から得られるのは、こだわりなく、いつでも変われることの重要性だ。

「考えているだけでは変われません。準備して変わろうとして変わるのはただの延長線で、本質的な変化じゃない。考えている暇があったら、すぐ変わればいい。変わらないほうがよっぽど怖いですよ。思いがけない出来事に直面し、そして決断する。そうして、人は成長するんですから」

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中野善壽
1944年生まれ。青森県立弘前高校、千葉商科大学卒業後、伊勢丹に入社。鈴屋に転職し海外事業に携わる。その後台湾へ渡り、百貨店経営に携わり、2011年に寺田倉庫のCEOに就任。19年8月東方文化支援財団を設立。

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(ライター 伊藤 達也 撮影=的野弘路)

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