収益7分の1でも黒字キープ!コロナで「一人勝ち」のAPAが始める史上最大の作戦
プレジデントオンライン / 2020年7月19日 11時15分
■APAがこの状況で攻め続ける理由
このコロナ禍でホテル業界に軒並み元気がなくなる中、アパホテルは新型コロナウイルス感染者の受け入れにいち早く名乗りを上げ、現在までに全国9棟のホテルを療養施設として貸し出しています。
政府から新型コロナウイルス無症状者および軽症者の受け入れについて意向打診をいただいたのは、2020年4月2日のこと。日本中が戦後最大の国難にあり、世界中が第3次世界大戦ともいえる大打撃を受けている中で、ホテル業界のリーディングカンパニーとして医療崩壊を防ぐためのご協力をしたい、皆さまの期待にお応えしたいという想いから、即座にお引き受けする旨、回答いたしました。
受け入れを決めたときは、コロナウイルスが今よりよく解明されていない時期でした。感染力や致死率はどれくらいなのか、どのように感染するのかなどの情報が不明瞭な中、誰もが未知のウイルスに強い不安を感じていたと思います。そのような状況で、感染者受け入れホテルで働いてくれる従業員がいるだろうかと最初は不安を感じていました。
ところが蓋を開けてみると、むしろ予定していた数を上回るたくさんの応募がありました。自治体への一棟貸しなので、そもそも従業員の数は少なくて大丈夫で、例えば「アパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉」(横浜市中区・2311室)では通常時で70~80人の従業員が働いていますが、コロナウイルス感染者の受け入れ時に従事してもらうのは10人くらい。少し手当を出したこともあるかもしれませんが、その定員の何倍もの応募がありました。多くの従業員が代表と芙美子社長の想いに共感して頑張りたいと思ってくれたことに、正直救われましたね。
■シングル1泊1室2500円でも経営できた理由
「アパホテル&リゾート〈両国駅タワー〉」(東京都墨田区)は新築オープン前の受け入れでした。
周辺住民の方からは、最初は反対の意見もありました。当時はまだコロナウイルスについて今よりもわかっていないことが多く、「空気感染をするのではないか」と20~30メートル離れた住民の方から不安の声をいただくこともありました。そこで、東京都に資料を作ってもらって、コロナウイルスの感染経路が主に接触感染と飛沫感染であることや、患者さんの入所は専用の車で行うので接触の心配はないことを周知したのです。
周辺住民を説得するために、建設を担当した当社の一級建築士が直接出向いて説明したりもしましたね。そうしたら受け入れ開始日に、周辺住民の方の1人が「コロナ患者さんが早く回復するように」と千羽鶴をくださったのです。「アパホテル〈大阪肥後橋駅前〉」(大阪市西区)の受け入れのときも千羽鶴をいただきました。周辺住民の方々にも私たちの想いを理解していただけて、ほっと胸をなでおろしました。
従業員を感染から守るために、気を付けるべきことは徹底しました。自衛隊の方々に感染対策を指導していただいたりもしました。レッドゾーンとグリーンゾーンのゾーニング、防護服の正しい着脱方法などを教えていただいたのですが、彼らはプロ。おかげさまで従業員からはコロナウイルス感染者は出ませんでした。
コロナウイルス感染者の受け入れに加えて、このコロナ禍でもう1つ新しいことを行いました。「新型コロナウイルスに負けるなキャンペーン」です。これは、テレワークでの利用や長時間通勤による感染リスク軽減のため、アパ直(アパホテル公式サイト・アパアプリ)から予約することで、シングル1泊1室2500円(税サ込)~の特別料金でご宿泊いただけるプランです。感染者受け入れと同様、このコロナ禍で私たちができることは何かと考えた末の方針です。
それまで1泊1室の相場は1万円程度だったので、30~50代の出張族サラリーマンの方々の利用が多数でした。しかし、2500円という格安プランを出したことで、20代の若い層の利用も増えてきたのです。
このプランではアパ直からでないと予約できないようにしました。というのも、代理店を通すと2500円という低価格はとても実現できないからです。アパホテル会員数はこのキャンペーンが起爆剤となり開始前と比べてグンと伸びて、累積会員は現在1800万人いらっしゃいます。
この低価格キャンペーンは、アパホテルのような体力のある企業でないと実現しづらいと思います。うちも始めてからしばらくは赤字でしたしね。この機会に、今までアパホテルを利用したことのなかった方、例えば若い方などにもぜひ泊まってほしいと考えました。「競合のビジネスホテルよりも設備が進んでいて、きれいで、おしゃれで、郊外のロードサイドではなく都心の駅近の立地にあって、やっぱりアパは違うな」と感じていただくために今仕掛けたという狙いもありますから。
アパホテルはコンパクトな部屋に大きなベッドを置き、照明は明るくしています。そうすると、ベッドの上で本を読んだり、書類を広げたり、地図を見たりと、ベッドを寝るためだけでなく多目的に使うことができるのです。ミラーリングできるテレビも大変人気です。
■誰もが認める断トツ日本一のホテルチェーンとなる
このキャンペーンの効果もあり20年度も黒字となる予測です。2019年11月期連結決算では、ホテル業界で世界最強のわが社は経常利益335億円でした。さすがに20年はそこまでの結果は出せないと思いますが、50億円くらいの経常利益は見込んでいます。
20年6月に入ってからは、キャンペーンを使って泊まりに来てくださる方が増えて、稼働率が80%を超えた日もありました。最安値で2500円という破格なので赤字ぎりぎりですが、アパホテルを利用したことのないお客様にお試しいただくにはいい機会だと思っています。
コロナ以前からホテルは供給過多でしたが、都内のアパホテルはありがたいことに常に月間稼働率100%という状況にありました。それはお客様の利便性を考え抜いた部屋づくりに加え、「新都市型ホテル」を掲げて地下鉄の駅3分以内の交通アクセスのいい都心部に展開してきたからこその結果だと思います。
ご存じの通り、コロナショックで観光業界全体が大打撃を受けているので、この先は倒産するホテル会社もたくさん出てくるかもしれません。市場から撤退する企業の穴を埋めるように、より強いところがそのシェアを取ることで、ホテル業界でも寡占化が進むと考えられます。今後アパホテルが目指していくのは、その寡占化一番乗りをいち早く実現することなのです。
今、ホテル業界は百花繚乱期で、どこのホテルもシェア率は横並びで似たようなものです。しかし、この先もし20%以上のシェアを獲得するホテルが出てきたら、寡占化が始まっていると考えてよいのではないでしょうか。
インバウンド客の増加とオリンピック開催を理由に、政府はホテルの増設を進めていましたが、現状すでにホテルの空室が目立つ「オーバーホテル現象」が起こっています。このままでは、仮に21年、五輪が開かれたとして、その後にはさらに深刻な「第2次オーバーホテル現象」が起こるでしょう。コロナを理由にした業績悪化だけでなく、それによっても淘汰されるホテルが当然あると考えています。
いずれにせよ、われわれは積極的に他のホテルをM&Aしていく狙いでいます。
これまで北米に38ホテルを展開するホテルチェーンを買収し、札幌のグリーンホテルも買いましたが、何万室もあるような大きなホテルチェーンを買ったことはなかったので今後は情報があれば検討していきたいと考えています。ただ、それは収益に見合う価格にまで下がってから。
コロナで経営が厳しくなっているホテルがたくさんあり、銀行などから買収の相談はいただいております。ただ、まだまだ価格は下がると思いますので、支援融資している銀行が「もう回収の見込みはない」と判断し損切りせざるをえない状況になってから踏み切るつもりです。
コロナショックでうちの収益が約7分の1に下がっているといえど、資金力はまだまだ十分にあります。人、物、金、情報は結局は一番強いところに集まってきますから、ここはコロナに負けずM&Aに向けて踏ん張って、シェアを拡大していきます。ナンバー1になれば情報がすべてナンバー1に集中することになります。あとちょっとで、APAは誰もが認める断トツ日本一のホテルチェーンとなります。
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アパグループ代表
石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部通信教育部に入学するとともに、小松信用金庫(現・北陸信用金庫)に入社。27歳で独立し、71年、信金開発(アパグループの前身)を設立。現在、マンション、ホテル、リゾート事業など、18の企業からなるアパグループの代表を務める。
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(アパグループ代表 元谷 外志雄 構成=万亀すぱえ 撮影=横溝浩孝)
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