わが子のやる気を奪う「上司気取り」なダメ父親の教え方
プレジデントオンライン / 2020年7月16日 9時15分
■「お父さんの参加」で失敗するパターン
「なんで決められたことがちゃんとできないんだ!」
中学受験専門の家庭教師になって35年。ここ数年、よく耳にするようになった言葉だ。
中学受験といえば、かつてはお母さんと子供の二人三脚というイメージがあった。ところが、最近は中学受験に熱心なお父さんが増えている。子供の受験に関心を持つのはとてもよいことだと思う。しかし、残念なことにお父さんが介入することでうまくいかなくなるケースも多い。特に冒頭のような言葉を発するお父さんがいる家庭は、要注意だ。
こういうお父さんの共通点は、PDCAサイクルにこだわっていることだ。PDCAサイクルとは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を繰り返すことによって、仕事を改善・効率化する手法のこと。実社会で働くお父さんたちには、おなじみの言葉だ。改善・効率化に有効な手法となると、どんなことにも使えそうに感じる。そこで、子供の受験勉強に取り入れようとする。しかし、それをやってしまうと、大抵の子供はやる気を奪われる。
■「PDCA風」になっているのが問題だ
誤解しないでいただきたいが、私はPDCAを否定しているわけではない。正しい意味を理解しないで、「PDCA風」にやろうとすることに問題があるのだ。
まず、明らかにお父さんが作るプランは詰め込み過ぎている。「P」(Plan)から、すでに間違えている。エクセルに打ち込んだ1日の予定表には、「計算ドリル20分」「休憩5分」「算数の復習60分」「休憩5分」といったように5分刻みで細かく指示を出す。いつも子供のそばにいる人なら、「そんなのはムリだ」と肌感覚で分かる。子供は勉強を始める前にボーッとする時間が必要だし、子供の集中力は大して持たないことも知っているからだ。
でも、お父さんは一度決めた予定は、何がなんでもやらなければいけないと思い込んでいる。仕事ではそれが絶対だからだ。そして、できない子供に檄を飛ばす。
■できないことだけを指摘するのが「C」ではない
多くのビジネスマンにとって、PDCAはあまりワクワクする言葉ではないだろう。どこか管理されているというイメージがつきまとうからだ。特に「C」のチェックでは、できていないことを指摘される。あまり気分のいいものではない。
しかし、本来のPDCAの「C」は、できていることもできていないことも両方チェックするものであり、できていないことだけをチェックするものではない。できていることは、「できていて当たり前」ではなく、認めて褒めるべきなのだ。
中学受験の勉強にPDCAを取り入れるお父さんは、褒めることを忘れている。できていないことばかりを指摘されて、なにクソ! と頑張れる子は、今の時代にはまずいない。やる気をそがれ、もう受験なんてやめたいと投げやりな気持ちになるだけだ。
■「何を」よりも「どのように」重視でプランを立てる
では、中学受験の勉強にPDCAを取り入れることはできないのか。そんなことはない。やり方に気をつければいいのだ。まず、「P」では「何をやらせるか」より、「どのようにやるか」を重視してほしい。「何をやらせるか」に気持ちが行ってしまうと、あれもこれもやらせたくなってしまうからだ。多くの場合、お父さんが立てるプランにはムリがある。お父さんが考える受験スケジュールは、本人は気づいていないけれど、自身の高校受験や大学受験を重ね合わせていることが多い。だが、相手は小学生であることを忘れてはいけない。お父さんが小学生だった時に、これと同じことができただろうか?
プランを立てる時は、「何をどのように勉強するか」をできるだけ詳しく書いておいた方がいい。計算問題ならスピーディーに、文章問題ならじっくり考えて解く。その時に暗算で解くのか、計算跡を残して解くのかなど、具体的に書いておくと、子供はそれを意識する。
ただ、エクセルではそこまで細かくは書けないだろう。そこで、エクセルに書く予定はおおまかに、具体的にやることは手書きを勧める。例えば、A3サイズにプリントし、空きスペースに書き込んでいくと一目で分かる。「宿題に取りかかる時は、まず覚えてからやる」「小テストで2回満点を取ったら、その週はもうやらなくてOK」など、具体的に書き出しておくと、子供は取りかかりやすくなる。
■「褒めるためのC」でモチベーションを維持
勉強を終えたら、終わった項目に線を引くなどし、やったことを“見える化”しておこう。親からすれば、このくらいの量はできて当たり前と思うかもしれないが、子供は子供なりに頑張っているのだ。“見える化”で、「これだけやったんだ!」という達成感を得ることができる。
さらにモチベーションを維持するために必要なのが、「褒めるためのC」だ。予定通りにちゃんとやっていれば、それだけで大きな褒めポイントになる。
もしできていないところがあれば、「もっと良くするにはどうしたらいいと思う?」と子供に聞いてみよう。その時に、責めるような雰囲気になってはいけない。優しい表情で聞いてあげてほしい。そして、子供自身に考えさせるのだ。
「この問題、どうして間違ってしまったのだろう?」
「うーん、数字を雑に書いちゃって、読み間違えちゃったんだよね……」
「ちゃんとキレイに数字が書けていれば、解けたと思う?」
「うん、絶対に解けた」
「じゃあ、次から気をつけような」
「うん!」
もし次に丁寧に数字を書いているのが分かれば、大きな褒めポイントになる。そうやって、少しでも改善が見られればいい。大事なのは、子供自身に気づかせることだ。
■自分でプランを立てると子供はやる気を出す
PDCAサイクルを回すのに慣れてきたら、「P」は子供と一緒に考えてみてほしい。子供は誰でも親を喜ばせたいと思っている。だから、「今日の予定は自分で立ててみてごらん」と言えば、大抵の子供が張り切って多めに予定を入れる。さすがにこんなにムリだろうと思っても、まずはやらせてみてほしい。やりきれなければ、「やる気は分かるけれど、これはちょっと多すぎたな」と、一度褒めてから修正をする。
プランを考える時は、子供に自由裁量権を与えよう。だが、小学生の子供にすべてを任すのは難しい。そこで、親がある程度のプランを考えておく。その時に、「子供自身が決めた」という演出をすることがポイントだ。
例えばテスト前でちょっと多めに勉強させたい時は、「テスト前だから、これくらいはやらないとな」と言うのではなく、「さすがにこれはちょっと多いな。いくらお前でも大変だろう」と言うと、子供は自分をそんなに下に見てほしくないという思いから闘争心を燃やし、「大丈夫! このくらいできるよ!」と挑戦しようとする。もしできたら、たくさん褒めてあげよう。褒められると、子供はがぜん張り切る。そうやって、子供をうまく乗せていくのだ。
子供の成績を上げたいなら、子供に気持ちよく勉強をさせることだ。子供はノリノリの状態になると、大人の想像をはるかに超えて伸びていく。
受験勉強にPDCAを取り入れるのなら、「子供に自由裁量権を与えること」と「褒めて気持ちを乗せること」を忘れてはいけない。正しいやり方でPDCAを回していけば、子供の成績はグングン上がっていくだろう。何より自分で予定を立て実行するという行動は、子供の自立にもつながる。中学受験には、そんなメリットもある。
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プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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