湖池屋の「食塩不使用ポテチ」に飛びついたのは女子ではなくオジサンだった
プレジデントオンライン / 2020年7月14日 15時15分
■「芋まるごと 食塩不使用」がユーザーを広げた
湖池屋のポテトチップス「プライドポテト」が売れている。2017年の発売開始以来、商品力は高かったが、売り上げは伸び悩んでいた。だが今年2月に大胆なリニューアルを行った結果、前年同月比512%という大ヒットとなったのだ。
ポテトチップス業界では「年間売上20億円でヒット」と言われている。新しい「プライドポテト」は、4カ月で売り上げ20億円を達成しており、すでに2500万袋を販売。これはメガヒットといっていい結果だろう。
リニューアル後のフレーバーは、「神のり塩」「衝撃のコンソメ」「感激うす塩味」「芋まるごと 食塩不使用」の4種類。最初の3つはポテトチップスの基本フレーバーとも言える三傑、ある意味で“安パイ”だ。湖池屋マーケティング本部 マーケティング部次長 兼 第3課 課長 野間和香奈氏は、今回のリニューアルでユーザーを大きく広げた要因は残りの1フレーバー、「芋まるごと 食塩不使用」だと言う。
その理由を問う前に、湖池屋が2018年11月に発売した「ポテトの素顔」という商品について触れておきたい。なんと、塩味どころか何の味もついていない“ジャガイモの素揚げ”状態のポテトチップスである。無類のポテトチップス好きである筆者が主催するポテチ会(数人〜十数人が各自推しポテトチップスを1袋以上持ち寄り、全員で全種類を試食。投票によって優勝を決める)でも、「ポテトの素顔」は賛否両論を巻き起こした。
出汁の味だけでミニマムな味付けを施した「プライドポテト 芋まるごと 食塩不使用」は、この「ポテトの素顔」を強く連想させる。そう野間氏に伝えると、「いいパスです(笑)。実は両商品はつながっています」とほほ笑んだ。
■味付けしないポテトチップスの意外な需要
「3〜4代目の『プライドポテト』は、うま味調味料や香料を使わない“無添加”をうたってきたんですが、それによってお客様のパイを狭めてしまったんですよ。“無添加”は、お母さん世代や健康に気遣っている世代には喜ばれたんですが、ポテトチップスを一番食べる20代から40代前半からすると、物足りなく感じてしまう。実際は食べたらおいしいのに、食べる前に意欲がそがれていました」(野間氏)
そんな折、完全無添加、かつ味を一切つけない「ポテトの素顔」を発売した。
「ヘルシー志向の女性を狙って、パッケージデザインも女性向けを意識しました。家でサラダに乗せたり、ディップをつけてパーティーで食べたりするイメージです。なんならインスタに載せてくださいね、と。ところがふたを開けてみると、一番買った世代は40〜50代の男性だったんです」(野間氏)
■食塩不使用に大喜びの男性たち
湖池屋のお客様センターには、男性購入者からの「塩分を気にしていたので、塩なしのポテトチップスが食べたかった」といった声が続々と届いた。
「彼らは体のことを気遣って塩分を控えていますから、ポテトチップスなんて絶対食べてはいけない……と思っていたところ、なんと塩を一切使っていないポテトチップスが出た。喜びの反応がたくさん寄せられました」(野間氏)
そこで発見した“食塩不使用”のニーズを「プライドポテト」のフレーバーに生かした結果が、「芋まるごと 食塩不使用」だ。「ポテトの素顔」同様、塩は使っていないが、あっさりした味はついている。北海道産昆布などのうま味だ。
「ポテトの素顔」は一部に好評だったが、人を選ぶ商品であるのも確か。人によっては「塩気がなくて物足りない、芋と油の味しかしない」と感じるだろう。ポテトチップス好きの筆者からしても、かなり「マニア向け」の仕上がりだと感じる。それをもう少し一般向けに調整したのが「プライドポテト 芋まるごと 食塩不使用」だ。これが、市場に見事にはまった。
■「あっさり志向」と「濃い志向」の二極化
「プライドポテト」は4種のフレーバーによって、消費者の両極端の嗜好をカバーしている。「感激うす塩味」「芋まるごと 食塩不使用」がシンプルな味を好む人向け。「神のり塩」「衝撃のコンソメ」がしっかりした味を楽しみたい人向けだ。
「ここ3年ほど、消費者がポテトチップスに求めるフレーバーは二極化が進んでいます。健康志向が強い40代以上は『素材の味を求めたい』『あっさりめがいい』『重たくない味にしてほしい』。若い世代は『濃く、はっきりした味がいい』」(野間氏)
湖池屋が「プライドポテト」以外でその二極化をカバーするブランドが、「じゃがいも心地」と「KOIKEYA STRONG」だ。
■「みんな好き」ではなく「自分向け」を狙う
2018年9月に発売された「じゃがいも心地」は「ジャガイモを食べている」ことを実感できるナチュラル系の雄。ほくほくした食感、繊細かつ絶妙な塩加減が大人ユーザーに絶賛されており、メインの客層は30代後半から40代の女性だという。なお、前述の「ポテチ会」2019年大会では、「じゃがいも心地 オホーツクの塩と岩塩の合わせ塩味」がエントリー23商品のなかで最多ポイントを獲得し、栄えある優勝を飾った。
一方の「KOIKEYA STRONG」は対照的に、ガーリックバター、サワークリームオニオン、シーフードグリルという濃厚を追求した3フレーバー。同商品を担当しているマーケティング本部 マーケティング部第3課 課長代理 下阪紘平氏は「『みんながなんとなく好きなポテトチップス』より、はっきりと『自分向け』とわかる商品であることが重要。マーケティングに際しては、いわゆるN1分析(ある1人の顧客を深く分析する手法)を心がけている」という。
元来あっさり系の位置づけだった「じゃがいも心地」はこの6月、男性客の新規開拓を狙って「ペペロンチーノソルト」を新発売した。味付けはスパイシーで“やんちゃ”。今までの「じゃがいも心地」にはなかったがっつり系だ。1ブランドで両極を狙う商品展開というわけである。
■コロナ禍のストレスを濃い味のポテトチップスで解消
ところで、味覚嗜好の二極化に関してはおもしろい傾向があるという。
「ストレスをためている方ほど、濃い、辛い、すっぱいものを求める傾向にあることが、調査によって判明しています。弊社の商品で言うと『KOIKEYA STRONG』『カラムーチョ』『すっぱムーチョ』。刺激の強いものを食べてストレスを解消したいんですね。一方、『プライドポテト』や『じゃがいも心地』は、どちらかというと癒やし目的。安心感、リラックス、仕事を頑張った自分に対するちょっとしたご褒美需要が多いようです」(野間氏)
野間氏によれば、コロナ禍で多くの人が在宅ワークに切り替わったことで、濃い味の商品需要が拡大したという。自宅作業で愚痴を言う相手がいない。外出自粛で家に閉じこもらざるをえず、気晴らしもできない。鬱屈をぶつける先もない。先行きも不安。そのことが、濃い味のポテトチップスに手を伸ばさせたのだ。
反対に、コロナ禍でもストレスをためていない人、むしろ在宅仕事でストレスが軽減した人は、『プライドポテト』や『じゃがいも心地』を選ぶそうだ。
■「顧客層の開拓余地はまだある」
「ポテトチップス顧客層の開拓余地はまだある」と野間氏。「40代以上、子育て中の親世代、10代」だ。
「『プライドポテト』と『じゃがいも心地』が好評とはいえ、やはりポテトチップスは40代半ばくらいで食べなくなる人が多いんです。加齢で高血圧が気になったり、食べる量が減ったり。あとは、家族皆のおやつにしていたけど子供が大きくなって食べなくなり、家で買わなくなったとか」(野間氏)
子育て中の親世代に関しては、「子供にあげても大丈夫」な商品をどう開発し、どう知らしめていくかが肝要。これは40代以上のヘルシー志向にどう寄り添うかに近い。
■「デザインがダサいから買わない」10代
一方で、意外なのが「10代のポテトチップス離れ」だ。
「調査によって明らかになったんですが、10代はポテトチップスのパッケージがダサいと感じています。買うのが恥ずかしいと思っているんですよ。弊社商品で具体的に言うと、ロングセラーの『カラムーチョ』『すっぱムーチョ』(笑)。30代以上の方は、このデザインでしっかり認識してくださっているんですが……」(野間氏)
フレーバーが気に入らないならともかく、パッケージデザインがそれほどまでに購買の阻害要因になるものなのか。
「弊社の24歳の男性社員も、国産ビールには見向きもしませんし、アイスは海外ブランドしか買わないと言っていました(笑)。ラベルやパッケージがおしゃれなものを選びたいと。見た目にかっこ悪いものは受け入れられないんですよ。インスタ世代の特徴でもありますね。SNSで発信していく時、自分というキャラクターを代弁するアイテムがダサいのは、許しがたいんです」(野間氏)
若いうちにポテトチップスを食べつければ、大人になっても食習慣として根付く(筆者が良い例だ)。湖池屋は若年層をつかむため、「プライドポテト」のCMに現役高校生モデルの汐谷友希を起用している。
■ポテトチップスは人生に寄り添う
「単身世帯の増加や女性の社会進出により、食事もおやつも個食化が進んでいます。つまりポテトチップスを食べるにしても、『みんなで食べる』のではなく『自分ひとりで楽しむ』人が増えました」(野間氏)
その一方で、40代以上のポテトチップス離れという状況がある。すなわち「プライドポテト」は、まさにその「ひとりで自分好みの味を楽しみたい40代以上」のニーズを見事につかんだのだ。
「ポテトチップスって、100人に聞いたら90人以上が好きだと答えるんですよ。なのに、体に悪そうとか、買うのがかっこ悪いという理由で買わない人がいる。それを払拭(ふっしょく)するためにいろいろなアプローチを試みています。ただ、既存商品の延長上で商品を企画しても、市場は広がりません。ポテトチップスを単にスナックやおやつの枠組みでとらえるのではなく、いかに生活に浸透する存在にしていけるかを考えています」(野間氏)
野間氏はそう説明したあと、人が幼稚園から40代に成長するまでの「ポテトチップス接触頻度の変遷」を熱弁した。ライフステージとポテトチップス。人生に寄り添うポテトチップス。リニューアルした「プライドポテト」の大成功がもたらしたのは、ポテトチップスと人との幸福な出合いなのかもしれない。
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編集者/ライター
1974年、愛知県生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。編著に『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)、編集担当書籍に『押井言論 2012-2015』(押井守・著、サイゾー)など。
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(編集者/ライター 稲田 豊史)
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