「痴漢された」と娘に相談されたときに絶対に言ってはいけない言葉
プレジデントオンライン / 2020年7月16日 9時15分
■性犯罪の80%は顔見知りによる犯行とも
警視庁生活安全課によれば、2019年は東京都だけで強制性交等は約240件、強制わいせつは約680件確認しているといいます。痴漢(迷惑防止条例違反)は、約1780件検挙されています。
しかし実際の発生件数は、この何倍にもなると推測されます。被害にあってもそれを申し出るハードルが高いことはむろんのこと、「恥ずかしいから」「自分が悪いのでは」「どうせ信じてもらえない」と一人で抱え込み、悩み苦しんでしまうことも少なくありません。
また、性犯罪の80%が顔見知りによるものといわれています(性暴力救援センター日赤なごや なごみによる)。親戚や知人など、親にとって信頼すべき人が犯人である場合も少なくありません。
通学路、学校、クラブ活動……いつ、どこで性犯罪に巻き込まれるかわからないと考えるのが正しいといえるでしょう。
子どもが性被害に遭うというのは、親にとっても非常にショックなできごとです。しかし親のいざというときの対応が、さらに傷口を広げてしまうことも少なくありません。
では、いざというときどのように対処するべきでしょうか?
■校内で被害に遭ったら、学校より先に警察へ
学校での性犯罪は、先生から行われるものだけでなく、子どもどうしで行われるものも実際には少なくありません。
学校の先生や同じ学校の生徒から性暴力に遭った場合、その学校の校長先生などに相談するより、警察や支援センターへ相談することをお勧めします。
学校内でヒアリングをしても、双方の言い分が異なっていて客観的証拠がなければ、学校としてなす術はありません。特に加害者が生徒の場合、学校としては加害生徒の将来も考えなければならない立場にあるため、被害者の救済が不十分な例が散見されます。
刑事事件としての立件を望むのであれば、警察やワンストップ支援センターに行き、被害に遭った子どもに精神的な症状がある場合は、性被害の専門知識のある精神科医の治療や、臨床心理士のカウンセリングを受けるようにしましょう。適切なケアを受ければ早い被害回復を見込めます。また、後日裁判になったときに、精神科のカルテや診断書は有力な証拠になります。
先生から児童への加害の場合、先生は発覚しないように犯行を重ねていることが多く、児童から児童への加害よりさらに対応が難しくなる場合が考えられます。
学校は捜査機関ではありませんし、人間関係も複雑に絡みます。ワンストップ支援センターや警察に行き、相談しましょう。
同じ先生が複数の生徒に性加害をしていることがありますが、客観証拠が乏しくても同様の被害届が出ていれば、立件しやすくなります。
■「もっと気をつけなさい」と言ってはいけない
子どもが電車で痴漢に遭った場合、親の対応として重要なのは「もっと気をつけなさい」「スカートが短いから」等と、子どもに非があるような態度を取らないことです。そのように言われると、子どもは二度と親に相談しないでしょう。
電車での痴漢は、単なる痴漢に終わらず、それが強制わいせつに発展したり、電車を降りてからも後をつけられてストーカー事件になることもあります。「痴漢」は軽視してはならない重大な犯罪です。
被害に遭った子どもの年齢にもよりますが、子どもから「痴漢に遭った」ことを知らされた場合、簡単に概要を聞いて、まずは警察に届け出ることが重要です。
子どもが制服姿の場合、学校を特定できるため加害者から顔を覚えられていることも少なくありません。繰り返し被害に遭う可能性があります。続けて被害に遭うようであれば、警察官と一緒に電車に乗り、現行犯逮捕してもらえる場合もあります。
また、学校にもよりますが、痴漢に遭ったことを連絡して、被害届を出す手続きなどに時間を取られても遅刻扱いしないよう交渉することも重要です。警察官によっては、自ら学校に電話してくれる場合もありますので、警察に頼んでみるのもひとつの方法です。
■身内からの被害は対応がもっと難しい
他方で、乗る時間帯を毎日変える、乗る場所も毎日変えるなどの自衛も心掛けた方がよいでしょう。もちろん、痴漢は被害者に落ち度はありません。痴漢する側のみが悪いです。しかしそうはいっても被害に遭わないようにすることも大事です。空き巣に遭わないために自宅の戸締りに気をつけるのと同じことです。
身内からの被害は、被害に遭った子の年齢、被害に気付いた人と加害者との関係などに大きく影響されるため、対応がさらに難しいでしょう。
例えば加害者が息子で被害者が娘の場合、親としては信じたくない心理が働き、「お兄ちゃんがそんなことするはずない」等と娘の言い分を否定したくなることもあるでしょう。
娘が被害に遭ったことに気づいたら、相談電話である「#8103」やワンストップ支援センターなどに相談しましょう。専門家のアドバイスに従い、被害者の心身のケア、事件化するための証拠の採取や警察への届出等を検討しましょう。
■親が絶対にしてはいけないこと
性被害を子どもから打ち明けられたら、親は何と声を掛けたらいいのでしょうか。『おとめ六法』(KADOKAWA)でも説明していますが、どのような場合であっても、絶対に怒らないことが第一に重要です。
子どもは勇気を出して打ち明けています。「そんな短いスカートをはいているから」など、子どもに落ち度があるような言い方はやめましょう。被害から時間が経過していても、「どうしていままで黙っていたの?」と問い詰めないでください。
また、「気のせいではないのか」「忘れたほうがいい」などと子どもが打ち明けた内容を否定する発言もやめてください。まずは子どもの言い分に耳を傾けてください。
そして話を聞いた後は、「よく話してくれたね」とねぎらい、「あなたはなにも悪くないのだから、安心してね」と言ってあげてください。
そして、なにに困っているのか、体調などを尋ね、早めに一緒に警察やワンストップ支援センターに相談に行きましょう。子どもが同意すれば、学校のスクールカウンセラーに相談してみるのもよいでしょう。
■心身に影響が現れたら、どうすればいいか
性被害にあうことは、とてもつらいことです。その影響は、心身にさまざまな症状となって現れます。うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したり、アルコール依存症になったり、薬物乱用に走る人もいます。
なかなか被害前の生活に戻れなかったり、前向きな気持ちになれなかったり、学校や会社に行けなかったり……しかしそれは被害者の精神力が弱いせいではありません。

専門家による治療を受けることは、被害前のその人自身に近づくうえではとても重要です。
全国の都道府県に、被害者支援センターがあります。センターの臨床心理士が、無料でカウンセリングや専門的治療を行っています。まずは連絡を取ってみましょう。
また各都道府県に、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターもあります。ここは性犯罪・性暴力に関する相談窓口で、産婦人科医療やカウンセリング、法律相談などの専門機関と連携しています。
問題が起きるのはいつも突然です。しかし法的手段にはメリット・デメリット両面あります。法律や手続きを知り、「こういう方法がある」と知っていれば、考えを整理できるだけでなく、その後どのように対処していくか、自身で選ぶことができます。
その過程の有無は、被害からの回復に大きく影響します。法律は、知っている人の味方になるのです。
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弁護士 第一東京弁護士会所属
福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。保護司。
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(弁護士 第一東京弁護士会所属 上谷 さくら)
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